第20話 一ヶ月目の記録
店をオープンして、あっという間に一ヶ月が過ぎた。
この一ヶ月、まともに布団で寝た記憶がない。だけど、山積するトラブルや終わりのない業務といった疲れを吹き飛ばすくらい、店には熱気と活気が渦巻いていた。
一階の焼肉屋は、初日からかなりの盛況だった。
バッドの母ちゃんに任せている一階で出す、キングオーグの肉。脂が炭火に落ちて上がるあの香ばしい匂いが通りまで漂えば、家路を急ぐ連中も、仕事を終えた肉体労働者も、吸い寄せられるように店の扉を押し開いてくる。
一ヶ月経っても客足は落ちるどころか、さらに増える一方だ。そろそろ整理券を配るか、完全予約制に踏み切らないと、厨房の現場がパンクしかねない。
一方、二階の店は、最初は少し立ち上がりが重かった。
この街で酒を出す店といえば、荒くれ者が怒号を飛ばす安酒場か、あるいは性的なサービスを売り物にする店くらいしかない。だからこそ、「隣に座って談笑しながら酒を飲むだけ」というこの店の仕組みを客に理解してもらうまで、最初の七日間は骨が折れた。
勘違いして手を出そうとする酔客を、俺やバッドが何度店外へ放り出したことか。
だけど、一週間を過ぎたあたりから、噂を聞きつけた商人や、息の詰まる仕事を終えた役人たちが、面白半分で階段を上がり始めた。
一度体験すれば、彼らは皆、笑顔で帰っていく。今や女の子たちの在籍は三十五人。常時二十五人体制で営業しているが、それでも週末のピーク時には空席待ちの列ができるほどだ。
二階の黒服と警備を任せているバッドも、慣れない正装で、酔った客のあしらいや案内を必死にこなしている。あのチャラついた動きも、今は頼もしい店の一部だ。
そんな忙しい日々のなかで、一つだけ俺が無理を言って通したことがあった。
ドナドのおやっさんに何度も頭を下げて、ミーナを週に一日だけ、店に出してもらうことにしたんだ。
初日こそ「心配だから」と、おやっさんも付いてきていたけど
……二回目からはその言葉を口実にして、おやっさん自身が一番店を楽しんでいる。
今ではミーナの出勤に関わらず顔を出して、本来は客を座らせないカウンターの隅が、定位置と化している。
「ガハハ! リュウジィ、この酒は喉に突き刺さるな! サービスしすぎじゃねえか?」
豪快に笑いながら、常連の客と肩を組んで杯を交わすおやっさん。
……まあいい。この人が笑ってくれているなら、この店を作った甲斐があるというものだ。
ミーナの方はといえば、週一回の出勤でまだ四回しか店に出ていないのに、早くも熱心な指名の客が数人ついていた。
最初はおどおどと震えていた彼女が、慣れないドレスを身に纏い、客の話を丁寧に聞きながら微笑んでいる。その姿を見るたび、自分の目に狂いはなかったと確信する。
「……兄貴。本日の売上、昨日の三%増です。送迎馬車のスケジュールも限界に近いですね」
事務の従業員たちをまとめながら、カエデさんが数字の並んだ羊皮紙を俺の前に差し出す。
バッドが身体を張って集めてきた子たちは、今やこの界隈でも評判の看板娘だ。
一階の肉を焼く騒々しい音と、二階から漏れ聞こえる楽しそうな笑い声。
俺はカウンターの端で大きく一息つくと、次の段取りを頭の中で組み立てた。
「よし、カエデさん。宿舎の増設と、新しい子の募集を早急に進めよう。……それから、おやっさんの酒代は、全部俺のツケにしておいてくれ」
滑り出しは好調だ。
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