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46歳おっさんの形意拳が、異世界でチートになった 〜魔法も剣も届かない究極の拳法で、第二の人生を無双する〜  作者: 九条竜二


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160話 Sランク魔術士の実力




ローザが指先で小さく円を描くと、足元に光の魔法陣が浮かび上がった。


「じゃ、行くわよ」


その一言と共に視界が白く染まり、次の瞬間には、荒れた街道の脇に三人は立っていた。


アウトローズ・クラウンの入り口から、少し離れた場所だった。


「転移魔法……」


リュウジィが小さく呟く。詠唱もなく地点を指定できる魔法に、リュウジィはただ言葉を失っていた。


ふと、風に乗って血の匂いが流れてきた。真っ先にそれに気づいたのはタツヨだった。


「……この匂い、知ってるぞ」


タツヨの声が僅かに低くなる。


「アズマリアの闘技場と、同じ匂いだ」


雲一つない、よく晴れた空だった。その穏やかな青とは裏腹に、これから始まるのは魔族討伐だった。


ローザが片手を軽く掲げる。指先から淡い光が広がり、周囲一帯に薄く広がっていった。


「サーチ、と。……ふぅん」


数秒の沈黙の後、ローザが軽い調子で言った。


「どうやら、生きてる人間はいないみたいね」


その声には、これといった感情の色がなかった。


「それ以外は……四十匹くらい、いるかな」


ローザはそう言いながら、まるで散歩でもするような足取りで、アウトローズ・クラウンの入り口へと歩いていく。リュウジィとタツヨは、その後ろに続いた。


入り口の前で、ローザは足を止めた。


「じゃ、始めましょうか」


両手の掌を、ゆっくりと天に向けて掲げる。


その瞬間、頭上に無数の光点が生まれた。数えるまでもなく、百は超えている。


橙色に輝くそれらは、まるで小さな太陽の群れのようだった。


「フレア・ストーム!」


その掛け声と共に、火の玉の群れが一斉に落下を始めた。


轟音。


まるで蹂躙のような爆撃が、アウトローズ・クラウンの廃墟へと降り注ぐ。爆発の光が連鎖し、大地が震え、黒煙が幾筋も立ち上っていく。


「……おいおい」


タツヨが呆然と呟いた。リュウジィも言葉を失っていた。あれほどの規模の攻撃魔法を、一言で放つ。これが、この国最強と呼ばれる所以かと、改めて実感させられる光景だった


爆炎の中から、獣じみた絶叫が響いた。


炎に包まれた牙血族の戦士たちが、入り口から次々と飛び出してくる。全身を業火に舐められながらも、なお動こうとするその姿は、もはや人の形をした松明だった。


ローザが軽く手首を返す。


「ウィンド・セイバー!」


一陣の風が刃と化し、逃げ惑う牙血族たちの首を、次々と刎ね飛ばしていった。断末魔すら上げる間もなく、火だるまの戦士たちが地に沈んでいく。


「……魔術士と戦う時は、接近戦に持ち込まないと駄目だな」


リュウジィが低く呟いた。


「だな。あれ、避けようがねえ」


タツヨが相槌を打つ。


やがて悲鳴も途絶え、辺りは静寂に包まれた。


「もう片付いたかな?」


ローザがのんびりとした調子でそう言った、その瞬間だった。


「――っ!」


タツヨが弾かれたように動いた。ローザの身体に飛びつき、押し倒すようにして盾になる。


ガキィィィィン!


金属同士がぶつかるような音が響いた。タツヨはローザを抱えたまま、勢いよく地面を転がる。


「な……!」


顔を上げたリュウジィの視界に、入り口の瓦礫の上に立つ、黒豹のような顔つきをした男の姿が映った。


ガルダだった。


タツヨがゆっくりと立ち上がる。ロード・アトラスの外殻で作られた鎧のおかげで、かすり傷一つついていなかった。

ガルダの顔が、怒りに歪んでいく。


「……許さん。人間ごときが」


低く、地の底から響くような声だった。


「貴様ら、全員殺す」


「ダークネス・クロー!」


その一言と共に、ガルダの姿がふっと掻き消えた。


リュウジィの全身に緊張が走る。


呼吸を整える暇もなく、内功とファフニールの身体強化が瞬時に重なり合い、感覚が研ぎ澄まされていく。


タツヨの手首のブレスレットが、メタリックブルーのガントレットへと変化し、両拳を覆った。


「……サーチが効かない」


ローザが眉を寄せる。それまでの余裕の色が、僅かに消えた。


「防御魔法か何かで自分を守れ!」


リュウジィが叫ぶ。


「ライトシールド!」


淡い光の球が、ローザの身体を包み込んだ。


次の瞬間、見えない爪がリュウジィの喉元を狙って迫った。


「っ!」


反射的に身を反らし、紙一重で躱す。頬に浅く空気を裂くような感触が走った。


タツヨが高速で身体を動かしながら、両拳を鞭のようにしならせる。


「ファントム・ウィップ!」


だが、見えない相手に、その拳は空を切るばかりだった。それでも、自分たちの周囲を何かが動き回っている気配だけは、はっきりと感じ取れる。姿だけが見えない。


リュウジィは呼吸を整え、内功を高めながら、集中を研ぎ澄ませる。反撃の糸口を、ただ待った。


「サーチ効かないし、これはちょっと厄介ね」


ローザが冷静な声で言う。


「タツヨ君、さっきは助かったわ、ありがとね。……二人とも、私の後ろに下がって」


言われるがまま、リュウジィとタツヨはローザの背後に下がった。それでも、見えないガルダが周囲を動き回っているのは、肌で感じ取れた。


ローザが、ふっと防御魔法を解いた。


「シャボン・トラップ!」


その瞬間、リュウジィ、タツヨ、そしてローザ自身を、無数の小さな泡のような光の玉が包み込んだ。


次の瞬間――ローザの右斜め前方で、その泡が一斉に弾けた。


「がああああっ!!」


叫び声と共に、ガルダの左手が吹き飛び、その姿が虚空に浮かび上がった。


「痛そう。あんた頭悪いね、黒猫ちゃん」


ローザが両手を天に掲げる。


「貴様ぁ!」


ガルダが苦痛に歪めた、顔でローザを睨みつける。


ガルダがダークネス・クローで

姿を消そうとした習慣。



「ディザスター・ボルト!」



ズガァッッッッッン!!!




天空から、巨大な雷の槍が一条、まっすぐに爆音とともにガルダを貫いた。



「なっ……おの…れぇぇぇっ」



言葉になりきらない呟きを最後に、ガルダの身体は黒く炭化し、風に溶けるようにして跡形もなく消え去った。



戦いを終えた廃墟の前で、リュウジィとタツヨは、ただ立ち尽くしていた。



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