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46歳おっさんの形意拳が、異世界でチートになった 〜魔法も剣も届かない究極の拳法で、第二の人生を無双する〜  作者: 九条竜二


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第137話 生贄



山の斜面の奥深く、バザルグは岩に背中を預けて座っていた。


胸に大穴が開いている。黒い血が止まらない。呼吸するたびに胸の奥で音がした。


黄色い目が虚ろに空を見上げていた。木々の間から差し込む光が、やけに眩しかった。


「生きてるか」


声がした。

木の陰からルシエルが現れた。赤髪が風に揺れている。口角は上がったままだった。


「ルシエル、お前来てくれたのか?」


「様子を見に来たんだよ。お前が帰ってこないから」


ルシエルはバザルグの隣にしゃがみ込んだ。胸の傷を覗き込み、小さく舌を打った。


「しかし酷い傷だな。あの人間にやられたのか」


「ああ。竜の力を纏った拳だった。あんな人間、見たことがない」


バザルグの声は掠れていた。魔力も底をついている。このまま放っておけば死ぬだろう。


「協定を破って人間界に来た俺が悪かったのか。だがあの二人は強すぎる。まさかあそこまでとは思わなかった」


「そうだな」


ルシエルは静かに頷いた。


「お前が負けるとは思わなかったよ」


「俺もだ」


バザルグが苦悶の表情を浮かべながら言った。


「なあルシエル、助けてくれ。魔力を分けてくれれば、ここから動ける。このままじゃ終われねえよ。次こそは必ず二人とも殺してやる。お前も同じ気持ちだろ?人間なんかに負けたままでいられるか」


ルシエルは何も言わなかった。


「頼む。お前しかいないんだ」


バザルグの黄色い目がルシエルを見上げた。必死さが滲んでいた。


「そうだな」


ルシエルは立ち上がり、バザルグを見下ろした。しばらく黙ってバザルグを見ていた。


(使えなくなった駒は捨てるだけだ)


ルシエルの頭上に菱形の漆黒の塊が浮かび上がって、音を立てながら、ゆっくり旋回した。


バザルグの目が見開かれた。


「おい、何をする!」


「次はないよ。ここで終わりだ。お前には生贄になってもらう」


菱形の塊がバザルグに向かって放たれた。


ズガァッシュッ!


バザルグの頭部が消し飛んだ。


山の中が静かになった。

ルシエルは血が飛んだ袖を軽く払い、崩れ落ちたバザルグを見下ろした。


「俺も使えるんだよ、ネクロ・オーブ。お前は魔族と人間が闘うための生贄だ」


風が吹いた。木々が揺れた。

ルシエルは踵を返した。口角が上がったままだった。これで人間が魔族を殺したという既成事実ができた。あとはそれをうまく使うだけだ。


魔族の国に戻りながら、ルシエルは思った。面白くなってきたと。


場面が変わる。


ヤツハカ村の入り口に、人影が二つ見えた。


タツヨの左腕を肩に回したリュウジィが、ゆっくりと村へ向かって歩いてきた。


村人たちが駆け寄ってくる。


「リュウジィさん!」


「魔物は倒した。もう出てこない」


どっと歓声が上がった。村人が泣きながら頭を下げる。オルセンが目を赤くしながら立っていた。


その歓声の中、人垣を割って二人の女が現れた。


ミライとカミラだった。


ミライはリュウジィの顔を見た瞬間、ほっとした表情になった。次の瞬間、その表情が変わった。


「何で黙って来たの」


「緊急事態だったんだ。ごめん」


「ごめんじゃないでしょ。一言くらい言えるでしょ」


「本当にすまなかった」


ミライは唇を噛んだ。


「心配したんだから」


「わかってる」


「わかってるじゃないでしょ」


ミライの声が少し震えた。リュウジィは何も言わずにミライの肩を引き寄せた。ミライは抵抗しなかった。しばらくそのままでいた。


「次は言って」


「ああ、言う」


ミライがリュウジィの腕に手を絡めた。その手が少し震えていた。


カミラがタツヨを見た。


「あんた、随分とやられたね」


「まあな。久しぶりに本気でやばかった」


アミリが駆け寄ってきた。タツヨの状態を確認し、すぐに回復魔法バファリオンをかけ始めた。タツヨの顔から徐々に苦痛の色が消えていく。


折れた骨が戻っていく感覚にタツヨが顔を歪めた。


タツヨがアミリに言った。


「助かった。お前がいてくれて良かった」


「無茶しないでください。本当に」


アミリが半泣きで言った。タツヨは苦笑いした。


リュウジィは村を見回した。遺体が並んでいた広場、壊れた家の壁、焦げた地面。犠牲になった人たちのことを思うと、胸が重くなった。


魔物は倒した。だがそれだけでは足りない。


数日間、ここにいよう。村の復興を手伝ってから帰る。それくらいしか今の俺にはできない。


そう思いながら、リュウジィはミライの手を握り返した。ミライの手の震えが、少しだけ収まった。



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