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46歳おっさんの形意拳が、異世界でチートになった 〜魔法も剣も届かない究極の拳法で、第二の人生を無双する〜  作者: 九条竜二


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196話 三対一の掟




リュウジィとタツヨが、クラウスと向き合う位置へ移動する。


残されたミライ、カミラ、ムサシの三人は、ヴォルグを囲むように、大広間の中央で対峙した。


「三人がかりで悪いなんて、これっぽっちも思ってないから」


カミラが、グレイブの穂先をヴォルグへ向けながら言った。


「店を壊された借りは、きっちり返させてもらう」


ヴォルグは、それを鼻で笑い飛ばした。


「口だけは達者だな」


その言葉と同時に、ヴォルグの巨体が沈んだ。


ドンッ!


床を蹴った瞬間、巨体が弾丸のように飛び出す。


目で追うのがやっとの速さで、鋭い爪がムサシへと迫った。


「くっ!」


ムサシは咄嗟に二刀を交差させ、その一撃を受け止めた。


ガキィンッ!


重い衝撃が大広間に響き渡り、ムサシの両腕を痺れさせる。


「速いな」


「そりゃどうも」


ヴォルグはそう返しながら、間髪入れずに二撃目、三撃目と連続して爪を振るう。


ヒュンッ!


右。


ヒュッ!


左。


さらに正面。


ガギィンッ!


ムサシは二刀を巧みに使い、爪を弾き、受け流していく。


だが、ヴォルグの一撃は重い。


受けるたびに足が床を滑り、ズズッ……と靴底が床を擦りながら、少しずつ後退させられていく。


「させるか!」


カミラが踏み込み、グレイブを突き出した。


シュッ!


狙いはヴォルグの側面。


だが、ヴォルグはムサシへの攻撃を止めることなく、身体だけを反転させた。


ヒュッ!


穂先が頬を掠める。


「ちっ」


カミラが舌打ちした瞬間、ヴォルグの爪が返ってきた。


「――ッ!?」


カミラは咄嗟に柄で受ける。


ズドォンッ!


凄まじい膂力に押され、カミラの身体が大きく吹き飛ばされた。


「カミラ!」


ミライが叫び、駆け寄ろうとする。


その瞬間――


「隙だらけだぜ」


ヴォルグがミライへと跳んだ。


「――させない!」


ムサシが瞬時に間へ割り込む。


二刀を交差させ、ヴォルグの爪を受け止めた。


ガギィンッ!


「ぐっ……!」


衝撃でムサシの身体が大きく揺れる。


「三人がかりで、この程度かよ」


ヴォルグが、見下すように鼻を鳴らした。


「舐めてもらっちゃ困るぜ、人間ども」


ムサシは歯を食いしばりながら踏みとどまった。


「まだだ……!」


三人は、態勢を立て直す間もなく、次々と繰り出されるヴォルグの猛攻を凌ぎ続けた。


だが、ただ防いでいるだけではない。


ムサシが前でヴォルグの攻撃を受ける。


ガキンッ!


その隙に、カミラが横からグレイブを差し込む。


「そこ!」


シュッ!


ヴォルグがそれを避ければ、今度はミライが反対側から距離を詰める。


「逃がさないよ!」


一人が攻めれば、残る二人が必ずその動きを補う。


ヴォルグは一人を狙うたびに、別の二人から攻撃を受けることになった。


「くそ、思ったより……!」


カミラが、苦しげに呟く。


その時だった。


「三人がかりとはいえ、なかなかやるじゃねえか」


ヴォルグの口元が、獰猛に歪んだ。


「だが……そろそろ、俺も本気を出させてもらうぜ」


ヴォルグの全身から、黒い靄が噴き出した。


ゴォォォォ……!


