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第19話 回転する運命と、スカウトの誤算



 店を回すための場所と仕組みは揃った。次は、そこで働いてくれる女の子たちの確保だ。


 前世で長く水商売の現場にいたから、声をかけて人を集めるなんて、慣れた仕事だと思っていた。

 だけど、現実は違った。


「……ちょっといいかな。今、仕事とか探してたりする?」

 

俺なりに丁寧に、落ち着いて声をかけてみる。

 だけど、こっちの女の子たちは、俺の見た目と独特の圧迫感にビビって、「ひっ、人攫い……!」なんて叫んで逃げていってしまう。

 ……おかしい。前世じゃこのやり方で、何度も店を軌道に乗せてきたんだけどな。

 

夕暮れ時。拠点に戻ると、意外な光景が目に入った。

「オーナー! また五人ほど働きたいって子が集まりましたよ!」

 バッドが、何やら興奮した様子で女の子たちを連れて帰ってきた。

(……何だあいつ。何か特殊なスキルでもあるのか?)

 俺は内心の動揺を抑えて、翌日、カエデさんと一緒にこっそりバッドの尾行をしてみた。

 

王都の大通り。ターゲットを見つけたバッドの動きは、俺の想像を遥かに超えていた。

 歩いている女の子の前で、バッドがいきなり側転をブチかましたんだ。

 キレキレの動きで着地すると、フラつく芝居をしながら女の子に寄りかかる。

「……あまりに可愛いから、目が回っちゃった。……うっ、ちょっと待って、クラクラする。ヤバいかも……君が話を聞いてくれないと、俺、倒れるかも……」


「えっ!? ちょっと、大丈夫なの!?」

 

女の子が慌ててバッドを支える。……一瞬で相手の懐に入り込んだ。

 そこからのバッドは速かった。

 パッと顔を上げ、両手で指鉄砲を作って女の子に向ける。

「バーン。……見つけた。君を探してたんだ。今日は、運命の出会いだよ」

「……ぷっ、あはは! 何それ!」

 女の子が吹き出した。

 バッドは現世で言うなら、すっきりした韓国風のイケメンだ。そんな恵まれた見た目の男が、あえておどけたような愛嬌を振りまく。そのギャップが、警戒している女の子たちの心の壁を一瞬で壊していく。

 

影から見ていた俺は、思わず額を押さえた。

「……カエデさん。あれ、どう思います?」

「オーナー。対象の隙を突いて、心理的な効果を……いえ」

 カエデさんが眼鏡の奥の瞳でバッドを見つめ、淡々と付け加えた。


「あれは、理屈じゃありません。断られても全然動じない、圧倒的な回数が生んだ力です。……ある意味、技術の極致かもしれませんね」

 

バッドを見て、前世の店にいたスカウトマンを思い出した。

 その頃の俺は、そいつを馬鹿にしていた。


 仕事はもっとスマートにやるべきだ。そいつは出っ歯で、ダサい髪型で、あんな三流のやり方なんて……。

 だけど、格好をつけていた俺の理屈は一蹴されて、あの馬鹿の一つ覚えみたいな熱量に、女たちが次々と心を開いていった。

 ……そうか。ここは王都だ. 綺麗な言葉より、目の前で体を張る熱さの方が、よっぽど信用されるってことか。

 俺は天を仰いで、深く溜息をついた。

「……馬鹿も使いよう、どころか……俺の方が馬鹿だったな」


 前世のプライドを捨てて、この世界の現実に合わせる。

 自分のやり方にこだわらず、勝てる手段は全部選ぶ。

 それが、この国で唯一無二の店を作るための、本当の正解なんだ。

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