第138話 復興とカイエンタイ
翌朝から村の復興が始まった。
夜明けと共に村人たちが動き出した。
壊れた家の壁を直し、焦げた地面を均し、使えなくなった道具を片付ける。リュウジィも作業着代わりにファフニールの上から布を羽織り、村人たちと一緒に動いた。
最初に手をつけたのは倒壊した家の片付けだった。太い木材が折れ、石壁が崩れ、屋根が落ちている。一人では動かせない重さのものばかりだった。
「こっちを持ってくれ」
リュウジィが声をかけると、村人の男が二人駆け寄ってきた。
三人がかりで太い梁を持ち上げ、邪魔にならない場所へ運ぶ。単純な作業だったが、積み重なっていくと少しずつ広場が開けていった。
カミラは無言で重い石材を運んでいた。
一人で大人三人分は動かしていた。村人たちがその光景に目を丸くしている。
タツヨはバファリオンで回復した身体でてきぱきと木材を組み、ジャスパーとオリオンも率先して手を動かした。
アミリは作業の合間に怪我人の経過を確認しながら動き回っていた。
ミライは村の女性たちと食事の準備を仕切っていた。昼時になると、村の広場に温かい料理が並んだ。
キングオーグの干し肉を使った煮込みで、アイテムボックスに入っていた分を全部出した。
「こんな状況でよくここまで作れますね」
アミリがミライに言った。
「材料さえあれば何とかなるものよ」
ミライが笑って返した。
村人たちが久しぶりに温かいものを口にして、少しだけ顔が和らいだ。子供が笑い声を上げた。その声が広場に響いた。
昼飯を食いながら、タツヨが隣に座った。
「なあリュウジィ、そういえばハクさんから商会名を決めろって言われてたよな」
「ああ、ずっと思いつかなくてな」
「お前何か考えてるのか」
俺は少し考えてから言った。
「坂本龍馬の海援隊から取って、カイエンタイ商会はどうだ」
タツヨが飯を噴きそうになった。
「武田鉄矢かよ!」
「うるさい、語呂がいいだろ、亀山社中よりましだろ?」
「いや確かに語呂はいいけどさ」
タツヨは笑いながら首を振った。
「まあでも悪くないな。カイエンタイ商会か」
「決まりだな」
「お前本当に変なところで現世引きずるよな」
「お互い様だろ」
二人で笑った。村人たちが不思議そうにこちらを見ていた。
数日間の作業で、村は少しずつ元の姿を取り戻していった。壊れた家が直り、道が整備され、
村人たちの顔から少しずつ緊張が消えていった。
最終日の夜、村長がリュウジィに頭を下げた。
「本当にありがとうございました。あなた方がいなければ、この村はどうなっていたか」
「俺たちにできることをしただけです」
「しかし、またいつあのような魔物が現れるかと思うと」
リュウジィは村長の言葉を聞きながら、ふとあることを思った。
この村には強い人材が必要だ。魔物が出た時に、王都に助けを求めるだけでは間に合わない。
「村を守れる人間を探してみます」
村長が顔を上げた。
「本当ですか」
「約束はできないけど、考えてみます」
村長が深く頭を下げた。
リュウジィは夜空を見上げた。
今回は運良く間に合った。
だが次は間に合わないかもしれない。王都から駆けつけるには時間がかかりすぎる。村に常駐できる、それなりの実力を持った人間が必要だった。
心当たりがないわけではない。だがそれは王都に戻ってから考えることだ。今夜はまず、ゆっくり休もう。
翌朝、一行はヤツハカ村を後にした。オルセンが村の入り口まで見送りに来た。
「リュウジィさん、また来てください」
「ああ、また来るよ」
二台の馬車に分かれて王都へ向かった。揺れる馬車の中でタツヨが言った。
「カイエンタイ商会か。なんか本当に武田鉄矢みたいだな」
「もう言うな」
タツヨが笑った。俺も笑った。
しばらく無言で揺られた。街道沿いの木々が窓の外を流れていく。
「なあリュウジィ、今回の件で思ったんだけどさ」
「何だ」
「魔族が本気で動き出したら、俺たちだけじゃ限界があるよな」
俺は黙って頷いた。タツヨの言う通りだった。バザルグ一人でもあれだけ手こずった。
魔族の国には、あれ以上の存在がいくらでもいるはずだ。
「店の連中も強くなってきてるけどな」
「バッドとかゼノンたちはよく育ったよな」
「ああ。だがまだ足りない」
タツヨが窓の外を見た。
「まあ考えても仕方ないか。今日のところは飯でも食って寝よう」
「それが一番だな」
馬車の窓から王都の輪郭が見えてきた。
夕暮れの光が街並みを赤く染めている。
王都まで、もうすぐだ。
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