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46歳おっさんの形意拳が、異世界でチートになった 〜魔法も剣も届かない究極の拳法で、第二の人生を無双する〜  作者: 九条竜二


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第143話 劈拳と砲拳


翌朝、狩人たちがキングオーグ狩りに出るという話を聞き、老師が興味を示した。


「儂も見せてもらおうか」


俺が説明する前に、老師はもう身軽な装いに着替えていた。ロンも当然のようについてくる。


狩人たちは最初、老師とロンの同行に戸惑いを見せた。だがリュウジィが村に紹介した相手だと知ると、渋々ながら受け入れた。


森の外れ、開けた草原に狩人たちの仕掛けがあった。あらかじめ掘っておいた深い落とし穴を、木の枝と土で偽装してある。足の速い二人組の狩人が囮となり、キングオーグをおびき寄せる算段だった。


「来たぞ!」


一頭目のキングオーグが、囮の狩人たちを追って草原を駆けてきた。


二人の足取りは慣れたもので、絶妙な間合いを保ちながら穴の位置へと誘導していく。


狙い通り、キングオーグは偽装に気づかぬまま踏み外し、そのまま落ちていった。


「今だ!」


穴の周りに集まった狩人たちが、一斉に槍を突き立てた。キングオーグの咆哮が響き、やがて動かなくなる。


縄をかけ、皆で力を合わせて引き上げる。原始的だが、確実な狩りだった。


老師はその一部始終を、黙って眺めていた。腕を組み、時折頷きながら、狩人たちの動きを見定めているようだった。


しばらくして、二頭目のキングオーグが姿を現した。


だが今度は勝手が違った。囮の動きを警戒しているのか、穴の手前で急に進路を変える。


狩人たちが慌てて誘導し直そうとするが、キングオーグは苛立ったように地面を蹴り、逆に狩人たちへと突進を始めた。


「くそ、こっちに来る!」


槍を構える狩人たちの顔に、焦りの色が浮かんだ。


囮役の二人が距離を詰められ、後退が間に合わない。


俺も思わず駆け出そうとした。心臓が跳ねる。


この距離で間に合わない。どうすればいいのか、頭の中を様々な考えが駆け巡ったが、体はまだ距離を詰めきれずにいた。


その瞬間、老師が動いた。

誰も止める間もなく、老師はキングオーグの正面に躍り出た。


二本足で立ち上がり、両手を軽く広げて威嚇するように構える。突進してきたキングオーグの巨体が、まっすぐ老師に迫った。


「危ない!」


誰かが叫んだ。

だが老師は微動だにせず、キングオーグが間合いに入った瞬間、掌をまっすぐに突き出した。狙いはキングオーグの足。


「劈拳」


パァァァァン!


掌がまっすぐな軌道を描いて突き刺さる。骨を打つ鈍い音が響き、キングオーグの巨体が大きく前のめりに崩れた。


グオオオオ!


そのまま倒れ込んでくる巨躯に向かって、老師はもう一撃を放った。今度は拳を下から突き上げるように打ち込む。


「砲拳」


ズドーーーンッ!


次の瞬間、衝撃が波紋のように広がるのが見えた。空気そのものが震えたような感覚だった。


キングオーグの巨体が、まるで芯を抜かれたようにその場に崩れ落ちた。地面が鈍く揺れ、砂埃が舞い上がる。


(やはり老師の五行拳は俺とは別物だ。完全なる放鬆(ファンソン)から放たれる、あの一撃。いつか俺もあれを撃てるようになりたい)


静寂が草原を包んだ。

誰も声を出せずにいた。狩人たちは槍を構えたまま、目の前の光景が信じられないという顔をしている。 


囮役だった二人は、腰を抜かしたようにその場に座り込んでいた。


老師は倒れたキングオーグの傍らに立ち、軽く息を整えていた。それだけだった。息を切らすほどの動きにも見えなかった。


「……今のは、一体」


一人の狩人が、震える声で呟いた。


老師が振り返り、いつもと変わらぬ調子で言った。


「少々手が出すぎたな。狩りの邪魔をしたか」


誰も答えられなかった。ロンだけが、当然だと言わんばかりに老師の隣に座り、尻尾を一振りした。


村に戻ると、話はすぐに広まった。村長をはじめ、昨日老師を疑っていた者たちも、皆言葉を失っていた。


かつて疑いの目を向けていた者たちが、今度は敬意のこもった目で老師を見つめている。


年配の狩人の一人が、老師の前まで来て深く頭を下げた。


「あんな技、生まれてこの方見たことがねえ。あんたは一体、何者なんだ」


老師はただ穏やかに笑うだけで、それ以上は語らなかった。


「昨日は、大変失礼なことを申し上げました」


村長が深々と頭を下げた。老師はただ小さく笑うだけだった。


「気にするな。普通こんな老人に何が出来るんだと、思うからのう」


そう言いながら、老人は声を上げて笑った。


俺はその様子を見ながら、密かに満足していた。


言葉で説明するより、この一撃の方がずっと雄弁だった。

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