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第15話 求人広告と、掃き溜めの『砲拳』


案内された『ふろむ・えー』は、石造りの無骨な建物だけど、中は結構活気があった。入り口の大きな「A」の文字が目印だ。


ショクアンみたいな堅苦しさはなくて、自由に仕事を探してる連中の熱気がすごい。スキル判定とか関係なく働きたい奴らが集まる場所。一攫千金を狙う冒険者もいれば、日銭を稼ぎたいだけの奴もいる。


ここの連中が狙うモンスターの魔石は高いけど、肉はマズすぎて食えたもんじゃない。逆に、俺が扱うキングオーグみたいな食料モンスターは肉は最高だけど、魔石には価値がない。


金になる石は持ってても、まともな飯を食えてない奴ばっかり。この街の冒険者の日常なんて、そんなもんだ。


俺は受付で木札を受け取って、求人を書き込んだ。


【求人】新規開店:焼肉・酒場『ギャングスター』

・職種:ホール・警備・仕入れ(不問)

・待遇:極上の肉(キングオーグ等)の賄い付き、安全靴支給。

・備考:スキル判定不要。

「魔石で腹は膨れません。まず美味い飯を食って、腰を据えて働きたい人、きなよ」


掲示板に貼った瞬間、ざわつきが止まった。

「……おい、賄いがキングオーグだってよ」

「ハッタリだろ。あんなの貴族の食いもんだぜ」

適当に聞き流してその場を離れようとすると、一人の少年が声をかけてきた。


「ねぇねぇ、この募集って本当? あんた、俺と歳変わんないみたいだけどさ」

無造作な金髪で、不敵に笑う少年。


ここの連中の中で、一人だけ目が死んでいなかった。


「本当ですよ」


「えー、マジで? 名前とかスキルとかは――」


少年はそこまで言って、掲示板の備考欄に目を戻した。


「あ、スキル判定不要なんだっけ。……いいの? 本当に」

「長く続けてほしいからね。スキルで判断はしないけど、向き不向きはある。……とりあえず、名前聞いてもいい?」


少年は肩をすくめて笑った。


「スキルは剣士ランクE、名前はバッド、十七歳。……騎士学校にいたんだけどさ、学費が高いのと貴族の奴がうるさかったから、腕を切り落としてやったんだ。首だよ、首。医療魔術士がすぐにくっつけてたけど、俺は退学。アハハ!」


バッドが笑い飛ばした瞬間、周りの連中がスッと引いたのが分かった。

「……おい、あのガキだろ。騎士学校をクビになった……」

「剣士のくせにパーティにも入れてもらえず、ここでくすぶってる問題児さ」


ヒソヒソと交わされる陰口が、俺の耳にも届く。なるほど、腕はあっても素行が悪くて、まともなパーティには相手にされていないってわけか。


「俺、かーちゃん楽させたいから金欲しいんだよ。雇ってよ」


嘘じゃないな。腰の剣は安物だけど手入れはされてるし、手のタコを見ればどれだけ真面目にやってきたか一目でわかる。


「お母さんは何をされているんですか?」

「マーケットで売り子だよ」

「……そうですか」


俺は広場の真ん中へ歩いた。

「バッド、きなよ。……採用試験だ。本気で、殺す気でかかってこい」


「喧嘩は困ります!」なんて叫んでる職員は無視。


「ええっ、いいの? 死んじゃうよ」

バッドが言った瞬間、もう斬りかかってきてた。鋭い。だけど、予備動作の小さい一撃だ。冷静に見て、紙一重でかわす。

(アグニ村のランクCより、よっぽどいい筋してるな。嫌いじゃない)


「へぇ、今のをかわすんだ」

バッドが楽しそうに笑って、また構える。俺も、前世で趣味としてやり込んでいた形意拳の構えを、自然に取っていた。


「その剣、素材は何?」


「アイアンプレートだよ。安物だけど斬れるよ!」


バッドが真っ直ぐ踏み込んでくる。俺はその内側に入った。前手でバッドの腕を下から跳ね上げて、最短距離で腹を狙う。


形意拳五行拳の砲拳の応用。普通なら、縦拳で膻中をそのまま撃ち抜くところだが、俺は当たる直前に拳を解き、指先を揃えた掌へと変えて、その瞬間に止めた。


――スパァァァァン!


乾いた音が響いて、バッドの体が浮いた。床に尻もちをついて、そのまま動けなくなる。

「うぇぇぇ……気持ち悪……」

腹を押さえて呻いてるバッドの顎を、俺は指先でクイと持ち上げた。


「採用決定です。君も、お母さんもな」


驚いてるバッドに、笑って言った。

「君には、靴じゃなくて『ミスリルの剣』が必要だな。……俺が買ってやるよ」



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