靄は床を這い、まるで生き物のように広がっていく。


大広間の床を黒く染めながら、周囲の空間を侵食していく。


その中から、四つ足の獣たちが次々と姿を現した。


全身が漆黒で、毛並みすらない。


影そのものが獣の形を得たかのような、不気味な狼たちだった。


一匹。


二匹。


十匹。


二十匹。


三十匹――。


その数は瞬く間に膨れ上がり、大広間全体を埋め尽くしていく。


文字通り、百匹はいるだろう群れが、四方から迫っていた。


「喰らいつくせ!ハンドレッド・ウルフ!」


ヴォルグが短く告げる。


その瞬間、影の狼たちが一斉に地を蹴った。


ドドドドドドッ!


それと同時に、ヴォルグ自身も群れに紛れるようにして飛び出し、爪を振るってくる。


「――百匹、ねえ」


ムサシが、口の端をわずかに上げた。


「一匹だろうと百匹だろうと、斬るもんは変わらねえよ」


ムサシが一歩踏み込む。


二刀が左右逆の軌道を描いた。


ズバッ!


右の刃が正面から飛びかかってきた狼を薙ぎ払い、その軌跡を追うように左の刃が背後から迫った狼を斬り上げる。


ズバァッ!


二匹が同時に黒い霧となって消えた。


そのままムサシは足を止めない。


一歩。


また一歩。


二刀を絶え間なく振るい、群れの中へ一本の道を切り開いていく。


ヒュンッ!


ヒュッ!


「ムサシ、右!」


カミラの声が飛んだ。


「わかってる!」


ムサシが身体を沈める。


その頭上を、グレイブの穂先が唸りを上げて通過した。


ヒュォンッ!


「ギャッ!?」


ムサシの背後から迫っていた狼の喉を、カミラのグレイブが正確に貫く。


ズドッ!


そのまま穂先が軌道を変えた。


一匹を貫いた勢いのまま、次の狼へ食らいつくように刃が伸びる。


「私にも、少し楽しませてよ」


カミラがグレイブを大きく振り抜いた。


ヒュオォンッ!


穂先が意思を持つ蛇のようにうねり、逃げる狼を追尾する。


誘導ミサイルさながらのその一撃が、一匹の胴を貫き、そのまま隣の一匹まで喰らいつくように切り裂いた。


ズバッ!


ザシュッ!


「左は任せて!」


ミライが叫ぶ。


カミラが振り向くことなく答える。


「お願い!」


ミライは迫り来る狼の群れへ真正面から踏み込んだ。


低く身を沈める。


一匹目の爪を紙一重で躱す。


ヒュッ!


そのまま懐へ潜り込み、拳を突き上げた。


ドゴォッ!


顎を打ち抜かれた狼が黒い霧となって弾け飛ぶ。


さらに二匹。


ドゴッ!


三匹。


ズドンッ!


ミライは拳を叩き込みながら、狼の群れを横へ押し流していく。


「ムサシ、今!」


ミライが叫んだ。


「おう!」


ムサシが反応する。


ミライが作った隙間へ、ムサシが一気に踏み込んだ。


二刀が交差する。


ズバァッ!


群れの中央が大きく裂けた。


その奥に、一瞬だけヴォルグの姿が見える。


「そこだ!」


ムサシが踏み込もうとした。


だが――


「油断すんなよ、俺も混ざってるんだぜ」


群れの中から、ヴォルグの爪が不意に伸びる。


ヒュンッ!


狙いはムサシ。


「ムサシ、下がって!」


カミラの声。


ムサシが反射的に身を沈める。


シュンッ!


その頭上を爪が通過した。


直後、カミラのグレイブがヴォルグの腕を追う。


「そこにいるのは、もうわかってるよ」


ズドッ!


穂先が、群れの中から伸びたヴォルグの腕へ突き立った。


「ぐっ……!?」


ヴォルグが呻き、慌てて群れの奥へ引っ込む。


「隠れてばっかりだね」


ミライが挑発するように笑う。


「狼に紛れて奇襲するなんて、ずいぶん器用なことするんだね」


ムサシが二刀を大きく振り抜いた。


ズバァァッ!


その斬撃が狼の群れをまとめて薙ぎ払い、同時にヴォルグの片腕にも届く。


「がああッ!」


ヴォルグの怒声が響いた。


三人は互いの位置を確認しながら、次々と攻撃を繋いでいく。


ムサシが狼を斬り、進路を作る。


カミラが、その進路の先にいるヴォルグをグレイブで牽制する。


ヴォルグが横へ逃げれば、ミライが先回りして拳を叩き込む。


ドゴッ!


