第128話:広間にて
調理場の従業員にキングオーグの肉を用意させ、アイテムボックスに収めた。口がぱかりと開いて、塊のまま吸い込まれていく。何度見ても不思議な代物だ。
店の外に出ると、カミラが肩に斜めにグレイブを担ぎながら立っていた。
「何してる?」
「ミライちゃんに頼まれたんだよ。どうせリュウジィが王宮に肉を届けるから、守ってくれってさ」
「なんで知ってるの?」
「さっきカエデさんだっけ?がリュウジィを探しに来たからさ。なんだよ、私がお供じゃ不服かい」
「いや、心強いよ。頼むよ」
断る理由もなかった。馬車に乗り込むとカミラは無言で向かいに座った。
それにしても、アズマリアの闘技場で、淡々と人を切り刻んでたカミラとこんな関係になるとは。
人の縁とは不思議な物だと思った。
王宮の入り口に着くと、いつもと空気が違った。
近衛兵が正門に並んでいる。その少し離れた場所に、昼間見た黒い突起物のある鎧をつけた魔族の兵士が、整然とした隊列で立っていた。微動だにしない。白目がこちらを向いているのかどうかもわからなかった。
カミラが低い声で言った。
「あれが暴れたりしたら、ちょっと厄介だね」
「だろうな」
近衛兵に用件を告げると、カミラの入場も許可され、係の者に調理場まで案内された。
調理場に入ると、数人の料理人が手を止めてこちらを見た。アイテムボックスから肉を取り出すと、その大きさに料理人の一人が目を丸くした。
「これが、キングオーグの」
「そうです。焼き方は強火で表面を固めてから、中は火を通しすぎない方がいい」
料理人が頷き、肉を受け取った。
「代金のお支払いに係の者が参りますので、少々お待ちください」
待つ間、カミラは腕を組んで調理場の様子を眺めていた。料理人たちが手際よく肉を捌いていく。油が跳ねる音と、肉が焼ける香りが広がってきた。
しばらくして係の者が戻ってきた。
「大変恐縮ですが、魔族のお客様方がキングオーグの肉を大変喜ばれておりまして。是非店主に直接お礼を申し上げたいとのことで」
カミラがこちらを見た。俺は係の者に頷いた。
「わかりました」
広間に通された。
テーブルの上には料理が並び、キングスフォーンの王とその他重鎮数人、そして二人の人間がいた。一人は白髪交じりの大柄な落ち着いた男。もう一人は細身の赤髪の男だった。
入り口近くに、ローザ・カイリと鉄の塊のような大剣を背中のハーネス状の鎖のホルダー引っ掛けたジラルデ・パッキャオが立っていた。
ローザが俺に気づいて、小さく手を振った。俺も軽く頷いた。
その瞬間、胸の奥で何かが反応した。
ジラルデ・パッキャオは感情のない目で俺見た。
ファフニールが、ニーズヘッグリングが、ジラルデに向かって静かに騒ぎ始めた。竜を殺した男への、二匹の竜の反応だった。
俺はそれを、静かに押さえ込んだ。
落ち着け。
白髪交じりの男が立ち上がった。穏やかな笑みを浮かべていた。この場にいる誰よりも自然体で、それがかえって只者ではないと感じさせた。
「あなたがキングオーグの肉を届けてくれた方ですか」
「はい。ジョジョエンというお店をやっております、リュウジィと申します」
「カイゼル・グリフォンです。素晴らしい肉でした。あのような肉は魔族の国でも滅多に食べられない」
「ありがとうございます」
「またいつでも届けてもらえると嬉しい」
穏やかだった。圧も威圧もなかった。ただそこに在る、という感じの男だった。
その振る舞いが逆に不自然だった。
魔族のナンバー2。
間違いなく強大な力を持っているのだろう。
ふと視線を感じた。
赤髪の男だった。テーブルに肘をついたまま、少し口角を上げた笑顔で、こちらをじっと見ていた。視線をそらす気配がない。品定めでも値踏みでもない。ただ純粋に、興味深そうに見ていた。
俺も一瞬だけ、その目を見返した。
何者だ。
係の者から代金の入った袋を受け取り、俺は広間を後にした。カミラが後ろに続く。廊下に出た瞬間、カミラが小声で言った。
「赤髪の男、ずっとあんたを見てたぞ」
「わかってる」
馬車に乗り込んで王宮を出た。夕暮れの空が赤く染まっていた。
(魔王直属の五人衆の一人、か)
あの視線が、頭の片隅に残った。
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