↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46歳おっさんの形意拳が、異世界でチートになった 〜魔法も剣も届かない究極の拳法で、第二の人生を無双する〜  作者: 九条竜二


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

188/216

188話 魔族の街




巨大な門をくぐった瞬間、俺は目の前に広がる光景に思わず足を止めた。


そこにあった街並み自体は、人間たちの領都キングスフォーンとそれほど変わらない。


だが、街を行き交う人々はまるで違っていた。


頭に獣の耳を生やした者。


腕や首筋に硬い鱗を持つ者。


頭から角が生えて、首筋から頰に掛けて不思議な模様のタトゥー入れてる者。


人間とは比べものにならないほど大きな体をした者もいる。


彼らはそんな姿を当たり前のものとして、ごく自然に街を歩いていた。


笑い声を交わし、店で買い物をし、誰かと言葉を交わしている。


「……すごいな」


隣にいたタツヨが、小さく呟いた。


俺も、同じような感想しか出てこなかった。


通りの一角には、数え切れないほどの露店が並んでいる。


見たこともない色鮮やかな果物。


鼻をくすぐる強い香辛料の匂い。


店主も客も、さまざまな種族が入り混じりながら、街に活気を生み出していた。


「何か思ったより、普通だね」


ミライがぽつりと言った。


「普通?」


「もっと、こう……怖い感じかと思ってた。でも、普通の街だね」


その言葉に、俺は少しだけ肩の力が抜けるのを感じた。


確かにここは、人間から見れば未知の土地だ。


けれど、そこにあるのは俺たちと同じような日常だった。


店を開く者がいて、買い物をする者がいて、誰かと笑い合いながら生活している。


人間の国と、本質的にはそれほど変わらないのかもしれない。


「油断はするなよ」


少し離れた場所から、ムサシが静かに言った。


「分かってる」


俺は頷いた。


街がどれほど穏やかに見えても、ここが魔族の領域であることに変わりはない。


そして俺たちが探しているのは、王都を蹂躙した張本人だ。


「まず、どこから手をつける?」


タツヨが周囲を見回しながら聞いてきた。


俺は懐から、カシムさんから託された書状の写しを取り出した。


そこには、バラゴン商会の宿泊先として指定されている宿の場所が、簡単な地図と一緒に書かれていた。


「まず宿を取る。それから、少しずつ話を聞いて回る」


「話って、誰に?」


「商人同士の噂話でも、酒場の与太話でも構わない。何か引っかかるものがあればいいんだが」


タツヨは頷くと、御者台で手綱を握るカミラへ声をかけた。


「行くぞ、カミラ」


「了解」


カミラが答え、荷馬車が再びゆっくりと動き出した。


見たこともない街並みを眺めながら、俺は改めて周囲に目を向ける。


異なる種族同士が、同じ街で暮らしている。


その光景に、俺は奇妙な既視感を覚えた。


(前世の……いや、この世界の王都でも、似たようなものだったな)


人間同士でも、貧富や身分によって暮らす場所も、扱われ方も違う。


結局、分けられているものが「種族」に変わっただけなのかもしれない。


だが、この街にも確かな格差はあるのだろう。


そして、その上には圧倒的な力を持つ者たちがいる。


その穏やかな街のどこかに、ヴォルグがいる。


自分たちを追うリュウジィたちが、この国へ足を踏み入れたことなど知らずに。


荷馬車は、夕闇が近づく街の奥へと進んでいった。



宿は、驚くほどあっさりと確保できた。


宿の主人は牙血族の血を引いているらしく、頭には鋭い耳があり、腰の後ろからは立派な尻尾が伸びていた。


だが、俺たちが差し出した書状を一度確認しただけで、それ以上詮索することはなかった。


無言で部屋の鍵を渡してくる。


荷物を部屋に運び込むと、俺たちはすぐに街の情報を集めるため動き出した。


「俺とタツヨで酒場を回る。カミラとミライは市場を頼む。ムサシは荷馬車の見張りだ」


「了解」


短く答えると、ムサシは荷馬車のそばへ移動した。


まるで門番のように、その場に立つ。


俺はタツヨと一緒に、宿のすぐ近くにある古びた酒場へ向かった。


夕暮れにはまだ少し早い時間だったが、店の中にはすでに多くの客がいた。


獣の耳を持つ者。


硬い鱗に覆われた肌を持つ者。


角が生えてる者。


彼らは酒を飲みながら、大声で笑い合っている。


俺たちはカウンターの端に腰を下ろし、まずは場に馴染むために酒を一杯注文した。


「にしても、賑やかだな」


タツヨが周囲を見ながら小声で言った。


「ああ。人間の酒場と、そう変わらないな」


「話を聞くにしても、どこから切り出す?」


そんな会話をしていた時だった。


「――だからよ、あの狼野郎の話、聞いたか?」


隣のテーブルから、その言葉が聞こえてきた。


俺とタツヨは、一瞬動きを止めた。


互いに顔を見合わせる。


声の主は、全身を青みがかった鱗に覆われた男だった。


周囲には、酒に酔った仲間らしき巨漢たちが座っている。


「狼野郎って、ヴォルグのことか?」


「ああ。人間の国に殴り込んで、店をぶっ壊してきたって話だ」


「クラウス様の仇討ちだろ。派手にやったって噂だぜ」


「馬鹿な奴だよなあ。勝手に暴れて、話を余計にややこしくしてるだけだろ」


心臓が一気に速くなる。


聞き逃すわけにはいかなかった。


タツヨも隣で、わずかに体をこわばらせている。


今すぐ話に割り込み、詳しく聞き出したい。


だが、ここで目立つわけにはいかなかった。


俺は何でもない顔を作り、グラスに口をつけた。


「……あの野郎、今どこにいるんだろうな」


男の呟きに、俺は思わずグラスを握る手に力を入れた。


「さあな。クラウス様の館に戻ったとも聞くし、まだ人間の国を見張ってるって噂もある」


「どっちにしろ、また何かやらかしそうだよな」


「違いねえ」


男たちは笑い声を上げると、そのまま別の話題へ移っていった。


俺とタツヨは、しばらく黙ったまま酒を飲んでいた。


そして、十分な時間が経ってから、タツヨが小さく口を開いた。


「……クラウスの館、か」


「ああ」


「手がかり、一つ掴んだな」


俺は静かに頷いた。


まだ、ヴォルグの居場所が分かったわけじゃない。


確かな証拠もない。


それでも、何の手がかりもなかった状態から一歩前へ進めた。


「戻るぞ」


俺たちは酒代をカウンターに置き、何食わぬ顔で席を立った。


重い扉を開けて外に出る。


空はすっかり夕暮れに染まっていた。


異国の空の下にいるというのに、胸の奥にある焦りだけは変わらない。


俺たちはようやく、ヴォルグへと続く最初の手がかりを掴んだのだった。




お読みいただき、本当ありがとうございます。もし気に入っていただけましたら、作品のブックマークや、下の星(☆☆☆☆☆)で応援をお願いします!次の更新の大きなエネルギーになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。