逃げた先には、必ず誰かがいる。


攻撃した瞬間には、別の誰かが死角を潰す。


三人の動きは、いつしか一つの意思を持ったように噛み合い始めていた。


「そろそろ、種切れかな?」


カミラの言葉通り、影の狼の数は目に見えて減り始めていた。


ヴォルグ自身も、傷を負った腕を庇いながら、明らかに劣勢に立たされていく。


「くそ……たかが人間どもが……!」


ヴォルグが吐き捨てるように呻いた。


全身から立ち上る黒い靄が、先ほどよりも濃く、禍々しい渦を巻き始める。


「調子に乗ってんじゃねえぞ、人間ども」


その言葉と同時に、消えかけていた影の狼たちが、再び黒い靄の中から姿を現した。


一匹。


二匹。


十匹。


その数は、見る見るうちに増えていく。


ヴォルグの金色の瞳が、獰猛な光を宿す。


影の狼たちは再び大広間を埋め尽くし、先ほどの数を遥かに上回る群れとなっていく。


「――嘘でしょ」


カミラが、思わず息を呑んだ。


噴き出した狼の数は、最初の百匹をゆうに超えているようだった。


「これで、終わりにしてやるよ」


ヴォルグの声には、先ほどまでの余裕はもうなかった。


焦りと苛立ちが滲む、追い詰められた者の声だった。


「二百でも三百でも、好きなだけ出してみなよ」


カミラが不敵に笑い、グレイブを構え直す。


「数が増えたところで、やることは変わらねえよ」


ムサシが二刀を握り直し、静かに告げた。


「終わらせるのは、あんたの方だから」


ミライが拳を握り、低く身構える。


三人は、膨れ上がった狼の群れへ向かって、迷いなく踏み込んでいった。


今度は、三人が同時には動かなかった。


ムサシが先に飛び込む。


ドンッ!


二刀を交差させ、正面の狼をまとめて斬り伏せる。


ズババッ!


その瞬間に生まれた隙間へ、カミラのグレイブが伸びた。


ヒュォンッ!


穂先が狼を貫きながら、さらにその奥へと進む。


「そこ、逃がさない!」


グレイブの軌道を避けたヴォルグが横へ飛ぶ。


だが、その先にはミライがいた。


「こっち!」


ミライが踏み込み、拳を振り抜く。


ドゴォンッ!


ヴォルグは咄嗟に腕を交差させて防御した。


衝撃で身体が横へ流れる。


「ぐおっ……!」


そこへムサシが回り込む。


「逃がすか!」


二刀が閃く。


ヒュンッ!


一撃。


ズバッ!


二撃。


ザシュッ!


三撃。


ガギンッ!


ヴォルグの爪が次々と弾かれていく。


「ぐっ……!」


受け止めきれない。


ヴォルグの巨体が後方へ弾き飛ばされた。


「がっ……!」


その着地を狙うように、カミラのグレイブが足元へ伸びる。


「逃がさない!」


シュバッ!


穂先がヴォルグの足を払った。


「くうっ……!」


片膝をついたヴォルグ。


そこへ、ミライが飛び込む。


「当たれ!」


ミライが踏み込み、エンペラーナックルをはめた拳をヴォルグの顎へ叩き込む。


ドゴォンッ!!


鈍い衝撃音とともに、ヴォルグの巨体が大きく仰け反った。


「ぐはっ……!」


影の狼たちの数も、その一撃を境に、目に見えて減り始めていた。


「息、上がってるじゃない」


カミラが、荒い息を吐くヴォルグを見据える。


「まだ、まだだ……!」


ヴォルグは膝をつきながらも、なおも立ち上がろうとしていた。




お読みいただき、本当ありがとうございます。もし気に入っていただけましたら、作品のブックマークや、下の星(☆☆☆☆☆)で応援をお願いします!次の更新の大きなエネルギーになります!

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