144話 紹介状
老師のヤツハカ村での一件から数日後、タツヨはMG倶楽部の扉を叩いていた。
「グラニータ、いるか」
奥から作業着姿のグラニータが顔を出した。
「おや、タツヨさんじゃないですか。今日はどうしたんです」
「防具を作ってほしい。この前魔族との戦いで、防具がいかに、大事かよくわかった」
タツヨは自分の体を軽く叩きながら続けた。
「俺は武器を持たない、拳一つで戦う人間だ。だから動きを邪魔しない、軽い防具がいい。素材はヒヒイロカネで頼む。金はいくらかかっても構わない」
グラニータは顎に手を当てて、しばらく考え込んだ。
「ヒヒイロカネですか。手に入らないことはないですが、あれはとにかく希少な代物なので、防具を作る量になると、うちの伝手ではいつ手に入るか読めません」
「じゃあ無理か」
「いえ、どうせなら私の師匠に頼んでみたらどうです。サウスチェケラッチョで工房をやっているんです。ドワーフの鍛冶師で、腕は保証します。何せ、私に鍛冶を叩き込んだ人ですから。素材の伝手も、私よりずっと太いはずです」
「サウスチェケラッチョ……結構遠いな」
「乗り合い馬車で三日ほどです。少し骨は折れますが、その価値はあると思いますよ」
タツヨは少し考えてから頷いた。
「わかった、行ってみる」
グラニータは棚から紙とペンを取り出し、何かを書き始めた。
「これを持って行ってください。私からの紹介状です」
「そんなの、いるのか」
「必須です。師匠は今、あまり注文を受けていないんですよ。特に余所者の飛び込みだと、まず門前払いされます。私の紹介状がなければ、話すら聞いてもらえないと思ってください」
タツヨは紹介状を受け取り、丁寧に懐にしまった。
「わかった、大事に持っていく」
「あと、師匠は少々気難しい人です。ぶっきらぼうな態度を取られても、気を悪くしないであげてください」
「面白そうな爺さんじゃねえか」
タツヨはニヤリと笑うと、その日のうちに旅支度を整えた。
翌朝、乗り合い馬車に揺られながら、タツヨは王都を後にした。土埃を巻き上げながら進む
馬車の窓から、遠ざかっていく街並みを眺める。
先の魔族との戦いで、自分の力不足を痛感していた。
拳がどれだけ鍛えられていても、身を守る術がなければ命取りになる。
まずは自分の身を守る手段を整えることも、生き残るために必要な備えの内だと、タツヨは思っていた。
馬車旅は三日間続いた。乗り合わせた商人や旅人たちと世間話を交わしながら、タツヨは退屈をしのいだ。荷馬車の商人からは、サウスチェケラッチョが鍛冶や採掘で栄えた国だと聞かされ、期待も膨らんでいった。
(そう言えば、リュウジィのファフニールもサウスチェケラッチョの武具屋だったっけ)
道中、馬車が緩やかな山道に差し掛かると、遠くに岩肌がむき出しになった山脈が見えてきた。あの山の奥から、良質な鉱石が採れるのだと商人が誇らしげに語った。
三日目の夕方、ようやく馬車はサウスチェケラッチョの町に到着した。
石造りの建物が並び、あちこちから金属を打つ音が響く、どこか武骨な雰囲気の町だった。通りを行き交う人々の中には、屈強な体つきのドワーフの姿もちらほらと見える。
グラニータに聞いていた住所を頼りに、タツヨは町の外れへと向かった。しばらく歩くと、煙突から煙を上げる一軒の店が見えてきた。
看板には「デカス金物店」と書かれている。
「金物店?武具屋じゃねえのか」
タツヨは首を傾げながら、扉を押し開けた。
店内には様々な鍋や農具が並んでいた。武具らしきものは、見渡す限りどこにも見当たらない。
奥の作業台で、白髪交じりの髭を蓄えた、がっしりとした体格のドワーフが、黙々と金属を叩いている。
「すまない、ちょっといいか」
男が顔を上げた。鋭い目つきで、タツヨを一瞥する。
「武具の注文なら他をあたってくれ。うちはもう武具屋はやってない」
にべもない返事だった。タツヨは慌てて懐から紹介状を取り出した。
「待ってくれ、グラニータの紹介で来た。これを読んでくれ」
男は面倒くさそうに手を止め、紹介状を受け取った。目を通すうちに、その表情が僅かに変わる。
「……グラニータの紹介か、あいつは元気でやってるのか?」
紹介状に目を通しながら、男は言った。
「女性専用の武具屋をやってるよ」
「女性専用武具屋?面白い事やってるのう」
そう言ってしばらく黙り込んだ後、男は小さく舌打ちをした。
「仕方ねえな。話だけは聞いてやる」
男はハンマーを台に置き、タツヨに向き直った。
「俺はアラン・デカス。それで、何が欲しいんだ」
お読みいただきありがとうございました。もし気に入っていただけましたら、作品のブックマークや、下の星(☆☆☆☆☆)で応援をお願いします!次の更新の大きなエネルギーになります!




