第13話:引き抜きの流儀
「……本気なの? それ、どこで手に入れたお金よ」
俺はがま口から、さらに金貨を取り出し古びた木製のカウンターに並べた。
総額300000ゴルド。
その鈍い輝きを見つめ、彼女は小さく息を呑んだ。店内の薄暗い灯りに照らされた金貨は、ここが場末の酒場であることを忘れるほど場違いに主張している。
彼女は目を見開いて、驚きを隠せない様子だった。
「怪しいお金じゃないよ。ちょっとした商売の報酬だ。……君を雇いたいんだ。ここで貰ってる三倍は給金を出す。それに、ここで働いてても楽しくないでしょ?今とは違う景色が見れるチャンスだと思うけど」
彼女は俺の目をじっと見つめ、一瞬の沈黙を置いたあと、金貨の山へと視線を落として、困ったように細く笑った。
「……条件は悪くないけど。でも、勝手に辞めるわけにはいかないわよ。店主にだって都合があるし、雇って貰った恩もあるし」
(この義理堅い所が、ますます気に入った)
「そのへんは、俺がちゃんと話をつけてくる」
俺は席を立ち、カウンターの奥で腕を組み、こちらを不機嫌そうに伺っていた店主のもとへ歩いていった。足音が床の木板を叩く。店主の額には脂汗が滲み、俺の動きを警戒するようにじろりと睨みつけている。
「おやじさん。いきなりで本当に申し訳ないんだけど、彼女をうちの店で働いて欲しいんだけど。……これ、急に抜けちゃう分の補填と、今までの手間賃。これじゃだめかな?」
俺は店主の目の前のテーブルに、50000ゴルドを音を立てて置く。店主の顔色は驚きから次第に欲望へ、そして最後は醜く卑しい笑みへと一瞬で塗り替えられた。
金貨の重みを確認するように、その手が震えている。
「これだけあれば、すぐに違う人を雇えるんじゃない?おやじさんにとっても、悪い話じゃないでしょ?」
店主は目の前の金貨を食い入るように見つめると、パッと表情を輝かせて何度も頷いた。
「……あ、あぁ。これだけ包んでくれるんなら、文句なんてねえよ。……好きにしなよ」
「交渉成立だね。ありがとう」
俺はそれだけ言い捨て、唖然として立ち尽くす彼女に向かって軽く手招きをした。
促されるように、彼女はよろよろと俺の側まで歩み寄ってくる。カウンターから離れる際、彼女は一度だけ、今まで自分が働いていた場所を後ろ髪を引かれるような様子で振り返った。
「行こうか。まずは街の情報集めから始めてみよう。君に頼みたいこと、山積みだからさ」
重い扉を開けて店を出ると、外は活気のある街の喧騒に満ちていた。人々の話し声や荷車の車輪の音が混ざり合い、店内の淀んだ空気とは別の場所に来たことがわかる。並んで歩き出すと、彼女は俺の横顔を伺うように問いかけてくる。
「……本当に何者? お金の使い方が全然子供じゃないんだけど」
(そりゃあ、中身46歳のおっさんだからね)
「さあね。……それより、一つ教えてよ」
俺は適当に笑ってその質問を受け流すと、視界の先にある、王宮に次ぐ巨大さを誇る重厚な石造りの建物を見上げて本題を切り出した。夕暮れの光が建物に反射し、冷たい陰影を作っている。
「君を雇ったのはいいんだけど、まだ人が足りないんだ。この街で仕事を探してる連中って、普段どこに溜まってるか知ってる?」
お読みいただきありがとうございました。もし気に入っていただけましたら、作品のブックマークや、下の星(☆☆☆☆☆)で応援をお願いします!次の更新の大きなエネルギーになります!




