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46歳おっさんの形意拳が、異世界でチートになった 〜魔法も剣も届かない究極の拳法で、第二の人生を無双する〜  作者: 九条竜二


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第12話:市場の端の逸材


さっき俺を詐欺師扱いした娘は、広場の端にある安酒場で働いていた。


店に入ってしばらく様子を見ていると、彼女の接客が目に入った。


酔っ払いに絡まれても、


「はいはい、すごいですね」


と適当に相槌を打ちながら、相手がキレる一歩手前で自然に次の注文を取る。


特別なことをしているようには見えない。


だが、相手の熱が上がりすぎないところで、絶妙に話を切り上げる。


(……上手いな)


こういう客あしらいは、簡単そうに見えて難しい。


ただ、中にはどうしても話が通じない客もいる。


カウンターに座っていた男が、自分の話を適当に流されたことに腹を立て、ジョッキをテーブルに叩きつけた。


「おい、待てよ! 人の話を聞けよ!」


男が勢いよく立ち上がる。


彼女は怯える様子もなかった。


むしろ、


「あ、これ長くなるな」


とでも言いたげな、面倒くさそうな顔をしている。


(なるほど。ああいう客にも慣れてるのか)


このまま揉めれば、店全体の空気が悪くなる。


俺は席を立ち、男の隣へスッと歩いていった。


そして、肩を軽く叩く。


「まあまあ、落ち着きましょうよ。そんなに飲み足りないなら、次は俺が一杯奢るからさ。な? 悪いこと言わないから、一旦席に座ってくださいよ」


男は俺を睨みつけた。


まだ何か言い返そうとしていたが、ふと店内を見回した。


他の客たちが、冷ややかな視線を向けている。


さすがに居心地が悪くなったのか、男は肩をすくめて舌打ちした。


「……チッ」


捨て台詞を吐きながら、男は慌ただしく店を出ていく。


バタン。


扉が閉まる音が、静かになった店内に響いた。


「……またあなた?」


彼女が深いため息をつきながら、俺を睨んだ。


「営業妨害なんだけど」


「助け舟のつもりだったんだけどな」


俺は苦笑した。


「……でも、今の客あしらい上手いね」


「褒めても何も出ないわよ」


「いや、本当にそう思ったんだ」


俺は空いている席に腰を下ろした。


「こんな面倒な客の相手をしながら、ここで働いてるのは、ちょっともったいないと思ってさ」


「……何よ」


「ちょっと真面目な話、してもいい?」


「真面目な話?」


彼女は布巾を肩にかけ、疑わしそうな目を俺に向けた。


「詐欺師が?」


「だから詐欺じゃないって」


思わずため息が出る。


「そういえば、あんた。さっき広場で『自分は46歳だ』なんて言ってたじゃない」


「あー……」


「頭、大丈夫なの?」


「……それは忘れて」


自分でも、あれは説明できない。


というか、俺自身にもよく分からない。


それより――。


改めて彼女を見る。


ルックスも悪くない。


だが、それ以上に気になったのは、その気の強さだった。


客に絡まれても怯まない。


相手の様子を見ながら、自然に会話を切り上げる。


こういう仕事では、気が弱すぎる人間は続かない。


俺は前世で店をやっていたからこそ、それが分かる。


(……この子なら、いける)


「貴女なら、もっとマシな稼ぎ方ができると思う」


「……どういう意味?」


「俺と一緒に、この街にない店を作ってみませんか?」


彼女の眉が上がった。


「……本当に娼館とかじゃないのね?」


「違いますよ」


俺は苦笑した。


「お酒を飲んで、お客さんと会話をして、楽しく過ごしてもらう店です」


「それでお金を取るの?」


「そう」


「……変な商売」


「まあ、この世界にはないみたいだからね」


彼女はしばらく黙って俺を見つめた。


「でも、あなたけっこう若いよね?」


「そうですね」


「店を出すって言ってるけど、それなりにお金がかかるでしょう。お金、あるの?」


「ありますよ」


俺は懐から革製のがま口を取り出した。


そこから数枚のゴルド硬貨を取り出し、カウンターに置く。


カツン。


硬貨が木のカウンターに当たった。


さらに、がま口を彼女の目の前で軽く振ってみせる。


チャラチャラチャラ……。


中には、まだ大量の硬貨が入っている。


彼女は硬貨を見つめた。


そして、俺の顔を見る。


また硬貨を見る。


困惑と、ほんの少しの期待が入り混じった表情だった。


「……これが店の準備資金の一部だよ」


俺は言った。


「場所さえ借りられれば、明日からでも準備を始められる」


「……本当に?」


「本当」


俺は彼女をまっすぐ見る。


「君のその接客なら、必ずいい店になるよ」


現世で受けていた商売が、この異世界でも通用するのか。


正直、それは分からない。


キャバクラというもの自体、この世界では誰も知らない。


だからこそ――。


試してみたい。


どうせ二度目の人生だ。


一度目の人生でやってきたことを、もう一度やる必要なんてない。


だったら。


誰もやったことのないことを、やってみればいい。


俺はそう思った。


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