第16話 狂犬の正装、兄貴の流儀
採用から三日。
俺はまず、バッドを床屋に放り込み、ボサボサの金髪をミディアムショートに整えさせた。
さらに服屋に頼み込み、この世界にはないデザインの衣装を特注した。白のVネックTシャツ風のインナーに、剣の抜き差しを邪魔しない短丈の黒ジャケット。
ミスリル《銀輝石》の剣を買ってやった。
武器屋の親父がポンメル(剣の柄頭)に彫刻を入れられると言うので、
バッドのイメージの狼の彫刻を入れてもらった。
「……似合うじゃん。それがお前の、この店での『制服』ね」
整えてみれば、こいつはなかなかのいい男だ。……馬鹿だけど。
そのうちホストクラブも――なんて考えがよぎったが、それはまだ先の話だな。
「かっけぇぇぇ! 服も剣も最高だよ兄貴! 身体が軽すぎて、今ならキングオーグの首も一撃で飛ばせそうだぜ」
バッドは俺を「兄貴」と呼ぶようになった。
単なるビジネスライクな関係じゃない。ちゃんと実力を示して、必要な道具を揃えて、家族の生活までセットで面倒を見る。そうやって正面から向き合えば、バッドみたいなタイプは真っ直ぐに懐いてくる。結局、一番確実なのはこういう信頼関係だ。
俺は、一階の焼肉フロアをバッドの母親に任せることに決めた。
「……リュウジィさん、私のような者に、こんな大役を……」
「あなたはマーケットでずっと売り子をやってきたんでしょ。接客の基本ができてるなら、一階は任せられる。バッドの母親だし、変な奴を雇うよりよっぽど安心ですよ」
母親には、開店準備のプロモーションとして『キングオーグの贅沢弁当』を売らせた。市場価値の半値だが、毎日五十食の「完全限定」。
これが狙い通り、マーケットで爆発的な噂になった。希少な肉を「あえて出し惜しみ」し、手に入らない者を作り出す。その飢えた期待感こそが、店の価値を天まで押し上げる。
二階は、リナを「ママ」に据えたキャバクラフロア。
前世での俺の失敗は、店舗を広げすぎてキャストの質が落ちたことだ。今回は違う。この一軒、この場所でしか体験できない『極上の夜』という希少性を守り抜く。
そんな準備の最中、ふろむ・えーの残党らしきガキが、店にケチをつけに来た。
「おい、ミスリルの剣をガキに持たせてるってのは、ここかよ。おっさん、少しは……」
その瞬間、バッドが抜かせぬ速さで男の喉元に剣を突きつけ、屈託のない満面の笑みで俺を振り返った。
「ねぇ、兄貴。……コイツ、今すぐ殺っちゃっていい?」
「……おいバッド、何やってんだよ。そんなのほっとけよ。開店前なんだから。」
俺が呆れ気味に制すと、バッドは「ちぇっ」と舌打ちして剣を引く。
冗談抜きで、こいつは俺の言葉一つで本当に引き金を引きかねない。こういう危うい力を持て余している奴を、いかに安全な形で店の戦力として機能させるか。それが、この店を回していく俺の責任だ。
「……よし。これでようやく一通りの形はついたな。さあ、いよいよ開店だ。ここからが本当の勝負だな」




