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46歳おっさんの形意拳が、異世界でチートになった 〜魔法も剣も届かない究極の拳法で、第二の人生を無双する〜  作者: 九条竜二


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166話 牙血の果て



リュウジィの崩拳がクラウスの腹部を抉り抜いた。


瞬間。


爆発じみた轟音と共に、巨躯が凄まじい勢いで吹き飛ぶ。


宙を舞い、まだ地に落ちきらないその軌道へ――タツヨの腕の中で、何かが激しく弾けた。


――思い切り、振れ。


声ではない。

だが、確かな意志となって脳裏に流れ込んでくる。


腕そのものと同化したロードアトラスのガントレットの右腕から、かつてないほどの高熱が全身の血流を駆け上がった。


ロードアトラスの魂が、初めて明確な言葉を持ってタツヨに語りかけていた。


「――これがアトラスの真の力か!!」


宙を舞うクラウスの影へ向けて、タツヨは足裏で大地を粉砕するように蹴り出した。


腰の回転を極限まで絞り、肩を伝い、そして右腕へ。


溜め込んだ全エネルギーを、無駄なく水平の軌道へと乗せる。


「ホライゾン・ブレイク!!」


空気を切り裂く鋭いフックが、未だ体勢を立て直せないクラウスの顔面を捉えた。


ただの一撃ではない。

頭蓋の骨の奥、体の軸そのものを揺らし尽くすような絶望的な衝撃が突き抜ける。


クラウスの巨躯はさらに加速し、背後の瓦礫の山へと盛大に叩きつけられた。


「ぐわっ――」


驚愕の声を上げる間すら与えない。


クラウスの体が瓦礫の山を派手に突き破り、幾度も転がって止まる。


もうもうと舞い上がる土煙の中、タツヨは拳を握り締めたまま、荒く肩で息を吐き出した。


第三形態へと覚醒して以来、初めてガントレットとの意志が完全に一つに噛み合う。


拳を握る手応えは、先ほどまでとは次元が違っていた。


「……決まったか」


つぶやいたタツヨの視線の先。

崩れた瓦礫の隙間から、クラウスの腕がゆっくりと、這い出るように動いた。


土煙を払って、クラウスが上体を起こす。


全身に走った亀裂からはおぞましい黒い血が滲み出し、踏みしめる片膝は小刻みに震えていた。


それでもなお、その両眼の光は消えていない。


「……さすがに今のは効いたよ」


「まだ死なねえのかよ」


タツヨが吐き捨てるように言い放つ。


クラウスは歪んだ笑みを口の端に浮かべた――が、その表情は一瞬で消え去る。


代わりに、全身の筋肉が異様な脈動と共に激しく膨張し始めた。


「……本当の魔族の力を見せよう」


クラウスの肉体を覆う漆黒の獅子の幻影が、太陽の如き強烈な光を放って脈打つ。


次の瞬間。


体中の無数の傷口から一斉に黒い血が噴き出した。


それは空中で意思を持ったかのようにうねり、禍々しく形を変えていく。


太さは腕ほど、長さは数メートルにも及ぶ。


まるで意思を持つ巨大な生きた鞭が、瓦礫の上で狂ったように揺らめいた。


「――血鞭(けつべん)」


低く紡がれた呪詛のような呟き。


クラウスが両腕を大きく振るうと、幾筋もの触手が凄まじい唸りを上げて周囲へと放たれた。


たった一本が地面を掠めただけで、硬質な石畳が紙くずのように容易く引き裂かれる。


残りの凶悪な触手が、タツヨとリュウジィめがけて一斉に牙を剥いた。


「っ、なんだこりゃ!!」


タツヨが反射的に跳躍して回避する。

だが、追尾してくる触手の軌道は完全にはかわしきれず、右の

二の腕を鋭く掠め取られた。


生々しい痛痒感と共に、鮮血がじわりと滲み出す。


リュウジィもまた紙一重で身を捻り、本命の一撃を頭上へとやり過ごす。


しかし、しなりながら軌道を変えた別の一本が、容赦なくその脇腹を打ち抜いた。


肺の空気が強制的に押し出されるような、激しい衝撃が全身を駆け巡る。


「……こいつ、自分の血そのものを武器に変えてやがる」


歯をギリギリと鳴らしながら、リュウジィが吐き捨てるように呟く。


対するクラウスは、激しい息を漏らしながらも、その口元にはなおも不敵な余裕の笑みが貼り付いていた。


「牙血族の力を侮ったな。この血は、我が意のままに刃にも鞭にもなる。……もっとも、長くは持たせられんがな」


皮肉な言葉とは裏腹に、クラウスの肉体からは今もなお、止めどなく黒い血が噴き出し続けている。


自らの命脈を削り取っているかのようだった。


それでもなお、その威圧感とプレッシャーは衰えるどころか、逆に先ほどよりも増幅していた。


タツヨが二の腕の浅い傷を一瞥し、鋭く舌打ちする。


リュウジィは血液の触手でうたれた脇腹を押さえつつ、乱れた内功を必死に練り直す。


ファフニールの赤黒いタイガーストライプが狂おしく脈打ち、両手の甲に纏わりつく炎が激しく燃え盛った。


「タツヨ、まだいけるか?」


「当たり前だろ……舐めんなよ」


二人は再び背中合わせに近い距離で構えを取り直す。


だが、その足取りはすでに限界の淵にあった。


荒れ狂う呼吸は整わず、体内を巡る内功の巡りも先ほどより遥かに鈍い。


クラウスもまた、体から血を滴らせたまま、狂気を孕んだ笑みを絶やさずに立っている。


蠢く血の触手が、瓦礫の隙間を這いずりながら二人を確実に包囲していく。


「さあ……どっちが先に倒れるか、試してみようか」


クラウスが殺意を込めて一歩を踏み出した、その瞬間だった。



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