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46歳おっさんの形意拳が、異世界でチートになった 〜魔法も剣も届かない究極の拳法で、第二の人生を無双する〜  作者: 九条竜二


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第16話 狂犬の正装、兄貴の流儀





バッドを採用してから三日。


俺は王都の中心街に借りた、二階建ての建物の前に立っていた。


ようやく見つけた。


ここが、これから俺の店になる。


一階は、世界五大珍味――キングオーグの肉を使った焼肉屋。


そして二階は、この異世界にはまだ存在しない商売。


酒を飲みながら、女の子たちと楽しく話せる店。


つまり――異世界初のキャバクラだ。


前世で散々やってきた商売だ。


まあ、失敗もしたけど。


今回は同じ轍を踏むつもりはない。


「兄貴! まだ店の中、見て回っていい?」


「ああ。ただし壊すなよ」


「壊さないって!」


バッドの声が店内に響く。


……本当に大丈夫か、こいつ。


俺は小さくため息をついた。


まずは人材だ。


採用して三日しか経っていないが、バッドには色々とやってもらっている。


その一つが――身だしなみだ。


俺はまずバッドを床屋に放り込み、伸び放題だった金髪をミディアムショートに整えさせた。


清潔感が出るだけで、ずいぶん印象が変わる。


鋭い目つきも相まって、なかなかのイケメンだ。


「……お前、磨けば結構いい男になるな」


「マジで!? 兄貴、俺イケてる?」


「まあな。黙ってれば」


「そこは余計だろ!」


うるさい。


でも、こういうところは嫌いじゃない。


さらに服屋に頼んで、この世界にはないデザインの制服も作らせた。


白いVネックのシャツに、動きやすい短丈の黒いジャケット。


剣を差したままでも動きを邪魔しないよう、何度も採寸を繰り返した特注品だ。


そして、もう一つ。


「ほら。これも」


俺が差し出した剣を見て、バッドの目が輝いた。


ミスリル。


この世界では『銀輝石』と呼ばれている希少金属を使った剣だ。


武器屋の親父に頼んで、柄頭には狼の装飾まで入れてもらった。


バッドのイメージに合うと思ったからだ。


「うわぁぁぁ! かっけぇぇぇ!」


バッドが子供みたいに剣を眺めている。


「兄貴、これ本当に俺が使っていいの?」


「お前のだよ」


「最高だよ! 兄貴!」


いつの間にか、こいつは俺を『兄貴』と呼ぶようになっていた。


まあ、悪い気はしない。


雨風をしのげる宿も用意した。


母親が生活に困らないよう、当面の生活費も渡した。


武器も服も揃えた。


働く環境としては、これ以上ないくらい整えてやったつもりだ。


するとバッドは、驚くほど素直に店に馴染んだ。


問題は――素直すぎることだ。


俺が「やれ」と言えば、本当に何でもやりそうなのが怖い。


「それで兄貴、一階は何の店なの?」


「焼肉屋」


「焼肉?」


「ああ。キングオーグの肉を出す」


「ええっ!? あの肉を!?」


バッドが目を丸くする。


「そんな店、客が来るの?」


「来るよ」


俺は即答した。


「むしろ、来ない理由がない」


キングオーグの肉は、誰もが知っている高級食材だ。


しかも俺は、すでに王都へ肉を流通させるルートを作っている。


だったら次は、その肉を自分の店で売ればいい。


肉を卸すだけじゃない。


自分で料理して、自分の店で出す。


そのほうが儲かる。


そして何より――


俺自身が食いたい。


「一階の焼肉フロアは、バッドのお母さんに任せる」


「母ちゃんに?」


「ああ」


母親は今までマーケットでずっと売り子をやってきた。


接客経験がある。


だったら、一から素人を探すよりずっといい。


「……リュウジィさん。私のような者に、こんな大役を……」


「大丈夫ですよ。接客は慣れてるんでしょう?」


「はい。長年やっております」


「なら問題ない。バッドの母親でもあるし、変な奴を雇うより安心です」


「変な奴って誰のこと?」


横からバッドが口を挟む。


「お前」


「俺!?」


俺たちが話している横で、母親が小さく笑った。


まずは一階。


ここは、キングオーグの肉を気軽に食べられる店にする。


そのために、開店前から宣伝も始めた。


名付けて――


『キングオーグの贅沢弁当』。


一日五十食限定。


本来なら庶民が簡単に食べられない肉を、弁当にして売る。


最初は利益なんてほとんど考えない。


目的は宣伝だ。


珍しい。


美味い。


しかも、思ったより安い。


そうなれば、人は勝手に誰かへ話す。


案の定、数日もしないうちに王都で噂になった。


「キングオーグの弁当?」


「本物らしいぞ」


「五十食限定だってよ」


「朝から並ばないと買えないらしい」


開店前だというのに、店の前には少しずつ人が集まり始めていた。


よし。


一階は順調だ。


そして二階。


ここが俺のもう一つの本命だ。


キャバクラ。


この世界にはまだ存在しない。


だからこそ、面白い。


二階の店内は、リナを中心に作っていく。


「リナさん、二階は任せます」


「……本当に私が?」


「うん。ママをお願いしたい」


「ママって……私が?」


「そう。店の女の子をまとめて、お客さんを楽しませる。店全体を見る責任者だよ」


リナはしばらく黙っていた。


そして、少しだけ口元を緩めた。


「……わかった。やってみる」


これで二階も決まった。


リナがママ。


この店の女の子たちをまとめる。


俺は経営を見る。


前世では、店を大きくしすぎた。


人を増やしすぎた。


その結果、キャストの質が落ちた。


同じ失敗はしない。


この一軒を、とにかく強い店にする。


そんな準備をしていたある日のことだった。


店の前に、数人の男が現れた。


「おい」


一人が店内を見回す。


「ミスリルの剣をガキに持たせてるってのは、ここか?」


面倒なのが来たな。


俺が振り返るより早く、バッドが動いた。


一瞬だった。


男の懐へ入り込み、剣を抜く。


キィンッ!


次の瞬間には、男の喉元に剣先が突きつけられていた。


しかも――笑っている。


「ねぇ、兄貴」


バッドが俺を見る。


「こいつ、今すぐ殺していい?」


「……やめろ」


「えー」


「開店前なんだから。店の前で人を殺すな」


「でもコイツ、兄貴のこと馬鹿にしたよ?」


「だからって殺すな」


「ちぇっ」


バッドは不満そうに剣を引いた。


男たちは青ざめた顔で後ずさる。


……こいつ、本当に危ないな。


腕はいい。


忠誠心もある。


根っこの部分では、母親思いのいい奴だ。


ただし――


「バッド」


「ん?」


「俺がいいと言うまで、人を殺すな」


「了解!」


返事だけはやたらいい。


俺は頭を抱えた。


まあいい。


この有り余るエネルギーを、店のために使えばいいだけだ。


人を雇う。


料理を出す。


客を集める。


そして、金を稼ぐ。


やることは山ほどある。


俺は完成した店を見回した。


一階は焼肉屋。


二階はキャバクラ。


前世でやっていた商売を、異世界でもう一度。


ただし今回は、前とは違う。


失敗した経験もある。


金もある。


人もいる。


そして何より――


二度目の人生だ。


「……よし」


俺は拳を軽く握った。


「いよいよ開店だ」


ここからが、本当の勝負になる。





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