第13話:引き抜きの流儀
「……本気なの? それ、どこで手に入れたお金よ」
俺がカウンターに置いた30000ゴルドを見て、彼女が小さく息を呑んだ。
「怪しいお金じゃないよ。ちょっとした商売の報酬。……君を雇いたいんだ。今の三倍は出すし、この程度の客にジョッキを叩きつけられるような場所からは卒業させてあげる。どうかな?」
彼女は俺の目をじっと見つめ、それから金貨に視線を落として、困ったように笑った。
「……条件は悪くないけど。でも、勝手に辞めるわけにはいかないわよ。店主にだって都合があるし、この街で勝手に引き抜きなんてやったら、立場も危なくなるわよ」
「そのへんは、俺がちゃんと話をつけてくる」
俺は席を立ち、奥で不機嫌そうにこちらの様子を伺っていた店主のところへ歩いていった。
「おやじさん。彼女、うちの店でスカウトしたいんだ。……これ、急に抜けちゃう分の補填と、今までの手間賃。これでいいよね?」
店主の目の前に、5000ゴルドを無造作に置く。
店主の顔が、驚きから欲望へ、そしてだらしない笑みへと一瞬で変わった。
「これだけあれば、腕の良い給仕をすぐ雇えるでしょ。おやじさんにとっても、悪い話じゃないはずだ」
店主は、もはや頷くしかなかった。
「……あ、あぁ。これだけ包んでくれるんなら、文句なんてねえよ。……好きにしな」
「交渉成立。ありがと」
俺はそれだけ言うと、唖然としている彼女に軽く手を振って合図した。
「行こうか。君の新しい仕事、まずは『市場調査』からお願いしたいんだ」
店を出て、活気のある通りへと連れ出す。
並んで歩き出すと、彼女が問いかけてきた。
「……本当に何者? お金の使い方が全然子供じゃないんだけど」
「さあね。……それより、一つ教えてよ」
俺は適当に笑って受け流すと、視界の先、王宮に次ぐ巨大さを誇る石造りの建物を見上げて本題を切り出した。
「君っていう人材は確保したけど、店を回すにはもっと人数が必要なんだ。この街で『働き口』を探してる人たちって、普段どこに集まってるの?」




