第136話 闇を裂く竜の炎
真紅に染まったファフニールを纏い、俺は男と向き合った。
内功を高めるたびに、ファフニールの赤が深くなっていく。
ニーズヘッグリングも呼応するように熱を帯び始めた。
男が足を止めた。黄色い目が俺を値踏みするように見ている。
「さっきより随分と変わったな」
俺は答えなかった。
跟歩で一気に間合いを詰めた。
赤と金色の残像が、流れるように走る。
炎を纏った拳で、男の腹部を撃ち抜く。
「崩拳!」
グワァッッシャ!
そのまま男は五メートルほど後退した。
さらに追撃をかけようと踏み込んだその瞬間。
「貴様あぁ!今のは効いたぞ」
苦悶の表情を浮かべながら、男が叫んだ。
ネクロ・オーブが超スピードで俺に向かって飛んでくる。
横から飛び出してきたタツヨが、それを撃ち落とす。
ガキィィィッン!
「このパンチングボールは、俺に任せとけ」
俺は男の懐に入った。そして炎を纏った外回転の掌を胸に叩きつけた。
「横拳」
ズバァァァッ!
男の身体がくの字に曲がりながら後退する。
(ここで決める)
前進して、最後の一撃を決めようとした、その瞬間地面が凹凸のある形状が変わった。
「何い!?」
勢いよく前進していた俺はバランスを崩した。前のめりに倒れそうになる。視界の中で、男の全身から黒い魔力が膨れ上がる。
さっきのエクリプス・ホライゾンとは違う。もっと凝縮された、一点に集中した力だった。
「グラビティ・クラッシュ」
男の拳に漆黒の魔力が収束した。
俺は回避しようとしたが、重力が変わった。身体が地面に引きつけられる感覚。足が動かない。
「まずい!やられる」
その瞬間、タツヨが俺の前に出て盾になった。
ズドォォォォッン!!
漆黒の拳がタツヨの胸に直撃した。
タツヨの身体が弓なりに曲がり、斜面を転がりながら岩に激突した。岩にひびが入った。
「タツヨ!」
タツヨは動かなかった。俺は駆け寄った。タツヨが仰向けに倒れている。胸が上下しているから生きている。
だが顔色が悪い。口の端から血が流れ、右腕が変な方向に曲がっていた。
「てめえぇぇぇぇ!」
胸の奥で何かが、一気に爆発した。
頭の中で金切り音がなる。
キイィィィィィッン!!
立ち上がった瞬間、ファフニールが変わった。真紅の地に、黒い爪痕のような筋が刻まれていく。赤と黒が混ざり合い、タイガーストライプが全身を覆った。
男が初めて表情を変えた。黄色い目が見開かれる。
「なんだ、その力は」
俺は答えなかった。
地面を蹴った。さっきまでとは比べ物にならない速さだった。男が反射的にネクロ・オーブを放つが、俺には当たらない。
赤黒い炎を纏った身体で、内功盤根の円の動きで全て躱し、男の懐に一瞬で潜り込む。
「エク——」
男がエクリプス・ホライゾンを発動しようとした瞬間、俺の拳に纏った炎が竜の顎となりニーズヘッグリングの銀の光がまるで竜の目のようになった。
竜の炎の拳が男の顔面をとらえた。
「鑽拳」
ズガァァァッン!!
男の身体が宙を舞った。木々をなぎ倒しながら斜面を転がり、大きな岩に激突して止まった。しばらく間があった。
男がゆっくりと立ち上がった。
グシャグシャになった顔の中の黄色い目がこちらを見ている。
地面を蹴って神速のスピードで男の前に行く。そして竜の炎を纏った両掌で胸を撃った。
「虎形拳」
ゴオォォォォッ!!
男の胸が爆発したように穴があき吹き飛んで、山の斜面に貼り付けられるよう激突した。
グシャァァァ!!
次の瞬間、黒い靄が男を包んだ。そして男の姿が消えた。
結界が解けた。遮られていた朝の光が戻ってくる。木々の葉が風に揺れ始めた。
タイガーストライプが徐々に薄れ、ファフニールが漆黒に戻っていく。
俺はタツヨの元に駆け寄った。
「仕留めたか?」
「わからない」
「そうか」
タツヨが小さく笑った。すぐに顔を歪める。笑うのも痛いようだった。
「相変わらず、お前のそれは反則だな」
「俺にもよくわからないよ」
「嘘つけ」
アイテムボックスからナロキシンを取り出してタツヨに飲ませた。痛みは引くが、折れた骨は治らない。アミリを呼ばなければならない。
「動けるか」
「なんとかね」
俺はタツヨの左腕を肩に回した。二人で斜面を下り始めた。
漆黒のファフニールの生地が朝の光を受けて、金色の筋をわずかに光らせていた。
あの男は死んだのか。それとも逃げたのか。
胸を撃ち抜いたはずだ。だが魔族がそれだけで死ぬとは思えない。これで終わりではないはずだ。
しばらく無言で歩いた。タツヨの呼吸が少しずつ落ち着いてきた。
「無茶しやがって」
「お互い様だろ」
タツヨが笑った。今度は顔を歪めなかった。
お読みいただきありがとうございました。もし気に入っていただけましたら、作品のブックマークや、下の星(☆☆☆☆☆)で応援をお願いします!次の更新の大きなエネルギーになります!




