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46歳おっさんの形意拳が、異世界でチートになった 〜魔法も剣も届かない究極の拳法で、第二の人生を無双する〜  作者: 九条竜二


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第135話 闇とのファーストコンタクト



その瞬間、周囲の空気が変わった。


さっきまで差し込んでいた朝の光が遮られ、二人の周りだけがぽっかりと暗くなった。


木々の葉が音もなく揺れを止め、風も消えた。地面から黒い靄のようなものが滲み出し、足元に纏わりついてくる。


タツヨが周囲を見回した。


俺も警戒しながら辺りを見た。


山全体は変わっていない。鳥の声も聞こえる。だがこの場所だけが、切り取られたように異質な空間のようだった。


頭上から人影が降ってきたのは、その時だった。

着地の衝撃で地面が揺れた。黒い靄が男を中心に広がり、周囲の木々の葉が一斉に枯れ落ちた。


額から上に向かって伸びる太い角。黒に近い褐色の肌。後ろに向かって斜めに尖った耳。首から頬にかけて刻まれた複雑な模様のタトゥー。金髪のミディアムショートが、靄の中で揺れていた。


黄色い目が俺とタツヨを交互に見た。怒りで顔が歪んでいた。


「たかが人間ごとぎやってくれなぁ。俺の魔物を、殺しやがって」


低く、地を這うような声だった。男の全身から黒い魔力が立ち上っている。それだけで空気が重くなる。息をするのが苦しいほどの圧迫感だった。


タツヨが俺の隣に並んだ。


「なんだこいつ」


「多分魔族だ」


魔族であろうその男は怒りに震えながら言う。


「ワイルドオーグといい、船といい、そして今回の二体。貴様ら」


「あれお前が関係してたのか?」


タツヨの言葉が終わる前に、男は右手を軽く振った。それだけで黒い鉄球のような塊がタツヨに向かって飛んだ。


ゴッォォォ!


その塊をタツヨは腕をクロスして受けたが、足が地面を削りながら後ろに弾き飛ばされた。間髪入れずに、その塊が今度は俺に向かって飛んでくる。


俺は咄嗟に劈拳を合わせた。


パアッッッッン!


物凄い破裂音が響き渡る。塊の圧力に負けて俺の身体は後ろに後退させられた。全身に痺れが走る。片手で受け切れる代物じゃない。


塊は男の元に戻り、頭上一メートルほどの所でゆっくりと旋回し始めた。


既に第二形態に変化したトゲだらけのガントレットを纏ったタツヨが、軽いステップを踏みながら言う。


「おいおい、何だそれは?」


男が片側の口角を上げながら言った。


「闇属性魔法。ネクロ・オーブ」


タツヨが一気に距離を詰める。旋回する黒い球体がタツヨを狙って飛んだ。


タツヨは身体を低くして躱し、さらに加速して懐に飛び込む。ここまで来れば球体は使えない。


「もらった!」


「近づけば勝てると思ったか?」


ズドーンッ!!


タツヨの右フックのタイミングに合わせて、男が放った膝蹴りが、カウンターでタツヨの腹部に刺さった。


「うぐっ!」


タツヨが吹き飛んだ。その瞬間を狙っていた俺は、男の側面に回り込んで無防備な腹部に崩拳を叩き込んだ。


ドンッ!


手応えがあった。だが男はよろめきもしない。顔色一つ変えず、俺を見下ろした。


「それだけか。エクリプス・ホライゾン」


次の瞬間、魔族の身体から溢れ出た漆黒の魔力が、一瞬にして爆発的な斥力へと変わった。魔族を中心とした綺麗な正円状の衝撃波が、爆発的に外側へと広がる。


地面の土や硬い石、転がっていた瓦礫のすべてが、まるで円形の津波のように巻き上がり、全方位へと弾け飛んだ。


俺の身体はその圧倒的な質量の波に呑み込まれ、骨の軋む音とともに遥か後方へと吹き飛ばされた。


どこかに叩きつけられた感触があったが、何に当たったのかもわからなかった。


砂煙が晴れた後に残されたのは、魔族を中心に、まるでコンパスで描いたように見事な円形に削り取られた不毛のクレーターだけだった。


男は追撃をせずに、こちらを見ながら立っている。


何とか身体を起こすと、タツヨはすでに立ち上がり、ファイティングポーズを取っていた。しかし口元から血が流れ、呼吸が乱れていた。


俺も全身が悲鳴を上げている。さっきまでの魔物との戦いで既に消耗していた身体に、これだけの一撃を受けた。


俺は胸元のアイテムボックスからナロキシンを二本取り出し、一本をタツヨに投げた。二人で一気に飲む。痛みが引いていく。だが、それだけだ。


「これでまだ動ける。しかしあの金髪強えな」


タツヨが息を整えながら言った。普段のタツヨなら軽口の一つも出るはずだが、今は声に余裕がない。それだけ追い詰められていた。


俺は呼吸を整え内功を高めた。その瞬間、ファフニールが漆黒から真紅に変化した。


男が俺を見た。黄色い目が細くなる。


「竜の力か。面白いな、人間にしては」


男がゆっくりと近づいてくる。一歩踏み出すたびに地面が沈むような重さがあった。


旋回するネクロ・オーブが、男の頭上でゆっくりと動いている。


村の広場に並んでいた遺体が頭に浮かんだ。むしろの端から覗いていた、小さな手が。

胸の奥で、何かが燃え始めた。




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