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46歳おっさんの形意拳が、異世界でチートになった 〜魔法も剣も届かない究極の拳法で、第二の人生を無双する〜  作者: 九条竜二


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158話 四人の夜



「頼む……確かめて、くれ……」

それだけを言い切ると、男の身体からふっと力が抜けた。


「おい! しっかりしろ!」


バッドが肩を揺さぶるが、応える声はもう返ってこなかった。開いたままの目に、光はなかった。


「……逝っちまったのか」


シドが静かに膝をつき、男の瞼を閉じてやる。街灯の下、二人はしばらく言葉もなく立ち尽くしていた。


「クラウンで何があったんだよ、これ……」


バッドが低く呟く。


この世界には警察もなければ、まともなインフラもない。


行き倒れた死体を処理する専門の業者は、王都にちゃんと存在していた。


「シド、お前はジョジョエンに行ってゼノンとギノンに知らせてくれ。俺は死体処理の業者を呼びに行ってから合流する」


「分かった。……終わったら、どこに集まる」


「ジョジョエンの前の、ドナドのおやっさんの深夜食堂だ」


二人はそれぞれ夜の王都へ散っていった。


バッドはその足で業者を訪ね、朝までに回収してもらう手はずを整えてから、深夜食堂へと向かった。


深夜食堂の暖簾をくぐると、鍋の湯気とスパイスの匂いが漂っていた。


カウンターの奥でドナドが仕込みをしており、その隣でフロドが包丁を握って何やら真剣な顔で野菜を刻んでいる。


「おう、こんな時間にどうした」


ドナドが顔を上げる。バッドが険しい表情なのを見て、すぐに何かあったと察したようだった。


程なくしてシドとゼノンとギノンも駆けつけた。


四人は隅の席に固まって座る。


「クラウンが、魔族にやられたらしい」


バッドが低く切り出すと、ゼノンとギノンの顔色が変わった。


「……マジかよ。魔族って?協定結んでるんじゃないの?」


ゼノンが呟く。


三人とも、あのスラムで親代わりだった人間はすでに亡くなっている。血の繋がりも義理もない土地だった。


「正直言って、あそこがどうなろうと知ったこっちゃねえよ」

ゼノンが吐き捨てるように言った。


ギノンも頷く。


「俺もそう思う」


シドも静かに言った。バッドも、腹の底では同じ気持ちだった。母親はジョジョエンで働き、今の暮らしがある。あの土地に未練はない。


だが――


「大して仲が良かったわけじゃないけど……人一人が、最後の力振り絞って伝えに来たんだ」


バッドは拳を握りしめた。


「無下にはできねえよ。俺一人でも、明日の朝一番で様子見に行くぜ」


三人は顔を見合わせた。ゼノンが小さく舌打ちする。


「仕方ねえな……。あんなスラム、今さらどうでもいいけどよ」


「お前一人で行かせるわけにはいかねえだろ」

ギノンも立ち上がりながら言った。


「あくまでも、様子見だからな。ヤバいと感じたら、直ぐ逃げるぞ」


シドは皆を見渡しながら、言った。


その一部始終を、カウンターの奥でドナドが黙って聞いていた。


包丁の手を止めることなく、しかし耳だけはこちらに向けていた。

(こいつは、リュウジィに伝えなきゃならんな)


ドナドはフロドを呼び寄せ、小声で何事か言いつけた。


「フロド、悪いが今からひとっ走り頼まれてくれ。リュウジィのとこに行って、アウトローズ・クラウンが魔族にやられたこと、バッドたち四人で明日様子を見に行くことになったって、そのまま伝えてきてくれ」


「分かりました」


フロドは頷き、店を飛び出していった。


翌朝、王都北へ向かう乗り合い馬車の乗り場。まだ日も昇りきらぬ時刻に、バッド、シド、ゼノン、ギノンの四人が姿を現した。


だがそこには、すでに二つの人影が立っていた。


「……兄貴」


リュウジィとタツヨだった。


「何コソコソやってんだ?お前達」


腕を組みながらリュウジィが言った。


「すいません。兄貴に迷惑かけたらマズいと思って。でも、どんな状況か見に行くだけですよ」


リュウジィが静かに口を開いた。


「話は知ってるよ。これは俺やお前達がどうこうできるレベルの話じゃないぞ。魔族が国内のスラムを占領した――これは国の問題だ」


「しかし兄貴……」


「今日も店があるだろ。お前らは戻れ。俺はこの事を王宮に伝えに行く」


有無を言わせぬ声だった。四人はしばらく黙り込んだが、やがてバッドが小さく頭を下げた。


「……分かりました。すいませんでした」


四人が踵を返し、王都の朝の喧騒の中へ戻っていく。その背中を見送りながら、リュウジィは隣に立つタツヨに目をやった。


「行くか」


「ああ」


二人は王宮へ向けて、静かに歩き出した。




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