↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46歳おっさんの形意拳が、異世界でチートになった 〜魔法も剣も届かない究極の拳法で、第二の人生を無双する〜  作者: 九条竜二


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/209

第18話 計算された護身





カエデさんを雇って三日。


店の準備と並行して、俺は彼女に護身術を教えていた。


働いてくれる女性たちを夜道で一人歩きさせるわけにはいかない。送迎馬車を用意するにしても、何かあった時に自分の身を守れるに越したことはない。


そこで、以前アグニ村の鍛冶屋に作らせた麟角刀をカエデさんに渡した。


先端が二股に分かれた、少し変わった形の武器だ。


本来は俺が使うつもりだった。


だが、ヒヒイロカネの靴で十分戦えることが分かってから、結局ほとんど使っていなかった。


「……いいですか。相手の力を正面から受け止めないでください。受け流すように、少しだけ角度を変える」


俺が麟角刀を動かして見せる。


「相手の力を逃がす……」


カエデさんは眼鏡を押し上げると、しばらく俺の動きを眺めていた。


そして突然、持っていた羊皮紙に何かを書き始めた。


「……?」


猛烈な勢いで数字と図を書き込んでいる。


「カエデさん?」


「なるほど」


「何が?」


「オーナーの動きは、相手の力を受け止めるのではなく、角度を変えて別方向へ逃がしているんですね」


「まあ……そうだけど」


「ということは、相手の力が強いほど、こちらの体力は必要ない」


「……まあ、理屈ではそうなる」


カエデさんは顔を上げた。


「三日あれば十分ですね」


「何が?」


「使えます」


「……え?」


隣でミスリルの剣を振っていたバッドが、素っ頓狂な声を上げた。


「ちょっと待ってよ。俺、兄貴に剣を教えてもらって何日経ったと思ってる?」


「知らないよ」


「俺なんてまだ全然わかんないのに!」


「お前は感覚で覚えるタイプだからな」


「カエデは違うの?」


「たぶん真逆だな」


カエデさんは少し考えてから、俺を見る。


「一度、試してもいいでしょうか?」


「バッド。カエデさんを突いてみて」


「俺が?」


「本気で」


「……マジ?」


「マジ」


バッドが剣を構える。


次の瞬間。


「――っ!」


鋭い突きがカエデさんへ飛んだ。


カエデさんは逃げなかった。


麟角刀の先端を、バッドの剣にそっと添える。


カンッ。


たったそれだけだった。


なのに、バッドの身体が大きく横へ流れた。


「うわっ!」


ドサッ!


バッドが石畳に転がる。


「……」


俺は黙ってカエデさんを見る。


カエデさんは羊皮紙に目を落とした。


「……計算通りです」


「いやいやいや!」


地面からバッドが飛び起きた。


「何それ! 俺の力、全部利用されたんだけど!」


「そういう技だからね」


「三日だよ!? 俺より上手く使ってない!?」


「お前は剣を振るだけなら天才なんだけどな」


「なんか褒められてる気がしない!」


カエデさんはそんな二人を気にする様子もなく、麟角刀を眺めている。


「面白い武器ですね。相手の力を利用するなら、私のように筋力のない人間でも十分扱えます」


「……十分どころか、かなり向いてると思うよ」


俺は苦笑した。


この人、武術を頭の中で組み立て直している。


普通は身体で覚えるものだ。


なのにカエデさんは、動きを見て、角度を考えて、数字に置き換えている。


……なんだ、この人。


ちょっと怖いぞ。


午後。


俺たちはカエデさんが決めた、女性従業員用の送迎ルートを歩いていた。


最短距離ではない。


街灯が多く、夜でも人通りがあり、衛兵の巡回もある道を選んでいる。


「ここなら安全ですね」


カエデさんが周囲を確認する。


「うん。女性が夜に歩くなら、この道のほうがいい」


俺も周囲を見回した。


「何かあった時、逃げ込める場所も考えておこう。働く人が安心できる店にしたいからな」


「承知しました」


その時だった。


道の先に、数人の男が立っていた。


どう見ても、まともな連中じゃない。


「おい、新顔」


男の一人がニヤついた。


「この道を馬車で通るなら、通行料を払ってもらおうか」


「……通行料?」


「そうだ。それと、その女。置いていけ」


バッドの手が剣に伸びる。


「兄貴」


「待て」


俺は手で制した。


「カエデさん」


「はい」


「やってみる?」


カエデさんが眼鏡を押し上げた。


「……はい」


男が剣を抜く。


「女が俺たちに勝てると思って――」


振り下ろされた剣が、カエデさんの目の前へ迫る。


だが。


カエデさんは一歩だけ踏み込んだ。


麟角刀が、男の剣に触れる。


ガキンッ!


剣が大きく弾かれた。


「なっ――」


そのまま麟角刀の柄が、男の顎へ入る。


ゴッ!


男が膝から崩れ落ちた。


「おい!」


二人目が斬りかかる。


カエデさんは身体を半歩ずらした。


剣が空を切る。


その勢いを利用して、足を払う。


ドサッ!


「ぐあっ!」


三人目が立ち尽くしている。


カエデさんはゆっくり近づき、麟角刀の先端を男の喉元へ向けた。


「抵抗はやめてください」


「ひっ……」


「これ以上続ける場合、骨折の可能性があります」


男の顔が引きつった。


「……に、逃げるぞ!」


三人は転がるように逃げていった。


静かになった。


カエデさんは眼鏡を直した。


「……終了しました」


「うん」


「所要時間、三・二秒」


「……」


「予定より〇・二秒遅れました」


「いや、そこ気にするところ?」


「誤差です」


「十分だよ」


俺が笑う。


その横で、バッドがものすごく悔しそうな顔をしていた。


「……何だよ、あれ」


「どうした?」


「俺、あんな動き教わってない」


「お前は剣を振るのが得意だからいいだろ」


「でもカエデは三日で俺より強くなってるじゃん」


「戦い方が違うんだよ」


カエデさんが淡々と答える。


「バッドさんは身体能力に頼りすぎです。もう少し身体の動きを分析したほうがいいと思います」


「……分析って言われてもなぁ」


バッドが頭を掻く。


「俺、剣を振ることしかしてこなかったし」


カエデさんが俺を見る。


「オーナー。この二人は放置して大丈夫でしょうか?」


「大丈夫。バッドは放っておけば勝手に強くなるから」


「兄貴、俺も数字を勉強したほうがいいのかな……」


「お前はまず、掛け算九九からだね」


「……そこから?」


俺はため息をついた。


店の開店まで、まだやることは山ほどある。


それでも。


少しずつだが、俺の店に必要な人間が揃ってきていた。




お読みいただきありがとうございました。もし気に入っていただけましたら、作品のブックマークや、下の星(☆☆☆☆☆)で応援をお願いします!次の更新の大きなエネルギーになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。