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46歳おっさんの形意拳が、異世界でチートになった 〜魔法も剣も届かない究極の拳法で、第二の人生を無双する〜  作者: 九条竜二


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第18話 計算された護身



カエデさんを雇って三日が経った。

 

 働く女性たちが夜道で怖い目に遭わないように、店までの安全な道のりを決めておく必要がある。俺は彼女に麟角刀(りんかくとう)の持ち方や、基本的な体の動かし方を教えた。

 

麟角刀りんかくとう――先端が二股に分かれており、魚の尾や麒麟きりんの角のように見えるのが特徴だ。刺す、切るだけでなく、二股部分で相手の刃を絡め取ったり、防いだりできる。形意拳の兵器だ。


元々は俺が使おうと思って、ヒヒイロカネの靴と一緒にアグニ村の鍛冶屋に作って貰ったけど、結局使わずじまいだった代物だ。

 

教え始めてすぐ、彼女の覚えの早さに少しゾッとした。

 

「……いいですか? 相手の力を正面から受け止めたらダメです。力を逃がすように、円を描く感じで動いて」

 

 俺がそう言うと、カエデさんは麟角刀を持ったまま、手元の羊皮紙に猛烈な勢いで動きの図を書き殴り始めた。

 

「……なるほど。オーナーの動きを分析すると、角度を少し変えるだけで、私みたいな体力のない人間でも相手の力をうまく逃がせるわけですね」


「……は?」


隣でミスリルの剣を素振りをしていたバッドが、気の抜けた声を出す。こいつは身体能力は化け物だけど、理屈はさっぱりわからないタイプだ。


「え、ちょっと待ってよ。そんな理屈で体なんて動くわけないだろ。三日で何をつかんだのさ?」


「バッド、ちょっとカエデさんを突いてみて。……本気で」

 

俺の合図でバッドが鋭い突きを繰り出す。カエデは引かずに、麟角刀の「角」をバッドの剣筋にそっと添えた。


次の瞬間、バッドの体が円を描くようにくるりと回って、地面に転がった。


「……計算通りですね。相手の勢いをそのまま回転に変えることができました」


この人、武術を全部頭の中で組み立て直してる。

 

「……十分だ。これならやっていける」

 

午後。俺たちはカエデさんが決めた「女性従業員用の送迎の道のり」を歩いて確認していた。


最短距離ではなく、外灯が多くて、見回りの衛兵がよく通る道を選んでいる。彼女なりに安全を考えてくれているんだろう。


「夜道は何かあると怖いからな。みんなが安心して働けるようにしてくれ」


 俺がそう言って周囲を見渡した時、道の先の袋小路で男たちが道を塞いでいた。この辺りで悪さをして金を巻き上げているチンピラたちだ。普段からこの場所で通行人を脅しては、小金を稼いでいる連中だった。


「おい、新顔。この通りを馬車で通るなら挨拶料を払えよ。……その眼鏡の女は、俺たちが預かってやる」

 

 バッドがすぐに剣へ手をかけたが、俺は目で制した。

 

「カエデさん、やってみてよ」

 

カエデは震えながら、麟角刀を抜いた。


相手が鼻で笑って、大きな振りで剣を叩きつけてきた。カエデは微塵も動揺せず、相手の軌道を読み切って一歩踏み込んだ。

 

「……力が直線的すぎます」

 

 冷静にそう呟くと、カエデは最小限の動きで男の剣に麟角刀を添えた。

 

 男の剣があらぬ方へ跳ね、カエデは流れるような所作で柄を男の顎に突き入れる。

 

 二人目が斬りかかってくるが、カエデは振り返りもせず、相手の死角に入り込んで足元を払った。男が石畳に叩きつけられる。

 

 三人目はもう立ち尽くしている。カエデは無表情のまま間合いを詰め、麟角刀の先を喉元に突きつけた。

 

「……抵抗はやめてください。骨を折られるか、大人しく引き下がるか、選択を」

 

 ぶっ倒れた2人も、痛みで顔を歪めながら立ち上がり、残りの1人と共に悲鳴を上げて逃げていった。

 

「……所要時間、三.二秒。予定より〇.二秒、誤差が出ました。申し訳ありません」

 カエデは眼鏡の位置を直し、冷静に呼吸を整える。

 

 バッドは剣を収め、悔しそうに顔を歪めた。

 

「……何だよ、あんなの。教わったことない動きだぞ」

 

「……筋肉の反動を計算しただけです。バッドさんも、もう少し自分の身体の使い方を解析したらどうですか?」

 

「……そんな理屈っぽいこと言われても分からないよ。俺は、剣を振るうことしかしてこなかったんだから」

 

 カエデは俺の方を向き、淡々と言った。

 

「……逃げましたが、このまま追撃しますか? それとも放置して先を急ぎますか?」

 

「……いいよ、放っておこう。店に戻ろうか」

 

「わかりました」


バッドは納得がいかない様子でぶつぶつ文句を言っている。背後で彼が「……兄貴、俺も数学とかいうのを覚えた方がいいんですかね」と呟くのが聞こえた。


「お前はまず、掛け算九九からだね」



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