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46歳おっさんの形意拳が、異世界でチートになった 〜魔法も剣も届かない究極の拳法で、第二の人生を無双する〜  作者: 九条竜二


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第10話 墓場の村のジンギスカン




ドナドさんの店を離れて数日。


俺は霧深い断崖に囲まれた、通称「墓場の村」の入り口に立っていた。


闘技場を追い出された今、食い扶持を稼ぐには、これに賭けるしかない。


キングオーグの生息域に近いという、寂れた村。


俺と同じように、一攫千金を夢見る連中もいた。


だが、なぜかみんな顔色が悪い。


俺は気になって、それとなく聞いてみた。


「こんにちは。ちょっと気になったんですが……皆さん、なんというか、疲れてません? やっぱりキングオーグを捕まえるのは難しいんですか?」


道端にしゃがみ込んでいた集団の一人が、ぶっきらぼうに答えた。


「オーグを捕まえるのは、もちろん大変だ。それよりも、俺たちが食べる食料の供給がうまくいってないんだ。みんな飢えてる」


聞けば、この村は立地の問題もあって、食料の物流が安定していないらしい。


村人たちは自分たちが食べていくので精一杯。


そのため、外から来た狩人たちには、ぎりぎりの量しか食料を売ってくれないという。


(……キングオーグが捕れたとしても、王都までの配送ルートをどうにかしなきゃならない)


(そうなると、ここにいる人間の力が絶対に必要だ)


現世でも、人間が仕事をする一番の理由は飯を食うことだ。


単純に、飯を食わなければ人間は死んでしまう。


(まずは食料。それに、村の連中の協力も必要だ)


(キングオーグを捕まえられれば話は進む。だけど……五メートル近くあるモンスターを、人間の俺が本当にどうにかできるのか?)


考えても仕方がない。


俺は気を取り直し、奮発して新調した靴の紐を締め直した。


闘技場で稼いだ金をつぎ込み、鍛冶屋と靴屋をハシゴして急ぎで作らせた特注品だ。


イメージ的には、軽量の安全靴。


革は馴染んで柔らかく、軽量。


そして、つま先にはダイヤモンドより硬いと言われる希少金属、ヒヒイロカネが仕込んである。


(キャバクラを潰して、ヤマト、パワーステーション、フルキャスト……いろんな派遣会社で引っ越しの日銭を稼いでいた頃は、毎日、寅壱の安全靴を履いてたな)


(十八歳の小僧にタメ口を叩かれて、我慢できずにぶっ飛ばして、首になったっけ)


そんなことを思い出し、俺は苦笑した。


そして――森の奥。


俺は初めて、「それ」と対峙した。


キングオーグ。


ギョロギョロとした目。


豚のような顔。


口からは、下から上に向かって突き出した奥歯の牙。


そして、頭頂部から背中にかけて一直線に生えた、モヒカンヘアーのような毛。


五メートルを超える巨体だ。


放たれる圧は、闘技場で戦った騎士とは比べものにならない。


「ガ、アアアアアッ!」


丸太のような腕が振り下ろされる。


咄嗟に反応したものの、あまりのリーチに、受け身を取るのが精一杯だった。


(……デカすぎる)


(こんなのを、俺が本当に何とかできるのか?)


俺は一定の距離を取りながら、逃げ回る。


四足歩行のキングオーグが、まるでヒグマのように前足を上げ、後ろ足で立ち上がった。


「ガアァァァーッ!」


雄叫びが森に響き渡る。


――今だ!


俺は一気に踏み込んだ。


「――暗腿!」


ヒヒイロカネの仕込まれたつま先を、オーグの向こうずねへ叩き込む。


バギィィッ!


硬いものが壊れる音が響いた。


(……硬い)


(でも、この靴ならいける)


一発じゃ足りない。


蹴る。


離れる。


蹴る。


離れる。


俺はそれを繰り返し、オーグの右足を徹底的に攻め続けた。


やがて――


巨獣の動きが止まった。


右足をまともに動かせなくなり、俺を追ってくることもできない。


今だ。


動けなくなったオーグの眼前へ、一気に踏み込む。


「――そのまま、動くな!」


腰を捻りながら拳を突き出す。


全身のバネを拳に乗せ、拳を外へ半回転させながら喉元へ叩き込む。


――鑽拳。


グシャァッッッッ!


衝撃が巨体を貫いた。


五メートルのバケモノが断末魔の叫び声を上げ、その巨体を地面へ沈める。


「……やった」


俺はしばらく、倒れたキングオーグを見つめていた。


だが、感傷に浸っている暇はない。


俺は一度村へ戻り、数人の人間に声をかけた。


キングオーグの解体を手伝ってもらうためだ。


もちろん、報酬はオーグの肉。


夕暮れ。


俺は村の広場で、解体を手伝ってくれた数人と一緒に、仕留めたばかりの肉を持参した鉄板で焼き始めた。


ジューッ。


音とともに、オーグの脂が跳ねる。


村で採れた岩塩を振り、そこらで摘んだ野草を放り込む。


強火で一気に表面を焼き、中には肉汁を閉じ込める。


「おい、何を食べてるんだ、あんた……」


匂いにつられたのか、疲れ果てた狩人の一人が近づいてきた。


肉の匂いに、男の鼻がピクピクと動いている。


俺は鉄板の肉を返しながら答えた。


「キングオーグのジンギスカン風。一皿、150ゴルドだよ。この辺の相場なら、これでも十分だろ?」


本来なら庶民には口に入らない最高級品。


それを、現地の狩人が熱々の鉄板から直接食べる。


男は一口食べた瞬間、言葉を失った。


そして――猛烈な勢いで肉を頬張り始めた。


「……うめえ!」


「なんだこれ……力が湧いてくる!」


瞬く間に、俺の周りに人が集まり始めた。


やがて、行列ができる。


(……もしかして?)


(この「ジンギスカン」を村の名物にすることができれば?)


人が集まる。


人が集まれば、道も整備される。


道が整備されれば、肉を運ぶ人手も確保できる。


(まだまだ課題はあるけど……いけるかもしれない)


俺は道具を片付けながら考えていた。


もっと楽にオーグを狩る方法はないか。


どうすれば効率よく王都への供給につなげられるのか。


そして――


この村そのものを、どうやって商売に巻き込んでいくか。


俺の頭の中では、もう次の計画が始まっていた。



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