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46歳おっさんの形意拳が、異世界でチートになった 〜魔法も剣も届かない究極の拳法で、第二の人生を無双する〜  作者: 九条竜二


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195話 牙血の王再び




一歩。また一歩。


地の底を這うような重く鈍い足音が、闇の奥から確実に近づいてくる。


その足音は、先ほどまでのヴォルグのものとは明らかに質が違っていた。


もっと重く、もっと胸を押しつぶすような圧倒的な圧を伴う何か。


床の石畳そのものが、その一歩一歩に踏み潰されているような錯覚さえ覚える。


ヴォルグの険しい表情に、わずかな強張りと緊張が走った。


「……クラウス様?」


そのすがるような呟きを聞いた瞬間、俺の心臓は激しく跳ね上がり、冷たい汗が背中を伝った。


暗い廊下の奥から、ゆっくりと姿を現したのは、威風堂々たるサーベルタイガーの顔を持つ、長身の男だった。


他の牙血族とは、その存在がまとう気配の密度そのものが次元違いに重い。


ただそこに立っているだけで、周囲の空気が押し潰され、呼吸すらままならなくなっていく。


クラウス・バイト。


あの日、王都のスラムで死闘を演じ、お互いのすべてをぶつけ合った宿敵が、今、冷たい眼差しを向けて目の前に立っていた。


クラウスの視線が、俺とタツヨの姿を捉えた瞬間、大きく目を見開いた。


「……貴様ら、まさか」


一瞬、絶句したように動きを止める。だが、それも一瞬だった。


「――人間ごときが、よくもこの私の館に、のこのこと足を踏み入れたなァ!!」


クラウスの咆哮じみた怒声が、廊下全体を震わせた。


「命知らずにも程がある! 舐めるのも大概にしろッ!!」


その怒りの圧に、空気そのものが張り詰めるのが分かった。


ヴォルグが、困惑した様子でクラウスと俺たちを交互に見た。


「クラウス様、こいつらは……?」


「王都のスラムで、私を痛めつけた人間どもだ」


クラウスは静かに、しかし忌々しげに答えた。


「なるほど。お前らがガルダを殺した女の片割れか?」


ヴォルグの声に、隠しきれない憎悪が滲んだ。


「どうだ? 俺に仲間を傷つけられて、店も壊されて。ざまあねえな! それでわざわざ来たのか?」


クラウスは、俺とタツヨを品定めするかのように、冷ややかな視線でゆっくりと見据えた。


「まさか、人間の身で、単身この館の奥まで踏み込んでくるとはな。無謀を通り越して、いっそ滑稽だ」


「店、めちゃくちゃにされて、仲間も傷つけられて。それで、何もしないでいられるわけないだろ!」


俺は、纏ったファフニールが熱を帯びていくのを感じながら、抑えきれない怒りのままに叫んだ。


クラウスの口元が、わずかに、冷酷に歪んだ。


それは笑みなどではなく、死地をさまよう獲物を前にした飢えた獣の表情そのものだった。


「決着、だと? くだらん」


クラウスは、鼻で笑うように吐き捨てた。


「油断していたのは事実だ」


「だが、それを分からずに、自分達の力を過信して、自ら殺されに来るとはな」


その傲慢なセリフに、タツヨは返事をする代わりに、怒りで真っ白になるほど強く拳を握りしめた。


「上等だ。今度こそ、決着つけようぜ」


「だが、こんな狭い廊下では、満足に暴れられまい」


クラウスは鬱陶しそうに周囲の黒い壁を一瞥し、冷たく吐き捨てる。


「ついてこい。おあつらえ向きの場所がある」


そう告げると、クラウスは悠然と踵を返し、廊下の奥へと歩き出した。


ヴォルグもまた、殺意をたぎらせながらその後に続く。


俺たちは、いつでも迎撃できるように武器を構え、警戒を怠らず、その後を追った。


やがて辿り着いたのは、天井が高く、息が詰まるほど広々とした大広間だった。


等間隔に並んだ冷たい石柱の向こうには何もなく、ただ開けた空間が広がっている。


まるで、ここで血みどろの殺し合いが行われるために、最初から用意されていたかのような場所だった。


「ここなら、遠慮はいらんだろう」


クラウスが広間の中央でピタリと足を止め、ゆっくりと振り返る。


「私はこの二人の相手をする」


クラウスはちらりと冷ややかな視線をヴォルグへ送った。


「ヴォルグ、お前は残りの三人を好きに料理するといい」


「……そういうことなら」


ヴォルグの醜悪な口元が、さらに獰猛に歪み、牙がむき出しになる。


「クラウス様の許可も出たことだしな。テメェら、覚悟しとけよ」


そのヴォルグの殺気立った様子を見て、俺は背後を振り返り、素早く仲間たちへ視線を送った。


「タツヨ、クラウスは俺たちでやろう」


「ああ」


短く応じたタツヨの瞳には、一切の迷いすらなかった。


「ミライ、カミラ、ムサシ。ヴォルグは任せた」


三人はそれぞれの武器を手に取り、頼もしく頷き返す。


「望むところだ」


カミラは長大なグレイブを鮮やかに構えながら不敵に笑う。


「MG倶楽部を壊した礼、たっぷりお返ししてやる」


ムサシは無言のまま、冷徹な光を宿した二刀を構え、戦闘態勢に入った。


ミライは両拳にエンペラーナックルをはめた。


しかしミライだけは、一瞬だけ恐怖に満ちた不安げな表情を浮かべた。


だが、すぐに唇を噛み締め、両手で拳を強く握りしめることで、その瞳を強い決意に満ちた真剣な眼差しへと変えてみせた。


「……大丈夫。三人でなら、いける」


そのミライの覚悟を見たヴォルグは、忌々しげに舌打ちを鳴らした。


「三人がかりか。人間らしい、姑息なやり方だな」


「うるせえ」


タツヨが低く唸るような、拒絶の声を叩き返す。


「テメェは、一人で三軒も店を潰しただろうが。お互い様だよ」


ヴォルグはそれ以上言い返さず、ただ殺意に歪んだ牙を剥き出しにして嗤った。


「クラウス様。あんたがそう言うなら、俺は好きにやらせてもらう」


クラウスはヴォルグの言葉など耳に入っていないかのように、俺とタツヨの二人だけを真っ直ぐに見据えていた。


「さて、続きを始めようか」


その静かな宣告と同時に、広間の冷え切った空気が、一気に引き裂かれるような殺気で張り詰めた。


逃げ場のない二つの死闘が、まさに今、同時に幕を開けようとしていた。

お読みいただき、本当ありがとうございます。もし気に入っていただけましたら、作品のブックマークや、下の星(☆☆☆☆☆)で応援をお願いします!次の更新の大きなエネルギーになります!

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