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46歳おっさんの形意拳が、異世界でチートになった 〜魔法も剣も届かない究極の拳法で、第二の人生を無双する〜  作者: 九条竜二


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第15話 求人広告と、掃き溜めの『砲拳』




案内された『ふろむ・えー』は、石造りの無骨な建物だったが、中に入ると予想以上に活気があった。


入り口には、大きく「A」の文字が描かれている。それが、この場所の目印らしい。


「ここが『ふろむ・えー』よ。ショクアンとは違って、色んな事情を抱えた連中が集まる場所だから、少し気をつけてね」


リナがそう言いながら、手際よく俺を中へ案内してくれる。


中には、一攫千金を狙う冒険者もいれば、今日の食事代を稼ぐために仕事を探している人間もいる。身なりも年齢もバラバラだ。


アグニ村のショクアンとは、まるで違う。


あちらが国に管理された職業紹介所なら、ここはもっと雑多で自由な場所だった。


受付で人を雇いたいと伝えると、大きめの羊皮紙を渡された。


どうやら、ここに募集内容を書いて掲示板に貼るらしい。


掲示板の使用料は、一週間で三百ゴルド。


俺は代金を払い、さっそく羊皮紙に求人内容を書き込んだ。


【求人】


新規開店:焼肉・酒場『ギャングスター』


職種:ホール・警備・仕入れ・その他


待遇:極上のキングオーグ肉の賄い付き、制服支給。


備考:スキル判定不要。


美味い飯を食って、腰を据えて働きたい人、一緒に王都の夜を変えよう!


書き終えた羊皮紙を掲示板に貼った。


その瞬間、周囲がざわついた。


「……おい、賄いがキングオーグだってよ」


「そんなのハッタリだろ」


「キングオーグなんて、普通の人間が食える肉じゃねえぞ」


「でも、この求人……スキル判定不要って書いてあるぞ」


周囲から聞こえてくる声を、俺は適当に聞き流した。


すると、一人の少年がこちらへ近づいてきた。


「ねぇ、この募集って本当?」


無造作な金髪。


年齢は俺とそう変わらないように見える。だが、その目だけは妙に鋭かった。


「本当だよ」


「えー、マジで? 名前とかスキルとかは――あ、スキル判定不要なんだっけ。……いいの? 本当に」


「長く続けてほしいからね。向き不向きはあるけど、スキルだけで判断するつもりはないよ。名前を聞いてもいい?」


少年は肩をすくめて笑った。


「一応スキルは剣士でランクE。名前はバッド、十七歳。騎士学校にいたんだけど、学費が高いのと貴族の奴がうるさかったから、腕を切り落としてやったんだ。治癒魔術士がすっ飛んで来て、すぐにくっつけてたけどな。俺は退学。アハハ!」


バッドが笑い飛ばす。


その瞬間、周囲にいた人間たちが、すっと距離を取った。


「……あのガキだろ。騎士学校をクビになった……」


「剣士スキルのくせにパーティにも入れてもらえず、ここでくすぶってる問題児さ」


「関わらないほうがいいぞ」


ヒソヒソと陰口が聞こえてくる。


なるほど。


どうやら腕はあるらしいが、素行に問題があって、まともな連中からは敬遠されているらしい。


だが、俺はバッドの姿を改めて見た。


安物の剣。


けれど、刃はきちんと手入れされている。


そして、剣を握る手にはいくつものタコができていた。


少なくとも、遊んでいる人間の手ではない。


「俺、かーちゃん楽させたいから金欲しいんだよ。雇ってよ」


その言葉に、俺は少しだけ目を細めた。


問題児。


騎士学校を退学。


まともなパーティにも入れてもらえない。


それでも、母親を楽にするために金が欲しい。


悪くない。


むしろ、俺はこういう人間を探していたのかもしれない。


「バッド」


「ん?」


「採用試験だ。本気でかかってこい」


「ちょっと、いきなり何してるのよ!」


隣でリナが慌てて声をひそめる。


「まあいいから、見ててよ」


俺は軽く手を振って応えた。


バッドが目を丸くする。


「えっ、いいの? 死んじゃうよ」


「その前に、俺を倒してみなよ」


言った瞬間だった。


バッドの身体が沈む。


次の瞬間、地面を蹴って一気に飛び込んできた。


速い。


鋭い踏み込みだった。


「――ッ!」


剣が閃く。


俺は身体をわずかに捻り、紙一重で斬撃をかわした。


風圧が頬を撫でる。


(……速い)


