第11話:ヤツハカ村の門出(ドナドさんの義理と王都)
人を何とか集めて荷馬車を買い、肉を王都まで滞りなく運ぶ仕組みが整ったおかげで、キングオーグの精肉商売は順調そのものだった。村に漂っていた血の臭いは、いつの間にか肉を焼く香ばしい匂いに取って代わられていた。
拠点にした「墓場の村」は以前より活気づいた。村の長老からは感謝されたが、村の名前に自分の名前を使うことだけは断った。
結局、名前をつけてほしいと何度も頼まれて、適当に言ったのが「ヤツハカ村」だった。
霧が深くて、昔テレビで見たあの村の雰囲気に少し似ていたからだ。
(古谷一行の金田一耕助は好きだった。志村けんさんもネタにしていたな。「八つ墓村の祟りじゃぁぁぁ」って。志村さん、ご冥福をお祈りします)
そもそも、キングオーグは二十人がかりでも危険な化け物だ。まともに戦っても割に合わない。
だから俺は、村の若者たちと協力して「効率よく倒す方法」を徹底的に話し合って試行錯誤しながら考えた。
結局は原始的な、村の足の速い人間が囮になって、ギリギリまでおびき寄せて、深い落とし穴に落として動きを止めてから長い槍で皆で仕留める方法だ。
何で今まで、こんな簡単な方法が思いつかなったか。
キングオーグの狩りに来てる人間は協力心がなく、自分達の事しか考えてなかったからだ。
俺は協力したほうが皆が儲かると説得した。
実際の狩りは最初は上手く行かず、何回も失敗したが、その都度皆で話し合って、そのかいあって、狩りの確率も上がった。
そうなると、狩りは彼らに任せて、俺は仕組みを作った代金として、売上の一部をもらうことにした。
(村が活気づくのは悪くない。だが、他の事もしてみたい)
最初に助けてくれたドナドさんへの恩返しとして、肉は安く卸す事にした。暇さえあれば店に顔を出した。
「ドナドさん、ちょっといいですか?」
カウンターの隅で、俺は話しかけた。
「なんだ?」
「この世界に、女性がお酒の相手をしてくれる店ってありますか?」
給仕をしていたミーナがこっちを見た。
「なによ、女遊びがしたいわけ?」
「違います。お酒を飲みながら、楽しく話をしてくれる店ですよ」
「だから、それが娼館じゃない。お父さん、いい店を教えてあげなよ」
「おう、任せとけ。王都の中心地に『ピンクのウサギちゃん』って店があってな……」
「ちょっと! お父さん!」
ミーナの怒鳴り声が響く。
「ドナドさん、そうじゃなくて。そういうの抜きで、複数の女性が客の隣で話をする店はないんですか?」
「……酒場のカウンターならあるが、せいぜい二、三人だな。話をするだけでお金を取るなんて商売、聞いたことがないな。そんな暇な客がいるのか?」
(キャバクラ……この世界にはまだないか。娼館しかない世界で、ただ話すだけの店を作る。誰もやってないなら、俺が一番乗りだ。やってみる価値はある)
俺はこの異世界初のキャバクラを作るため。キャストを集めるため。王都の中心地にある安宿を訪ねた。
宿の主人は長期滞在だとわかると面倒くさそうな態度だったが、まとまったお金をテーブルに置くと、すぐに愛想が良くなった。
翌日から、俺は王都の広場を歩き回った。
暇そうにしている女性や、働き口を探していそうな女性に声をかける。
まずは一人、ベンチに座っていた若い女に話しかけた。
羊皮紙に書いた、募集要項を見せると、彼女は怪訝な顔をした。
「……ねえ、これ何?」
「新しい酒場のバイトの誘いです」
「悪いけど、体は売らないわよ」
「勘違いしないでください。俺の店は、客に体に触れさせることはしません。ただ話をするだけです」
「お酒を飲むだけでお金をもらう? 冗談でしょ。随分とおかしな詐欺を考えるのね」
(詐欺か。まあ、いきなりそんな話をされても信じられないか。でも、誰もやっていないなら、俺が一番乗りになれる)
彼女が去ったあと、俺は募集内容を書いた羊皮紙を開いた。
(次は、あっちの広場にいる人に当たってみようか)
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