第130話:二匹の竜
昼過ぎ、家でくつろいでいるとタツヨが訪ねてきた。
「よう、珍しいな昼間に」
「お前にちょっと話がある」
タツヨが昨夜のことを話し始めた。
赤髪の男、名前はルシエル、俺の名前を知っていた、ワイルドオーグの話も知っていた、そして今夜仲間の店に行くと言い残して消えた。
リュウジィは黙って聞いていた。
「その赤髪の男、昨日広間で見たよ」
「広間?」
「王宮に肉を届けに行った時。
魔族のナンバーツーと一緒にいた。魔王直属の五人衆の一人だ」
タツヨの表情が変わった。
「魔族だぁ?」
「うん」
二人はしばらく黙っていた。
「揉め事を起こしに来るわけじゃないと思う」
リュウジィは言った。
「そうか?でもあいつは、俺の力を見に来たぞ」
「じゃあ俺ともやりにくるのかな?」
「それはわからないけど、油断はするなよ」
タツヨは言った。
その夜、ジャンヌダルクは賑わっていた。
バッドがオリファルコンの剣を腰に下げたまま、店長として店内全体に目を配っている。
問題のある客がいれば即座に動ける体勢だった。
シドもオリファルコン製のファルシオンを腰に下げたまま、フロアを縦横無尽に動き回っていた。
新しい客の様子を素早く見極め、相性の良いキャストを手際よく案内する。
長く同じ席に滞在しているキャストには絶妙なタイミングで声をかけ、次の席へ移動させる。一見普通のラッキー(女性の付け回し業務)に見えるが、腰の剣がそうではないことを物語っていた。
リナがカウンター越しにシドの動きを見ながら小さく頷いた。
リュウジィは二階のVIPフロアのカウンター近くに立って全体を眺めていた。ミライがいた頃と変わらないテンポで店が回っている。シドがここまでやれるとは正直思っていなかった。
開店から一時間が経った頃、バッドが二階に上がってきた。
「兄貴、ここはリュウジィさんのお店ですか?って、お客さん来てますよ」
リュウジィはその場所から、店の入り口を見た。
赤髪の細身の男。昨日王宮にいた男、タツヨと接触した男。
ルシエルだ。
「一階じゃなくて、こっちの卓に案内して」
すぐに、赤髪の男がバッドに案内されて二階に上がってきた。
今日は昨日の王宮の時とは違う、シンプルな格好をしていた。
席に案内されると、男は静かに座って酒を注文した。
キャストが席についたが、男は愛想よく話しながらもどこかこちらを気にしている様子だった。
男もこちらを見ていた。
リュウジィと目が合った。
少し口角が上がった。
リュウジィはカウンターを出て、男の席に向かった。
「昨日は王宮でどうも。いらっしゃいませ。楽しんでいただけてますか」
「ええ、素晴らしい店ですね」
男は酒を一口飲んだ。
「昨日いただいた肉は素晴らしかった。あれほどのものは初めて食べました」
「ありがとうございます」
男は微かに笑った。
「焼肉屋の経営者が、こういった店も開いているとは思いませんでした」
「色々とやっておりまして」
男はゆっくりと杯を置いた。
「キングスフォーンに来て、色々と耳に入りましてね。面白い人間がいると」
「買いかぶりすぎですよ」
「そうですかね」
男はリュウジィをじっと見た。
「また来てもいいですか」
リュウジィは営業スマイルを崩さなかった。
「勿論です。またのお越しをお待ちしております」
男は満足そうに頷いて、キャストとの会話に戻った。
リュウジィはカウンターに戻りながら思った。
(何が目的だ)
キングスフォーンに来て耳に入った、か。魔族の国からわざわざ情報を集めてきた人間が、ただの観光で店に来るわけがない。
ルシエルは閉店近くまで静かに飲んで、最後にたっぷりとチップを置いて帰ろうとするのを見て、リュウジィは挨拶に向かった。
「今日はご来店ありがとうございました」
「いえいえ、こちらこそ楽しませてもらいました。ところで……」
瞬間的にルシエルの雰囲気が変わった。
ニーズヘッグの指輪が震えた。ファフニールのチャイナ服がそれに共鳴する。
店の空気が一気に変わった。
バッドと離れた場所にいたシドまでも、反射的に剣を握った。
「何故お前は二匹の竜の力を使いこなしてる?その力がもし此方に向いた場合は……遠慮はしないぞ」
ルシエルは射抜くような目で俺を見た。
そして直ぐに笑顔になり、ご馳走様と言って店を後にした。
バッドが近づいてきた。
「兄貴、あの客何者ですか。凄い殺気でしたね」
「あれが魔族だよ」
リュウジィは男が消えた階段を見ながら答えた。
(これから先面倒な事にならなければいいけど)
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