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46歳おっさんの形意拳が、異世界でチートになった 〜魔法も剣も届かない究極の拳法で、第二の人生を無双する〜  作者: 九条竜二


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第17話 管理者の確保と「居場所」の論理




(モノローグ)

 店を営業するのに、お金の管理が出来る人間がまだいない。

 

現場担当はバッド他数名を確保出来た。だが、それに加えて店全体の売上やスタッフの管理を、すべて任せられるような数字に明るい人間が、どうしても必要だ。

 

俺はバッドを連れ、王都の隅にある奴隷市場へ足を運んだ。


「兄貴、エルフの踊り子でも買うんですか? それとも、ドワーフの力仕事?」


適当なことを言うバッドを軽く手で制し、俺は檻の最奥、最も日当たりの悪い場所にうずくまる女の前で足を止めた。


この世界の「奴隷制度」は、前世のイメージとは少し違う。

 

この王都は余所者を徹底的に嫌う排他的な街だ。身内や紹介状がなければ、国営の紹介所も民間の斡旋所も門前払い。だから、ツテもなく流れ着いた者は、自ら奴隷商に身を寄せる。

 

名目上は「奴隷」だが、その実態は生活保護の受給に近い。身の自由を担保に差し出す代わりに、最低限の衣食住を保証してもらうための「登録制度」だ。

 

俺にとってのドナドのおやっさんのような、身元を保証してくれる相手が見つからなかった連中は、ここで自分を雇ってくれる人間を待つしかない。

 

東の国の民族衣装をボロボロにしたその女は、虚空を見つめ、土の上に指で執拗に数字を書き殴っていた。


「……名前は」


俺の声に、女は焦点の合わない目で答えた。


「……カエデ、と言います。ですが、私を引き受けても無駄ですよ。私は、人の死を数えることしかできない人間ですから」


聞けば、かつて東の国で軍事的な損耗率を計算させられていたという。


あまりに多くの「死」を数字として処理しすぎたせいで、心が摩耗しきっていた。


「ちょうどいい。俺の店では、客に喜んでもらうための計算が山ほどある。……俺の店で、その力を貸してくれませんか、カエデさん」

 

俺はそのままゴルドを払い、彼女の身元を引き受けた。


宿で身なりを整えさせると、眼鏡の奥に知的な鋭さを秘めた、仕事ができそうな女が姿を現した。


俺は鍛冶屋に特注で打たせておいた、形意拳で使う武器の一つ――奇妙な形状の双刀、麟角刀りんかくとうを彼女の前に置いた。


本来お金の管理をするのに武器なんかいらない、だけどここは現世みたいな平和な世界じゃない。自分の身は自分で守る。


だから、護身の意味も含めて彼女に武器を持たす事にした。


「……武器、ですか?」


「麟角刀だ。カエデさんには店の管理と、俺の手が回らない時の実働を助けてもらいたい。扱いは俺が教えるから、安心してくれ」


「私は……人を傷つけるのは……」


「なら、カエデさん自身の身を守るために持っていてくれ。もう、死んだ人の数なんて気にしなくていい。ただ、店に何かあった時のために、自分を守るものとして持っていてくれ」

 

カエデの手が、震えながら麟角刀に触れる。その瞬間、彼女の目に宿ったのは、自分を機械ではなく人間として必要とした相手への信頼だった。


「……了解しました、オーナー。まずは、その『キャスト専用送迎馬車』のコスト計算と、最適な運行ルートの策定から取り掛かります」

 

カエデが即座に反応したのは、俺が話した送迎の考え方だった。

 

王都は広く、余所者の女が夜道を一人で歩くのは危険すぎる。だからこそ、遠方に住む女性たちを馬車で安全に送り迎えする。


「カエデさん、これはただの優しさじゃない。行き場を失った有能な女性たちに、うちで働いてもらうための準備だよ」


「……素晴らしい。いずれは、ここにいるようなツテのない女性たちの身元引き受け人にオーナーがなり、専用の宿舎も用意すべきでしょう。彼女たちにとって、この店は職場ではなく、守られた場所になります」


(モノローグ)

 ……ふと、自分の境迎を思い出した。

 俺には本当の両親の記憶がない。呪いのせいで、顔も、声も思い出せない。


そんな空っぽだった俺を拾い、身元を引き受けて、人として立てるようにしてくれたのがドナドのおやっさんだ。


おやっさんは、俺にとってこの異世界での「親父」そのものだ。

だからこそ、俺は知っている。

行き場のない人間に「居場所」があることが、どれほどの助けになるかを。

 

おやっさんがしてくれたように、誰もが真っ当に生きられる場所を作る。俺にできるのは、それくらいだ。


「……よし、カエデさん。その計算で行ってくれ。金は必要経費だ」

「了解いたしました。……計算完了です、オーナー」

 

現場のバッド。管理のカエデ。

そして、俺を支えてくれるおやっさん。


これで、ようやく体制が整った。



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