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46歳おっさんの形意拳が、異世界でチートになった 〜魔法も剣も届かない究極の拳法で、第二の人生を無双する〜  作者: 九条竜二


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141話 命を救われた男



翌日、リュウジィは老師をジャンヌダルクへ案内することにした。


「老師、俺が経営してる店があるんです。良かったら飲みに行きませんか」


「ほう、お前の店か」


老師の目が少し輝いた。ロンが一緒について来ようとしたが、店の前で足を止めた。


「ロン、お前は外で待っていてくれ」


老師がそう言うと、ロンは不満げに一声鳴いたものの、素直に店の脇で伏せをして待つことにした。


犬の姿では店に入れない。ロンもそれをわかっているようだった。


「ごめんな、ロン。ちょっと待っててくれ」


俺がそう声をかけると、ロンは尻尾を軽く振って応えた。


店内に入ると、いつもの喧騒がホールに満ちていた。  


カウンターの奥から、ハクさんがこちらに気づいて顔を上げた。

「リュウジィさん、お疲れ様です。今日は珍しいお客様連れですね」


ハクさんが老師の姿を認めた瞬間、表情が固まった。


しばらく言葉を失ったように立ち尽くしていたが、やがてカウンターを回り込み、まっすぐ老師の前まで歩み寄った。

そして、深く頭を下げた。


「……郭先生」


店内の空気が一瞬で変わった。俺は驚いてハクさんを見た。ハクさんがこんな風に頭を下げる姿を、今まで見たことがなかった。


老師はハクさんの顔をじっと見て、目を細めた。


「お前……ハクか。随分と老けたな」


「先生もお変わりなく」


「儂は歳を取らん性分でな」


ハクさんが軽く手を上げると、店の女の子の一人が心得たように近づいてきた。


俺は老師とハクさんを促し、奥のボックス席に腰を落ち着けた。女の子が老師の隣に座る。


「先生、こちらの席へ。何かお飲み物をお持ちしましょう」


老師は気にする様子もなく、勧められるまま席についた。


ハクさんが向かいに腰を下ろしながら、俺にも座るよう促した。その目には、懐かしさと畏敬の入り混じった色が浮かんでいた。


「まさかこんな所で再会できるとは。夢にも思いませんでした」


俺は二人を見比べながら尋ねた。


「お二人は、知り合いだったんですか」


ハクさんが小さく頷いた。


「ええ。若い頃、同じ傭兵団に所属していました。もう二十年以上も前の話です」


「まさか老師と、そんな繋がりがあったなんて」


老師が杯を傾けながら言った。


「あの頃のハクは、無鉄砲な小僧だったな。何度も先走って、危ない目に遭っておった」


「勘弁して下さい」


ハクさんが苦笑いを浮かべた。


「先生には、何度命を救っていただいたか。数えきれません」

老師は特に得意げな様子も見せず、静かに酒の入った杯を傾けた。


「儂は当然のことをしたまでだ」


「当然のことで済ませられる回数ではありませんでしたよ」


二人のやり取りには、長い年月を経てもなお色褪せない、確かな信頼が滲んでいた。


俺はその様子を眺めながら、老師という人物の懐の深さを改めて感じていた。


孤島で俺を鍛えてくれた時も、そしてタツヨに稽古をつけた時も、老師は決して驕らず、ただ淡々と力を示すだけだった。


しばらく昔話に花を咲かせた後、話が一段落したところで、


ハクさんが席を外した。

俺はふと、老師とハクさんのやり取りを思い返していた。


ハクさんほどの実力者が、今なお敬意を持って頭を下げる相手。その強さを、俺はこの目で嫌というほど見てきた。


(この人が、もしこの国にいてくれたら)


そこまで考えて、我ながら図々しい思いつきだと苦笑した。


だが、口にしないまま終わらせるのも違う気がした。


「老師、実は折り入ってお願いしたいことがあるんですが」


老師が杯を置いて、俺に目を向けた。


「聞こう」


「王都の外れに、ヤツハカ村という村があります。少し前に魔物の襲撃を受けて、今も復興の途中です。あの村には、常駐して守ってくれる強い人材が必要だと思っていて」


老師が黙って俺を見つめた。


「もし良ければ、老師にあの村に住んでいただいて、村を守っていただけないでしょうか?勿論老師が必要な物は全て揃えます」


図々しい頼みだとわかっていた。孤島での生活を捨てさせるような話だ。


断られても仕方がないと思いながら、俺は老師の返事を待った。


老師はしばらく考えるように黙っていたが、やがて小さく笑った。


「別に構わんぞ」


「本当ですか?」


「島に大事な物があるわけでもない。着の身着のままで来たようなものだ。どこで暮らそうと、大して変わらん」


あまりにあっさりとした返事に、俺は拍子抜けした。


「勿論ロンも一緒です」


「あやつが一緒じゃなければいかんよ。当然だ」


老師は杯を傾けながら、窓の外に目をやった。ロンが店の脇で伏せをしたまま、こちらを見上げているのが見えた。


「終の住処として、いいかもしれんな」


その言葉に、俺は深く頭を下げた。


「ありがとうございます」


店の外で待つロンに、良い知らせを伝えるのが待ち遠しかった。



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