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46歳おっさんの形意拳が、異世界でチートになった 〜魔法も剣も届かない究極の拳法で、第二の人生を無双する〜  作者: 九条竜二


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199話 隙は、同時に




三人の呼吸が、限界に近い荒さを刻んでいた。


「――ぐっ!」


ムサシが迫る爪を二刀で受け止める。


ガキィンッ!!


火花が散った。


力比べでは分が悪く、膝がわずかに沈む。


「――くそ……!」


ムサシが刃を滑らせて力を逃がし、辛うじて体勢を保った。


「――今だ!」


カミラが叫び、グレイブを振り抜いた。


柄から放たれた穂先が、蛇のようにうねりながらヴォルグの脇腹めがけて滑り込む。


ヴォルグはあえて避けず、カミラへと間合いを詰め、脇腹でその一撃を受け止めた。


グサッ!


「――グリップ・ファング!」


穂先が食い込んだ刹那、空いた爪がカミラへと迫る。


「――くっ!」


カミラは咄嗟に身を捩り、かろうじて爪の先を躱した。


「私も!」


ミライが横合いから飛び込み、拳を叩き込んだ。


ズドッ!!


「――グリップ・ファング!」


ヴォルグが即座に反応する。


拳が腹にめり込んだ刹那、空いた爪がミライへと振るわれた。


「――くっ!」


ミライは体を斜めに傾け、爪の軌道から逃れた。


爪が頭上を薙ぎ、髪が数本舞った。


反動で拳が外れ、ミライは後方へ跳び退る。


「――このままじゃ埒が明かない」


ムサシが低く呟いた。


三人とも、攻撃を当てるたびに同じ壁にぶつかっていた。


一撃を入れても、必ず一つだけ弾き返される。


決定打には至らない。


「もう一丁!」


カミラが再びグレイブを構え、間合いを詰める。


「しつこいぜ!」


ヴォルグが唸り、迎え撃つべく爪を振るった。


「――ぐっ!」


カミラが咄嗟に柄で受け止める。


ガキンッ!!


衝撃に手が痺れ、グレイブが弾かれかける。


「危ない!」


ムサシが横から割り込み、二刀で爪の追撃を弾いた。


ガキィンッ!!


「――サンキュー!」


カミラが後方へ跳び退り、態勢を立て直す。


「私が削る!」


ミライが再び地を蹴った。


軽快なフットワークでヴォルグの周囲を回り込み、隙を窺う。


「――どこからでも来い」


ヴォルグが不敵に笑い、周囲に警戒を張った。


ミライが右から仕掛けると見せかけ、左へ回り込む。


「――ッ!」


拳をヴォルグの顎へ突き上げた。


ドゴッ!!


「――グリップ・ファング!」


ヴォルグの反応は、変わらず正確だった。


拳が顎を捉えた刹那、空いた爪がミライの腹めがけて突き出される。


「ミライ!」


カミラが叫ぶ。


ミライは半歩下がり、爪の先端を紙一重で躱した。


服の裾が裂け、ひやりとした風が肌をかすめる。


「――ッ、危な……!」


拳が外れ、ミライが距離を取った。


息が上がる。


三人とも、汗と土埃にまみれていた。


「――なんで、いつも一発で返される」


ミライが荒い息の合間に呟く。


「なんか変だよ、絶対おかしい」


「わかってる」


ムサシが答える。


だが、その正体まではまだ見えていなかった。


「――遊びは終わりだ」


ヴォルグが低く唸る。


「ハンドレッド・ウルフ!」


漆黒の靄が再び足元から立ち上り、影狼が次々と地を這うように現れた。


「――くっ、まだ出すか!」


カミラが舌打ちし、迫る狼をグレイブで薙ぎ払う。


ヒュォンッ!!


一匹が両断され、霧散した。


ムサシも二刀で二匹をいなし、切り伏せる。


「――数はさっきより少ない!」


「それだけ、あいつも消耗してるってことだ」


ムサシが冷静に返す。


ミライが最後の一匹を殴り飛ばし、荒い息のまま合流した。


「――このままじゃ、体力の削り合いになる」


カミラが呟く。


「私たちの方が先に尽きるかもしれない」


「――そうはさせない」


ムサシが刀を構え直した。


三人は再びヴォルグと向き合う。


膠着は、まだ続いていた。


「――もう一度、行くぞ!」


ムサシが地を蹴った。


疾風の踏み込みで懐へ潜り込み、二刀を横薙ぎに放つ。


ヴォルグはその一撃を、あえて肩で受けた。


「――グリップ・ファング!」


刃が肩に食い込んだ刹那、空いた爪がムサシの喉元へ迫る。


「――くっ!」


ムサシは首だけを振り、紙一重で爪先をかわした。


爪が頭上を薙ぎ、風切り音が鋭く響く。


「――危なかった……!」


後退しながら、ムサシは息を整える。


何度目かの、同じ結末だった。


一撃を当てれば、必ずもう片方の爪が空く。


そのたびに、誰かが紙一重で凌ぐ。


その繰り返しに、消耗だけが積み重なっていく。


「――くそ、キリがない」


カミラが苛立たしげに呟いた。


その時、ふとムサシの脳裏に、これまでの攻防が重なった。


自分の刀が当たった時。


カミラのグレイブが当たった時。


ミライの拳が当たった時。


――どの時も、反撃してきたのは、攻撃を当てた本人だけだった。


「――待て」


ムサシが低く声を上げる。


「なんだよ、今更」


「あいつの爪は、当てた瞬間にしか反応してない」


「――は?」


カミラが眉をひそめる。


「俺が当てた時、爪が来たのは俺にだけだった。カミラの時も、ミライの時も、そうだ」


「……それって」


ミライが荒い息のまま、ムサシの言葉を噛み締める。


「――同時に、当てれば」


「一人にしか、返せない」


「……わかんないけど、信じる」


「――ああ」


ムサシが刀を握り直した。


「三人で、同時にいくぞ」


「望むところだよ」


カミラがグレイブを構え直す。


「私、頑張る!」


ミライも拳を握り締めた。


「――集中を乱すな!」


ヴォルグが獰猛に唸り、爪を横薙ぎに振るう。


ミライが素早く一歩下がり、紙一重で見切った。


「――今だ!」


三人が同時に地を蹴った。


カミラのグレイブが右から。


ムサシの刀が正面から。


ミライの拳が左から。


寸分違わぬ間合いで、ヴォルグへと殺到する。


「――ッ!」


ヴォルグの目に、初めて焦りが走った。


「――グリップ・ファング!」


咄嗟に反応したのは、正面から迫るムサシの刀だった。


肩に刃が食い込み、即座に爪が振るわれる。


ムサシは腰を落とし、爪の軌道の下をくぐって後退した。


その一瞬のうちに――。


カミラのグレイブとミライの拳は、既にヴォルグの体を捉えていた。


ズドンッ!!


グシャッ!


脇腹と顎に、同時に衝撃が突き刺さる。


「――ぐぁあああっ!!」


ヴォルグの巨体が、大きく仰け反った。


「――今だ、離れろ!」


三人が同時に距離を取る。


大きくよろめいたヴォルグが、片膝をつく。


「くそ……、まさか、三人が揃って……」


「――ここからだ」


ムサシが静かに刀を構え直した。


決着の時が、ようやく見え始めていた。

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