(アグニ村で戦ったランクCの剣士より、よっぽど強い)


俺がそう考えた瞬間、バッドが楽しそうに笑った。


「へぇ、今のをかわすんだ」


「なかなかやるじゃないか」


「そっちこそ!」


バッドが再び構える。


俺も自然に構えた。


現世で俺がやり込んでいたのは形意拳だ。


だが、実際に戦う時の構えは、日本拳法の中段に近い。


前手も後ろ手もみぞおちの高さに置き、やや半身になる。


手は、大きめのボールを抱えるように開いている。


長年の稽古の中で、俺が一番使いやすいと感じていた構えだ。


「その剣、素材は何?」


「アイアンプレートだよ! 安物だけど、ちゃんと斬れるぜ!」


言葉が終わるより早く、バッドが踏み込んできた。


今度は、さっきより速い。


剣を振り下ろす。


俺はその軌道を見ながら、前手を伸ばした。


下からバッドの腕を跳ね上げる。


剣の軌道が逸れた。


その瞬間、俺は最短距離で懐へ入る。


形意拳、五行拳の砲拳。


本来なら、縦拳で身体の中心を真っ直ぐ撃ち抜く。


だが――。


今回は採用試験だ。


殺すつもりはない。


俺は拳を当てる直前に、指先を揃えた掌へと変えた。


――スパァァァァン!


乾いた音が響いた。


掌打がバッドの腹へ入る。


身体が、ふわりと浮いた。


「うぇぇぇ……」


バッドはそのまま数メートル吹き飛び、床に尻もちをついた。


「気持ち悪い……」


腹を押さえながら、バッドが呻く。


俺はその前まで歩いていき、顎を指先でクイッと持ち上げた。


「立てるか?」


「……むり」


「じゃあ、採用決定」


「え?」


「君を雇う」


俺は笑った。


「それと――お母さんもな」


バッドが目を丸くする。


「かーちゃんも?」


「君がそこまで母親を楽にしたいなら、家族ごと安心して暮らせるようにしてやるよ」


「……マジで?」


「ああ。だから、しっかり働いてくれ」


バッドはしばらく俺の顔を見つめていた。


やがて、ニッと笑う。


「……あんた、変な奴だな」


「よく言われるよ」


俺は手を差し出した。


バッドがその手を握る。


その光景を、リナは目を丸くしたまま見つめていた。


「……嘘」


「どうした?」


「今の動き……何なのよ」


リナの視線が俺に突き刺さる。


「一体、何者なの……?」


「ただの店主だよ」


「……絶対違うでしょ」


俺は苦笑した。


それよりも、バッドの腰にある剣へ目を向ける。


「君には新しい剣が必要だな」


「え?」


「俺が買ってやるよ」


「いいのかよ!」


「ああ。その代わり、しっかり働いてもらうぞ」


「任せろ!」


バッドは嬉しそうに笑った。


俺はその顔を見ながら思った。


(……一人目、か)


まだ店もない。


働く場所すら決まっていない。


それでも、少しずつ形になってきた気がする。


俺は立ち上がり、リナを見る。


「さて、次の人材を探そうか」


「……あなた、本当に店を作るつもりなのね」


「もちろん」


二度目の人生だ。


せっかくなら、自分が面白いと思えることを、とことんやってみたい。


そのためにも、まずは仲間を集める。


俺の異世界での商売は、ようやく始まったばかりだった。




お読みいただきありがとうございました。もし気に入っていただけましたら、作品のブックマークや、下の星(☆☆☆☆☆)で応援をお願いします!次の更新の大きなエネルギーになります!

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