第134話 魔物討伐
岩の獣が地面を蹴った瞬間、俺は横に跳んだ。
突進の速さは想定以上だった。巨体に見合わない速度で、額の角が俺のいた場所を薙ぎ払う。
地面が抉れ、土煙が上がった。
横に跳んだ瞬間、内功を高め、践歩で間合いを詰める。
岩のような皮膚に劈拳を叩き込む。
スパァァァァッン!
手に衝撃が走った。
弾かれた。
皮膚が硬すぎる。通常の発勁では通らない。獣が振り返り、今度は真横から体当たりを仕掛けてきた。
咄嗟に跳び退いたが、掠った衝撃だけで身体が吹き飛んだ。木の幹に背中を叩きつけられ、息が詰まる。
「ぐっ」
立て直す間もなく、獣が再び突進してくる。今度は正面から。
俺はギリギリまで引きつけてから横に跳び、角が通り過ぎる瞬間に両足で木の幹を蹴って加速。
獣の側面に回り込んで崩拳を叩き込んだ。
ズドォォォォッン!
今度は手応えがあった。獣がよろめく。皮膚の継ぎ目を狙えば
通る。
タツヨの方を一瞬だけ見た。
大蛇の魔物が上空を旋回しながら、急降下のタイミングを計っていた。タツヨは動かずに待っている。
両手のブレスレットがアトラスに変化していた。
「来いや!」
タツヨが低く呟いた。
大蛇の魔物が急降下した。煙の翼を畳んで一直線に落ちてくる。タツヨは最後の一瞬まで動かなかった。
直前、タツヨが右ストレートを放った。
ガシャァァッン!
大蛇の顎に直撃した。巨体が弾かれ、斜面に叩きつけられる。煙の翼が霧散し、大蛇の身体がうねりながら、地面を激しく転がった。
しかし起き上がった。
鱗に傷一つない。黄色い目が怒りに染まり、今度は地を這いながらタツヨに向かっていく。
「速ええ!」
タツヨが舌打ちをした。蛇の動きは地上では予測が難しい。左右に蛇行しながら距離を詰めてくる。タツヨがフットワークで間合いを取りながら、左ジャブで牽制する。
俺も岩の獣に集中しなければならなかった。
獣が今度は角を下げて突進してくる。俺は正面から受けずに斜めに踏み込み、獣の首筋の継ぎ目に狙いを定めてニーズヘッグリングの力を高めた崩拳を叩き込んだ。
ドーンッッッ!
獣が吠えた。
初めて声が出た。効いている。
同じ場所を狙い続ける。纏っているファフニールに金色の筋が走る。
践歩で回り込んでは崩拳、また回り込んでは崩拳。獣の動きが少しずつ鈍くなっていく。
タツヨの方で大きな音がした。
大蛇の魔物がタツヨに巻きついていた。巨大な胴体がタツヨの身体を締め上げている。タツヨが歯を食いしばりながらアトラスの拳で鱗を叩くが、びくともしない。
「タツヨ」
「来るな、こっちはいい」
タツヨが絞り出すように言った。
巻きつかれた状態から、タツヨのガントレットが第二形態に変化する。
ガントレットから無数の鋭いトゲが出た。大蛇の胴体にガントレットのトゲが突き刺さる。
大蛇の締め付けが一瞬緩んだ瞬間、タツヨが腕を抜いてアトラスの右ストレートを顎の下から叩き上げた。
ガーンッ!
大蛇の魔物が吹き飛んだ。
地面に叩きつけられた大蛇は、しばらく痙攣している。
タツヨは飛び上がって大蛇の頭部にパンチを打ち下ろす。
グシャァッ!
そこからさらに何発も何発もパンチを撃ち続けた。
あっという間に大蛇の頭部は肉片となって、ぴくりとも動かなくなった。
タツヨが肩で息をしながら立っていた。
「終わった」
「こっちは、まだだ」
俺は岩の獣に向き直った。獣は首筋から血を流しながらも、まだ立っていた。目に怒りと痛みが混ざっている。
ニーズヘッグリングとファフニールが共鳴する。
内功を全身に巡らせ、践歩で一気に間合いを詰める。獣が角を向けてくる前に首筋の継ぎ目に最大出力の鑽拳を叩き込む。
内功とファフニールの身体強化の重ねがけ。それにニーズヘッグリングの力で、強大な発勁が放たれた。
ズガッーン!
骨が砕ける音がした。
獣は前のめりに倒れ、地面を揺らして動かなくなった。
山の中が静かになった。
鳥の声すら聞こえない。土煙が晴れていく中、俺とタツヨは荒い息をつきながら向き合った。
「やったな」
タツヨが言った。肋骨をやられているのか、左手で脇腹を押さえている。
「怪我は」
「肋骨一本か二本いったかもしれん。まあ動ける」
アイテムボックスからナロキシンを二本出して、タツヨと二人で一気に飲んだ。
「おお、アズマリアの闘技場で闘ってた時も飲んでたけど、痛みがすぐ消えるな」
「買ってきて正解だったな。俺はつい最近まで知らなかったけど」
「本当かよ。お前少しこの世界の勉強しろよ」
「王立図書館に通わないとな」
身体の痛みが完全に癒えた頃、二人で斜面を下り始めた。
魔物は二体とも仕留めた。だがこの魔物が何故ここに現れたのか、という疑問は消えなかった。
その時、突然周囲の景色が変わった。
曇り空になり、辺り一面に異様な空気が漂い始めた。ファフニールとニーズヘッグリングが同時に反応した。戦闘の時とは違う、もっと重く、暗い何かだった。
タツヨが足を止めた。
「なんだこれは?」
俺達は立ち止まり、周囲を見回した。
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