第12話:市場の端の逸材
さっき俺を詐欺師扱いした娘は、広場の端にある安酒場で働いていた。
酔っ払いの絡みを「はいはい、すごいですね」と適当に流し、キレる一歩手前で次の注文を取る。特別なことはしていないが、相手の熱量を冷ますタイミングがとにかくうまい。
ただ、中には話が通じない相手もいる。
カウンターの男が、自分の話を聞き流されたことに腹を立ててジョッキを叩きつけた。
「おい、待てよ! 人の話を聞けよ!」
男が勢いよく立ち上がる。
彼女は怯える様子もなく、
「あ、これ長くなるな」
という顔をして面倒くささを隠さなかった。
このまま揉めれば、店全体の空気が悪くなる。
俺は男の隣にスッと立ち、その肩を軽く叩いた。
「まあまあ、落ち着きましょうよ。そんなに飲み足りないなら、次は俺が一杯奢るからさ。な? 悪いこと言わないから、一旦席に座って下さいよ」
男は俺を睨みつけ、なおも食ってかかろうとしていたが、店内の他の客たちから冷ややかな視線を向けられていることに気づくと、肩をすくめて舌打ちをした。捨て台詞を吐きながら、慌ただしく店を出ていく。扉が閉まる音が店内に響いた。
「……またあなた? 営業妨害なんだけど」
静かになった店内で、彼女が深いため息をつきながら俺を睨む。
「助け舟のつもりだったんだけどな。……でも、今の客あしらい上手いね」
俺は空いた席に勝手に座り、彼女を見上げた。
「あんな面倒な客の相手をしながら、ここで働いているのは、もったいないと思って。……ちょっと真面目な話、してもいい?」
「真面目な話? 詐欺師が?」
「だから詐欺じゃないって」
彼女は布巾を肩にかけると、心底疑わしそうな目で俺を見た。
「あんた、さっき広場で『自分は46歳だ』なんて言ってたじゃない。頭、大丈夫なの?」
「あー、あれは……まあ、忘れて。
彼女はルックスもいい、この気の強さもいい。ルックスは磨けばさらに輝くだろう。
そもそも気の弱い女性は水商売には向いてない。
今の貴女の客あしらいを見て確信した。
「貴女ならもっとマシな稼ぎ方ができる。俺と一緒に、この街にない店、作ってみませんか?」
「本当娼館とかじゃないのね」
「違いますよ。お酒を飲んで会話してお客さんの相手をする店です。わからない事は、俺が教えますから」
「貴方けっこう若いよね?お店を出すって言ってるけど、それなりにお金かかるわよ。お金あるの?」
俺は懐から革製のがま口を出して、そこから数枚のゴルド(この世界の通貨)を出してカウンターに置いたいて、さらにゴルドが目一杯入った、がま口を彼女の目の前で振って見せた。
硬貨がカウンターにカツンと当たる。彼女はそれをじっと見つめ、次に俺の顔を交互に見た。困惑と少しの期待が混じった表情で、彼女が黙り込む。俺は彼女の反応を待ちながら、言葉を続けた。
「これが店の準備資金の一部だよ。場所さえ借りられれば、明日からでも準備を始められる。君のその接客なら、必ずいい店になるよ」
現世でウケてる商売が、この異世界で受け入れられるかは、わからない。
だけど試してみたいと思った。
どうせ二度目人生だから。
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