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46歳おっさんの形意拳が、異世界でチートになった 〜魔法も剣も届かない究極の拳法で、第二の人生を無双する〜  作者: 九条竜二


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167話 序列四位、参上



その時、空が白く裂けた。


まるで天そのものが怒り狂ったかのような、巨大な雷の槍が上空から一直線に降り注ぐ。


轟音と共に大気が震え、リュウジィもタツヨも思わず腕で顔を庇った。


「な——!?」


クラウスが咄嗟に身を捩る。


だが完全には躱しきれず、雷の直撃を右肩から浴びて瓦礫の中へと叩きつけられた。


土煙が舞い上がり、抉れた地面から白煙が立ち上る。


誰の攻撃かは分からない。だが、明らかにクラウスだけを狙って落ちてきた一撃だった。


――加勢……なのか?


リュウジィが困惑したまま身構え直したその時、瓦礫の下からゆっくりと立ち上がる人影があった。


「ぐ……ぁ……」


クラウスだった。肩から胸にかけて肉が抉れ、黒い血が止めどなく流れている。


それでも、まだ立っていた。


「あの一撃を受けて、まだ動くのか……」


タツヨが呻くように呟く。リュウジィも言葉を失っていた。


すでに崩拳、追撃、そして血鞭によって己自身の命すら削っていたはずのクラウスだ。そこにあの雷撃だ。


普通の人間なら、いや魔族であっても消し飛んでいてもおかしくない。


「な、んだ……!?」


クラウスが荒い息のまま空を見上げた。リュウジィとタツヨも釣られるように視線を上げる。


そこに、彼女がいた。


瓦礫の上、宙に浮いたまま静かにこちらを見下ろしていたのは、傷一つない姿のローザだった。紫の髪が夜風に揺れ、金色の瞳がまっすぐにクラウスを捉えている。


「悪いね、遅くなって」


誰にも知らせず、誰にも気づかれず。倒れていたはずのローザは、いつの間にか完全に回復していた。


ゆっくりと地に降り立つその足取りには、先ほどまでの疲労の欠片も見当たらない。


「ローザ……!」


リュウジィが思わず声を上げる。


今の一撃が彼女の仕業だったのだと、ようやく理解が追いついた。


ローザは薄く笑いながら、クラウスへと視線を戻した。


「へぇ、ディザスター・ボルトが当たっても死なないんだ。さすが魔族の序列三位だね」


彼女の指先に、小さな光の粒が生まれる。


「片手間で治すのは得意なんだ。それより――魔族さん、もう限界でしょ。自分の血で武器作るとか、正直えぐいけど……その分、もう長くはもたないよね?」


クラウスの表情が、初めて明確に強張った。図星だった。肩の傷から流れる血が止まらず、足元にはすでに小さな血だまりができている。


その隙を見逃さず、ローザの纏う魔力が一気に膨れ上がる。リュウジィもタツヨも、その圧力に思わず息を呑んだ。


――終わらせる気だ。


追い詰めた三人がそれぞれの確信を胸に構え直したその時、空気が変わった。


崩れた瓦礫の陰から、ズシン、と地面そのものが沈み込むような重い足音が響いてくる。


瓦礫を踏み砕きながら現れたのは、岩を纏ったかのようにゴツゴツとした体躯を持つ、コモドドラゴンにも似た顔つきの魔族だった。


「……派手にやられたもんだな、クラウス」


低く、地の底から響くような声だった。


「て、めえは……!」


タツヨが即座に身構える。だが現れた男――フェロシャス・ザ・カパレイス――は、リュウジィたちを一瞥すらせず、倒れかけたクラウスの姿だけを見据えていた。


「……フェロシャス、何故ここに」


クラウスが掠れた声で呟く。フェロシャスは短く鼻を鳴らした。

「魔王様に様子を見てこいと言われたのよ、俺は来たくなかったが。まさか貴様がこんな有様だとは」


「……見苦しいところを見せた」


クラウスが苦々しく吐き捨てる。


フェロシャスは値踏みするような目を寄越しただけで、それ以上は追及しなかった。


「油断したな。最初から本気でやれば余裕で倒せたものを。人間ごときの拳に付き合ってやるからこうなる」


「……否定はせん」


フェロシャスの視線が、初めてリュウジィとタツヨ、そしてローザへと向いた。値踏みするような、それでいて欠片も気負いのない目だった。


「加勢はせん。連れて帰るだけだ」


「待て――」


追撃しようとするリュウジィの足が、しかし止まる。


フェロシャスの纏う気配は、クラウスとはまた違う種類の圧力だった。


声を荒らげるでもなく、ただそこに立っているだけで、空気そのものが軋むような――静かだからこそ底が見えない、そんな威圧感だった。


「今のお前たちなら、俺と多少はやれるかもしれん。だが……今日はやめておけ。無駄死にする気概があるなら、いつでも相手をしてやる」


言うが早いか、フェロシャスはクラウスの体を軽々と担ぎ上げた。巨躯からは想像もつかない静かな動きで、その場から後退り始める。


「くそ、待てっつってんだろ!!」


タツヨが叫びながら踏み込もうとするが、リュウジィがその肩を掴んで制した。


「……タツヨ、よせ」


「なんでだよ!今なら――」


「今のお前と俺の状態を見ろ。あいつが本気で来たら、次はこっちが危ない」


荒い息のまま、リュウジィは拳を握りしめる。


フェロシャスとクラウスの姿は既に瓦礫の陰に消えていた。


後に残されたのは、崩れ果てた廃墟と、まだ燻り続ける煙、そして――勝ちきれなかったという、苦い余韻だけだった。


「……結局助かったか」


タツヨが吐き捨てるように呟く。


リュウジィは答えず、ただ赤黒く染まったファフニールが、ゆっくりと黒へと戻っていくのを見つめていた。


――追い詰めた。だが、殺しきれなかった。


それどころか、助かった。


その事実だけが、静寂の中に重く残っていた。


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