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46歳おっさんの形意拳が、異世界でチートになった 〜魔法も剣も届かない究極の拳法で、第二の人生を無双する〜  作者: 九条竜二


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142話 新しい守り手



翌々日、リュウジィは老師とロンを連れてヤツハカ村へ向かった。


馬車が村の入り口に差し掛かると、復興作業を続けていた村人たちが手を止めてこちらを見た。


オルセンが真っ先に気づき、駆け寄ってきた。


「リュウジィさん、お帰りに……あちらの方は?」


俺は馬車を降りながら答えた。


「今日は紹介したい人がいて来ました。この方が、これからこの村に住んで、村を守ってくださることになりました」


老師が軽く会釈すると、隣で犬の姿をしていたロンが、白い光に包まれた。


光が収まると、そこには本来の姿――巨大な銀色の毛並みを持つ、シルバーウルフの姿があった。


村人たちがどよめいた。子供たちが小さく悲鳴を上げ、大人たちも思わず後ずさった。


「ご安心を。この者は儂の連れです。危害を加えることはありません」


老師がそう言うと、オルセンが恐る恐る前に出た。


「わ、わかりました……村長を呼んで参ります」


しばらくして、村長がやってきた。事情を聞いた村長は深く頭を下げたものの、老師の姿を見て、どこか戸惑うような表情を浮かべた。


「リュウジィ様には感謝しかありません。ですが……失礼を承知で申し上げますと、この方お一人で、本当に村を守っていただけるのでしょうか」


村長の言葉に、周囲の村人たちも小さく頷いた。目の前の老師は、とても魔物と渡り合えるような体つきには見えない。魔物の群れに襲われた記憶がまだ生々しい今、その飄々とした佇まいに不安を覚えるのは当然だった。


「村長、この方は俺が保証します。これ以上の適任はいません」


俺はそう言ったが、村人たちの表情に浮かぶ不安の色は、簡単には消えなかった。老師は特に気を悪くした様子もなく、静かに笑った。


「疑うのは当然のことだ。儂も見た目だけで信じろとは言わん」


その一言に、村長はばつが悪そうに頭を下げた。


「申し訳ございません、そういうつもりでは……」


「気にするな。そのうちわかることだ」


老師はそう言って、オルセンの案内で村の中を歩き始めた。


倒壊した家屋の跡地には新しい柱が立ち始めている。老師は特に多くを語らず、時折頷きながら話を聞いていた。


俺はその後ろ姿を見ながら、密かに安堵していた。ハクさんとの再会がなければ、この頼み事すら思いつかなかった。あの日、老師をジャンヌダルクに誘ったのは、ただの恩返しのつもりだった。 


それが巡り巡って、この村の未来を変えることになるとは思ってもみなかった。もっとも、その未来を村人たちに信じてもらうには、まだ少し時間が要りそうだった。


一方、ロンは村の中央で伏せをしたまま、鋭い目で周囲を見回していた。村人たちは遠巻きに眺めるばかりで、誰も近づこうとしない。


最初に動いたのは、幼い女の子だった。母親の手を振り払い、迷いなくロンの前まで歩いていく。


「わあ、おっきい」


女の子が手を伸ばした瞬間、ロンが低く唸り、僅かに牙を覗かせた。女の子がびくりと固まる。周囲の大人たちが息を呑んだ。


だが女の子は一瞬怯んだだけで、すぐにまた手を伸ばした。


「ふわふわ……」


指先が銀色の毛に触れる。ロンは唸るのをやめ、戸惑うように鼻先をひくつかせた。威嚇にしては、あまりに及び腰だった。


「こら、危ないから離れなさい」


慌てて駆け寄った母親に、女の子が振り返って言った。


「大丈夫だよ、怖くないもん」

その様子を見ていた他の子供たちが、我先にと集まってきた。


「俺も触りたい!」


「僕も!」

あっという間にロンの周りは子供たちに囲まれた。ロンは何度か身を引こうとしたが、四方から伸びる小さな手に阻まれ、逃げ場を失っていく。


「あの、大丈夫でしょうか。噛みついたりは」


心配した母親の一人が老師に尋ねた。


「案ずるな。あれで律儀な奴だ。害意のない者に牙を剥くことはせん。……ただ、少々気位が高くてな」


老師の言葉に安心したのか、大人たちも次第に近づき始めた。


「立派な毛並みですね」


「触ってもいいですか」


一人、また一人と手が伸びる。ロンは観念したように動くのをやめ、目を閉じて撫でられるがままになっていた。


誇り高い狼が、見知らぬ村人たちの手の中で、今はすっかり大人しくしている。


やがて小さく喉を鳴らし、尻尾がゆっくりと地面を叩き始めた。


俺は思わず笑ってしまった。


「ロン、随分あっさり陥落したな」


ロンが横目でこちらを睨んだ。だがその尻尾は、相変わらずゆっくりと動き続けていた。


村を見回り終えた老師が戻ってきて、その光景を見て小さく笑った。


「あやつも、思ったよりこの地が気に入ったようだな」


だが村長をはじめ、大人たちの視線には、まだどこか半信半疑な色が残っていた。


老師の実力を、彼らはまだ何も知らない。


新しい守り手を迎えた村に、疑念と歓迎の入り混じった空気が広がっていた。





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