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46歳おっさんの形意拳が、異世界でチートになった 〜魔法も剣も届かない究極の拳法で、第二の人生を無双する〜  作者: 九条竜二


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148話 不吉な草原


大型馬車が街道を進み始めてしばらく、荷台の空気は思いのほか和やかだった。


「あんた、その胸当て、随分と洒落たもん着けてるな」


護衛の剣士の一人がタツヨの防具に目を留めて言った。


「サウスチェケラッチョで誂えてもらったばかりだ」


「へえ、道理で見たことない造りだと思った」


もう一人の剣士が興味深そうに覗き込む。


「俺らはこの依頼でたまたま組んだ、ただの冒険者だ」


「タツヨだ。よろしくな」


御者と商人二人を含めた合計6人は、道中の他愛もない話で時間を潰していた。


冒険者稼業の苦労話、キングスフォーンの評判、鉱山都市の名物料理。荷台に揺られながらの会話は、十日間一人で過ごしたタツヨにとって、案外心地よいものだった。


大型馬車が通る道は、乗り合い馬車の街道とは違う。荷の重さゆえに、より平坦で遠回りのルートを選ばざるを得ないのだと御者が説明していた。


日が傾き始めた頃、道は開けた草原地帯に差し掛かった。見通しの良い平原が地平線まで続いている。


その時、荷台の下から鈍い音が響いた。


「……おい、なんか変な音しなかったか」

御者が眉をひそめ、馬車を止める。降りて車輪を確認すると、御者の顔が一気に強張った。


「車軸が歪んでる。こいつは……すぐには直らねえぞ」


冒険者の二人も荷台から降り、車輪の様子を覗き込む。一人が周囲を見渡した瞬間、その表情が凍りついた。


「おい、待てよ。ここ……」


「どうした」


「この草原、確か……」


もう一人が言葉を継いだ。


「『死人帰り』が出るって噂がある場所じゃねえか」

御者の顔から血の気が引いた。


「マズい場所で止まっちまった……」


商人らしき同乗の二人も、その言葉に顔を青くする。


「死人帰りって何だ」


タツヨが尋ねると、剣士の一人が声を潜めて答えた。


「動く死体だ。……この草原じゃ大昔に大きな戦があったらしくてよ。恨みを残して死んだ奴らが成仏できず、夜になると彷徨い出るんだと。土地の年寄りはそう言ってた」


「本当に出るのか」


「噂だけならまだいい。だが、この草原で消えた旅人がいるって話も聞いたことがある」


太陽が地平線に近づき、辺りの空気が徐々に冷え込み始めていた。


「とにかく、直すしかねえ。急ぐぞ」


御者の号令で、全員が車輪の修理に取り掛かった。火を焚き、その明かりを頼りに作業を進める。しかし、揺らめく炎だけでは細部が見えづらく、思うように手が進まなかった。


「くそ、見えねえ……」


御者が舌打ちする。剣士の一人が工具を握りながら、車軸の歪みを確認しようとするが、暗がりの中では正確な位置が掴めない。


一時間、二時間と作業を続けても、進捗は芳しくなかった。やがて完全に日が沈み、辺りは炎の明かりだけが頼りとなる。


「……これ以上は無理だ。明るくなってからやり直そう」


御者の判断で、修理は一旦中断となった。今夜はこの場で夜を明かすしかない。


「火は絶やすな。それだけが頼りだ」


剣士の一人の言葉に、全員が頷いた。焚き火を囲み、それぞれが得物に手をかけながら、緊張した面持ちで夜を過ごす準備を始める。


タツヨは胸当てに軽く触れ、周囲の暗闇に目を凝らした。何も見えない。ただ、草原を渡る風の音だけが、やけに大きく耳に響いていた。


どれほど時間が経った頃だろうか。


草原の遠く向こうに、いくつもの人影が揺らめきながら現れた。



一つ、二つ、五つ、十――数えるうちにも、その数は増え続ける。


「……来た」


剣士の一人が掠れた声で呟いた。


月明かりに照らされたその輪郭は、明らかに生きた人間の動きではなかった。ぎこちなく、しかし確実に、こちらへ向かって近づいてくる。

その数、ざっと五十はいた。


「うわああ! 死人帰りだ! 本当に出やがった……!!」


御者の叫び声が草原に響き渡る中、タツヨは静かに拳を握った。


商人の二人は震える声で何かを唱えながら、荷台の隅で身を寄せ合っていた。御者は震える手で斧を握りしめ、じりじりと後退る。


「くそ、こんな数……どうすりゃ……」


剣士の一人が唾を飲み込みながら剣を抜く。もう一人も同様に剣を構えるが、その切っ先はわずかに揺れていた。


近づいてくる人影は、一様に生気を感じさせない足取りだった。それでいて、その歩みは着実にこちらとの距離を詰めてくる。


焚き火の炎に照らされ、時折その輪郭が浮かび上がるたび、誰かが小さく息を呑んだ。


タツヨは新しい防具の感触を確かめるように、軽く肩を回した。十日前まで知らなかった素材が、今は自分の一部のように馴染んでいる。


「……上等じゃねえか」


その数の多さに怯む様子もなく、タツヨは静かに拳を握った。



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