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46歳おっさんの形意拳が、異世界でチートになった 〜魔法も剣も届かない究極の拳法で、第二の人生を無双する〜  作者: 九条竜二


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第11話:ヤツハカ村の門出(ドナドさんの義理と王都)




人を集めて荷馬車を買い、キングオーグの肉を王都まで滞りなく運ぶ仕組みが整ったおかげで、精肉商売は順調そのものだった。


村に漂っていた血の臭いは、いつの間にか肉を焼く香ばしい匂いに取って代わられていた。


拠点にした「墓場の村」も、以前とは比べものにならないほど活気づいている。


村の長老からは何度も感謝された。


「村の名前を、リュウジィ村にしてはどうでしょう」


「いや、それはやめてください」


俺は即答した。


そんな名前を付けられたら、落ち着いて暮らせない。


それでも長老たちは、どうしても新しい名前を付けてほしいと言って聞かなかった。


仕方なく、俺は適当に口にした。


「……じゃあ、ヤツハカ村で」


霧が深くて、どこか昔テレビで見た村の雰囲気に似ていた。


それだけの理由だった。


(古谷一行の金田一耕助は好きだったな。志村けんさんもネタにしてたっけ。「八つ墓村の祟りじゃぁぁぁ」って……)


思わず苦笑する。


まあ、名前なんてそんなものでいいだろう。


そもそも、キングオーグは二十人がかりでも命を落とすことがある化け物だ。


まともに戦っていたら、いくら命があっても足りない。


だから俺は、村の若者たちと何度も話し合いながら、「どうすれば安全に、効率よく倒せるか」を考えた。


そして行き着いたのは、実に原始的な方法だった。


村で一番足の速い人間が囮になる。


キングオーグをギリギリまで引きつける。


そして、あらかじめ掘っておいた深い落とし穴に落とす。


動けなくなったところを、長い槍で全員で仕留める。


単純な方法だ。


だが、これが驚くほど効果的だった。


(なんで今まで、こんな簡単な方法を誰も思いつかなかったんだ?)


答えは簡単だった。


キングオーグを狩りに来る連中は、ほとんどが自分のことしか考えていなかったからだ。


他人を囮にしてでも、自分だけが儲かればいい。


そんな考え方では、協力なんてできるはずがない。


俺は村の若者たちに何度も説明した。


「一人でやるより、みんなで協力したほうが安全だ。それに、結果的に全員が儲かる」


最初の狩りは、そう簡単にはいかなかった。


囮役が早く逃げすぎたり、穴の位置がずれていたり、槍を突くタイミングが合わなかったり。


何度も失敗した。


そのたびに、みんなで集まって話し合った。


「ここをもっと深くしよう」


「囮は、もう少し引きつけてから逃げたほうがいい」


「槍を持つ奴は、もっと近くで待っていたほうがいい」


少しずつ修正していく。


そして何度も繰り返すうちに、狩りの成功率は目に見えて上がっていった。


そうなれば、もう俺が毎回狩りに出る必要はない。


俺は仕組みを作った代金として、売り上げの一部をもらうことにした。


(村が活気づいていくのは、悪くないな)


だが――。


(……そろそろ、他のこともやってみたい)


俺には、まだやりたいことがあった。


まずは、最初に助けてくれたドナドさんへの恩返しだ。


キングオーグの肉は、ドナドさんの店には安く卸すことにした。


暇さえあれば店にも顔を出した。


そんなある日のことだった。


「ドナドさん、ちょっといいですか?」


カウンターの隅に座りながら、俺は声をかけた。


「なんだ?」


「この世界に、女性がお酒の相手をしてくれる店ってありますか?」


その瞬間、給仕をしていたミーナがこっちを見た。


「なによ。女遊びがしたいわけ?」


「違います」


「じゃあ、何よ」


「お酒を飲みながら、楽しく話をしてくれる店ですよ」


「だから、それが娼館じゃない。お父さん、いい店を教えてあげなよ」


「おう、任せとけ」


ドナドさんが腕を組んで頷いた。


「王都の中心地に『ピンクのウサギちゃん』って店があってな……」


「ちょっと! お父さん!」


ミーナの怒鳴り声が店内に響いた。


「ドナドさん、そうじゃなくて」


俺は慌てて手を振った。


「そういうの抜きで、複数の女性がお客さんの隣に座って、話をする店はないんですか?」


「……酒場のカウンターならあるがな」


ドナドさんは首を傾げた。


「せいぜい二、三人だ。話をするだけで金を取るなんて商売、聞いたことがねえな」


「そんな暇な客がいるのか?」


ミーナまで不思議そうな顔をする。


(……キャバクラ、この世界にはまだないのか)


娼館はある。


酒場もある。


だが、女性が客の隣に座って酒を作ったり、話をしたりして、その時間そのものに金を払ってもらう店はない。


(だったら――)


俺は口元を緩めた。


(俺が一番乗りになればいい)


誰もやっていない。


だったら、やってみる価値はある。


俺はこの異世界初のキャバクラを作ることを決めた。


問題は――。


キャストだ。


まずは人を集めなければならない。


俺は王都の中心地にある安宿を借りることにした。


宿の主人は長期滞在だと分かると、最初は面倒くさそうな顔をしていた。


だが、まとまった金をテーブルに置いた途端、態度が変わった。


「どうぞ、ごゆっくりお過ごしください」


(……現金って強いな)


翌日から、俺は王都の広場を歩き回った。


暇そうにしている女性。


仕事を探していそうな女性。


そんな人を見つけては、片っ端から声をかけていく。


まずは、ベンチに座っていた若い女性に話しかけた。


「すみません。少しお話をいいですか?」


「……何?」


俺は羊皮紙に書いた募集要項を見せた。


「新しい酒場を始めるんです。そこで働いてみませんか?」


女性は羊皮紙を眺めたあと、怪訝そうな顔をした。


「……ねえ、これ何?」


「新しい酒場のバイトの募集です」


「悪いけど、体は売らないわよ」


「違います、そういう仕事じゃありません」


俺は慌てて首を振った。


「俺の店では、客に体を触らせたりしません。ただ一緒にお酒を飲んで、話をしてもらうだけです」


「お酒を飲むだけでお金をもらう?」


女性はますます怪訝そうな顔をした。


「……冗談でしょ。随分とおかしな詐欺を考えるのね」


そう言い残すと、女性は去っていった。


(……詐欺か)


まあ、いきなりそんな話をされても信じられないよな。


俺だって、逆の立場なら疑う。


だが――。


(誰もやっていないなら、俺が一番乗りになれる)


俺は諦めなかった。


広場を見渡す。


まだまだ、人はいる。


(次は、あっちの広場にいる人に当たってみるか)


俺は募集内容を書いた羊皮紙を握り直し、再び歩き出した。



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