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46歳おっさんの形意拳が、異世界でチートになった 〜魔法も剣も届かない究極の拳法で、第二の人生を無双する〜  作者: 九条竜二


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150話 闇に蠢く牙


魔族国、王城の広間。


魔族はそれぞれ三つの種族で構成されている。


鬼人族、牙血族(獣族)、鱗の民(爬虫類族)の三つだ。


玉座に座るのは、魔族の頂点に立つ鬼人族の魔王カオサイ・グリフォン。


顔の右半分を覆う黒い面の下から、鋭い視線が広間全体を見渡している。黒髪に生えた二本の角、細身ながら鍛え上げられた体躯には、王者としての威圧が滲んでいた。


その傍らに控えるのは、同じく鬼人族のナンバー2のカイゼル・グリフォン。カオサイの弟であり、銀髪に近い白髪と一本角、がっしりとした体格が特徴の男だった。


居並ぶ重鎮たちの中でひときわ目を引くのは、牙血族のクラウス・バイト。サーベルタイガーを思わせる牙の生えた顔立ちに、好戦的な気性を滲ませた鋭い眼光。魔族序列ナンバー3の地位にある。


その対面に立つのは、鱗の民のフェロシャス・ザ・カパレイス。コモドドラゴンにも似た、岩肌のようにゴツゴツとした顔を持つ、序列ナンバー4の重鎮だった。


「バザルグの件、どうするつもりだ」


クラウスが牙を剥き出しにして、声を荒げた。


「人間どもが、俺たちの仲間を殺した。これを黙って見過ごすつもりか」


対して、フェロシャスが岩のような顔を僅かに動かした。


「殺されたのではなく、殺されたことになっている、が正しいのではないか」


低く這うような声だった。


「どういう意味だ」


「バザルグを最後に見たのは、我々の仲間だという噂もある。人間に殺されたと決めつけるのは、些か早計だろう」


フェロシャスの視線が、広間の隅に控える一人の男へとゆっくり向けられた。


額に太い角を持つ、鬼人族のルシエルだった。魔王直属の五人衆の一人として、静かにその場に控えている。


此度の会議には、序列ナンバー5にあたる翼族の重鎮の姿もなかった。加えて、魔王直属の五人衆のうち二人も、この場には見当たらなかった。


ルシエルは何も言わず、ただ静かにその視線を受け止めていた。


同じく五人衆の一人、牙血族のガルダが一歩前へ出た。黒豹を思わせる精悍な顔立ちに、鋭い牙が覗く。序列上位の重鎮たちを前に、深く頭を垂れながら口を開く。


「クラウス様、フェロシャス様。差し出がましいようですが……理由がどうであれ、我らの仲間が死んだことに変わりはございません。人間どもへの報復は当然かと」


もう一人の五人衆、鱗の民のセティスも静かに続いた。キングコブラを思わせる細長い顔立ちと、感情の読めない瞳が特徴だった。


「ガルダ殿の言い分も分かります。ですが、協定を破れば、四方の人間の国を一斉に敵に回すことになりましょう。今の魔族に、その余力があるかどうか……魔王様のご判断を仰ぎたく存じます」


広間に沈黙が落ちる。誰もが玉座のカオサイの言葉を待っていた。


やがて、魔王がゆっくりと口を開いた。


「……魔族としては、動かん」


「なんでだよ!」


クラウスが声を荒げるが、カオサイは動じなかった。


「人間側から問い合わせがあったとしても、我らは関与を否定する。バザルグの件は、あくまで魔族の中の一部が独断で行ったこと、ということにする」


「どう言う事だ……!」


「クラウス」


カオサイの視線が、初めてクラウスへ真っ直ぐに向けられた。


「お前がどうしてもやりたいなら、止めはせん。だが、それはお前個人の意思、お前個人の力でやることだ。魔族としての力は、一切貸さん」


広間が再び静まり返る。クラウスは拳を握りしめ、屈辱を噛み潰すように押し黙った。


「なら……我が牙血族だけで国一つ落としてやる」


低く呟いたクラウスの目には、隠しきれない怒りの炎が燻っていた。


会議が解散した後、廊下でクラウスを待ち構えていたのは、五人衆の一人、同じ牙血族のガルダだった。深く頭を下げてから、口を開く。


「クラウス様。もし本当にやるおつもりなら、私は何をすれば宜しいですか?」


クラウスは一瞬だけガルダを見つめ、口の端を歪ませた。


「……先ずはバザルグがやられた場所に行って、調査をしてくれ。バザルグが本当に殺されたのか?それほどの力を持つ人間がいるか?」


「わかりました」


二人の影が、薄暗い廊下の向こうへと消えていった。


一方、広間を後にしたルシエルは、一人窓の外を見つめていた。あの夜、王都で見た、二匹の竜の力を纏う人間の姿が、脳裏から離れなかった。


「……面白くなってきた」


その呟きは、誰にも届かぬまま、静かな廊下に溶けていった。

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