↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46歳おっさんの形意拳が、異世界でチートになった 〜魔法も剣も届かない究極の拳法で、第二の人生を無双する〜  作者: 九条竜二


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

155/216

155話 老師と剣士



「まさかアズマリアの三英傑が、二人揃ってここに集まるとはな」


馬車に揺られながら、タツヨが笑いを堪えきれない様子でリュウジィを肘でつつく。


「下手な軍隊より戦力あるだろ、これ」

タツヨの軽口に、リュウジィは苦笑いを返した。


「笑えない話だよ、まったく」


向かいに座るムサシへ目をやると、ムサシは特に気負う様子もなく、窓の外へ視線を向けている。


「アズマリアの時から、三英傑って呼ばれても、正直ピンと来なかったな」


「贅沢な話だ」


タツヨが肩をすくめる。


三人を乗せた馬車は、王都の喧騒を抜けて緑の深い田舎道へと進んでいった。


ヤツハカ村に着くと、その静けさにムサシは目を細めた。


畑の畝、放牧された家畜の鳴き声、村人たちの穏やかな挨拶。


剣を握って以来、こんな空気に触れたのはいつ以来だったか思い出せない。


「悪くない所だな」


ぽつりと呟くムサシに、リュウジィが振り返る。


「気に入ったか」


「ああ。のんびりできそうだ」


村は、以前の惨状が嘘のように落ち着きを取り戻していた。


子供たちが広場を駆け回り、修復された家々の屋根には新しい藁が敷かれている。  


村長がリュウジィたちに気づき、笑顔で駆け寄ってきた。


「これはこれは、リュウジィ様。今日はまた新しい方を?」


「ああ、この村に常駐してもらう剣士だ。ムサシっていう」


村長がムサシに深く頭を下げ、周りに集まってきた村人たちも次々と歓迎の言葉をかける。


ムサシは慣れない様子で頭をかきながらも、その温かさに戸惑いの中に小さな笑みを浮かべていた。


広場の奥から、老師がロンを連れて現れる。


ムサシは思わず居住まいを正した。


剣を握っていた頃から、強者を前にすると自然と身体が引き締まる癖が抜けていない。


「儂の名は郭竜深じゃ。よろしく頼むぞ」


穏やかな声だったが、その一言だけで、ムサシは自分がまだ知らない深さを持つ相手だと肌で理解した。


「ムサシです。よろしくお願いします」


深く頭を下げるムサシに、老師は満足げに頷いた。


村人たちが散っていった後、リュウジィは老師に近寄り、声を落として尋ねた。


「そういえば、魔族が来たって聞いたんだけど。大丈夫だったんですか」


「ああ、あれか」


老師は笑いながらロンの頭を撫でた。


「なに、猫が沢山遊びに来たようなもんじゃ。少し構ってやっただけよ」


あまりにも軽い言い草に、リュウジィは苦笑いするしかなかった。


二十数名を相手にして「猫が遊びに来た」で済ませてしまう老師の底知れなさは、いつまで経っても慣れそうにない。


その傍らで、ムサシは老師の佇まいを黙って見つめていた。


剣を極めようと、ただそれだけを追い求めてきた歳月がある。


言葉にせずとも、目の前の老人がその歳月の先にいる存在だということは、不思議と伝わってきた。


老師の方も、ムサシに向ける視線が少しだけ違っていた。


値踏みするでもなく、ただ静かに認めるような目だった。


「お前さん、いい目をしとるな」


「……そうですか」


「一つの道を、余計なものを削ぎ落として突き詰めてきた者の目じゃ。腰の剣は、まだちゃんと生きとるようじゃな」


図星を突かれ、ムサシは何も返せなかった。だが不思議と、悪い気はしなかった。


ロンが二人の間をすり抜けるように歩き、ムサシの足元に鼻先を寄せる。ムサシはその頭を軽く撫でながら、小さく笑った。


「……よろしくな」


しばらくロンと戯れていたムサシだったが、ふと真顔に戻ると、老師へ向き直った。


「一つ、お願いしたいことがあります」


「ん?」


「初対面で申し訳ないですが、手合わせ、していただけないでしょうか」


タツヨが驚いた顔でリュウジィを見る。リュウジィも、ムサシがそんなことを言い出すとは思っていなかった様子で目を見開いた。


「儂は素手だが、それでもいいのか」


「構いません。老師の底がどこにあるのか、この目で確かめてみたいんです」


老師はしばらくムサシを見つめると、やがて口の端を上げた。


「いい心意気じゃ。よかろう」


広場の端、村人たちが遠巻きに見守る中、ムサシと老師が向かい合う。ムサシは腰の二刀に手をかけたが、抜くことはしなかった。構えだけで、既に隙のなさが伝わってくる。


老師は、いつものように両手をだらりと下げたままだった。


「いつでも来い」


その一言を合図に、ムサシは地を蹴った。


二刀の剣を抜いたその瞬間、すでに老師の掌がムサシの胸に触れ、ムサシは吹き飛ばされて、地面に転がった。


「ぐうっ……」


「大丈夫か?一応手加減しといた」


呆然と空を見上げるムサシの視界に、老師の顔が覗き込む。悔しさよりも先に、笑いがこみ上げてきた。


「……流石です。底なんて、確かめようがないですね」


「年季が違う。強くなるために、捧げた時間がのぅ」


老師が差し出した手を、ムサシは笑いながら掴んだ。


夕暮れの光が広場に差し込む中、リュウジィはその光景をどこか眩しいものを見るような目で眺めていた。


妙に馬が合う二人の様子に、この村の守りはもう心配いらないだろうという確信が、静かに胸の中に広がっていった。


お読みいただきありがとうございました。もし気に入っていただけましたら、作品のブックマークや、下の星(☆☆☆☆☆)で応援をお願いします!次の更新の大きなエネルギーになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。