第14話 国家の管理と掃き溜めの境界線
ハニーブロンドのロングヘアーの彼女の名前はリナ。二十四歳。
今は化粧気のない、少しツンとした雰囲気だが、よく見るとかなり綺麗な顔をしている。化粧をすれば、かなり映えるだろう。
話してみてわかったのは、言葉遣いとは裏腹に、かなり面倒見がいいということだった。
さっき酒場で酔っ払いをあしらっていた時もそうだ。相手を刺激せず、かといって言いなりにもならない。あの距離感は、なかなか真似できるものじゃない。
このギャップもいい。
「リナさん。人を雇いたいんですが、この街ではみんなどうやって仕事を探しているんですか?」
俺はリナの隣を歩きながら、この街の「働き口」について尋ねた。
商売を始めるなら、まず人が必要だ。
そして人を集めるなら、この世界で人間がどうやって仕事を探しているのかを知らなければならない。
現世だって、求人サイトやハローワーク、派遣会社など、人を雇うための仕組みがいくつもあった。
異世界だからといって、そこまで何もかも違うとは思えない。
「そうね……。基本は、あの中央広場にある巨大な石造りの建物よ。国営の職業安定所、通称『ショクアン』があるの」
リナは、中央広場でもひときわ目立つ、重厚な石造りの建物を指差した。
「へえ……」
俺は建物を見上げた。
(……俺が最初に連れて行かれたショクアンとは、規模が全然違うな)
あの時の建物は、もっと小さくて、役場のような雰囲気だった。
それに比べて、目の前の建物は、いかにも国が管理していますと言わんばかりの威圧感がある。
「ここは、この国の国民か身元引受け人がいないと、仕事を紹介してもらえないの。必ずスキル判定があって、その結果に合わせて仕事を紹介してくれる仕組みよ。スキル次第ね」
「スキルで仕事が決まる?」
「そう。給料の高い安いに関係なく、安定はしてるけどね。もちろん、ハズレスキルとかなら、ろくな仕事はないけど」
(ハズレスキルなんだが、俺は)
俺は苦笑した。
ショクアンなら知っている。転生して最初に連れて行かれた場所だ。
あそこは国が管理する場所で、スキルによって仕事が決まる。
俺の形意拳も、最初はただの「武道家スキル」として扱われた。
戦うためのスキルでありながら、この国では六十年も前から、武道家スキルを持つ者が兵士として雇われることは禁止されている。
そのため、武道家は騎士にもなれず、公に傭兵として登録することもできない。
俺のような立場の人間に用意されているのは、肉体労働や、見世物として闘技場で戦う仕事くらいだ。
(……そりゃ、ハズレスキル扱いにもなるよな)
俺は小さく息を吐いた。
そんな場所に、俺が欲しいと思える人材がいるとは思えなかった。
「……じゃあ、管理されるのを嫌うような、野心のある連中はどこにいるんですか?」
「野心のある連中?」
「ええ。国に言われた仕事をするんじゃなくて、自分で何かやろうとしてる人たちです」
リナは少し考えるように顎に手を当てた。
「それなら、街の北側。掃き溜めの境界にある『ふろむ・えー』ね」
「…………」
俺の足が、一瞬止まりかけた。
「そこは冒険者の募集が中心の、民間の職業紹介所よ」
「……ふろむ・えー?」
「そうだけど?」
聞き間違いじゃない。
脳裏をよぎったのは、駅の売店やコンビニのラックに刺さっていた、あの黄色い求人誌だった。
(……ふろむ・えー?)
(嘘だろ。異世界だぞ、ここ)
(どこのどいつだ、こんな名前に決めた奴は)
(アルバイトニュースじゃねぇだけ、まだマシか……?)
俺は込み上げてくる笑いを必死に堪えた。
危ない。
ここで笑ったら、リナに変な奴だと思われる。
「てか、掃き溜めの境界って?」
何とか話題を戻す。
「スラム街に向かう道の入り口近くにあるから。実際のスラム街は、馬車に乗って少し行ったところだけどね」
「……なるほど」
俺は改めて北の方角を見る。
スラム街。
それだけ聞けば、まともな人間が集まる場所とは思えない。
だが、俺にとってはむしろ好都合だった。
「ふろむ・えー」は、ショクアンとは違う。
「ショクアンと違って、スキル判定もないし、スキルの種類に関係なく仕事を斡旋してくれるわ。基本的に冒険者募集が八割だけど、日雇い的な仕事もけっこうあるよ」
「へえ」
「国が人手を求めているときも、あそこに依頼を投げるくらいよ」
なるほど。
管理されたショクアンとは正反対だ。
スキルという制限に関係なく動ける場所か。
現世で言うなら、学歴不問のフリーター募集の場所に近い。
あそこなら、国の基準からはみ出した連中がたくさんいそうだ。
俺が欲しい面白い人間が見つかるかもしれない。
「冒険者なら、実績を上げれば『王家直属』として年俸制で雇われる道もあるけれど、成果が出せなければ即解雇。それ以外は、今日を生きるための仕事を探すような、自由で不安定な場所ね」
「……なるほど」
管理されたショクアンとは正反対だ。
スキルという枠から外れた人間でも、自分の力で仕事を探せる。
そういう場所なら、俺の店に向いている人間もいるかもしれない。
多少クセがあってもいい。
むしろ、その方が面白い。
「よし。リナさん、案内してくれ。その『ふろむ・えー』へ行ってみよう」
「……本当に行くの?」
「もちろん」
「なんか、すごく楽しそうな顔してるけど」
「そう?」
「そうよ。さっきまでより、ずっと楽しそう」
俺は思わず笑った。
「面白い人間がいるかもしれないからね」
リナは少し呆れたように俺を見る。
「……変な人」
「よく言われます」
俺はそう答えて、リナの隣を歩き出した。
ショクアンでは見つからなかった人間が、ふろむ・えーにはいる。
そんな予感がしていた。
俺の胸には、少しずつ期待が膨らんでいた。
新しい店。
新しい仲間。
そして、まだ誰も知らない新しい商売。
二度目の人生。
どうせなら、面白いことをやってみよう。
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