第125話:MG倶楽部
翌朝、リュウジィは机に向かっていた。
羊皮紙を一枚広げて、ペンを持った。
女性専用武具屋の宣伝ビラを作るためだった。
何度か書き直して、こうなった。
女性専門武具屋 MG倶楽部
近日開店
女性剣士や冒険者の皆さん、ドワーフに認められし最高の職人が作る、女性専用の武具のお店が開店します。是非手に取って見て下さい。装飾、重さ、使いやすさ。貴女が求める最高の武具が見つかる事を、お約束します。
読み返した。悪くない。
ビラを何枚か作り、アイテムボックスに詰めた。
最初に向かったのは「ふろむ・えー」だった。
扉を開けると、いつもの殺伐とした空気があった。低ランクの冒険者たちが掲示板を眺めたり、壁際で暇そうにしていた。
受付の男に声をかけた。
「掲示板に貼らせてもらえるかな」
男はビラを一瞥した。
「女性専用の武具屋ですか。まあ、空いてるスペースに貼っていただければ」
リュウジィは掲示板の目立つ場所にビラを一枚貼った。
店を出て、乗り合い馬車に乗って次は王宮へ向かった。
門番の近衛兵にリブルへの取り次ぎを頼むと、暫くして中庭に通して貰った。
リブルが待っていた。
腕を組んで立っていた。不機嫌そうな顔だった。
「何の用だ。気軽に来ていい場所じゃないんだよ」
リュウジィはビラを一枚差し出した。
「女性専用の武具屋を開くんだ。宣伝してほしい」
リブルはビラを受け取り、眉をひそめた。
「そんな事のために王宮に来たのか?しかも何で俺が」
リブルは怪訝そうな顔をした。
「俺、遭難して大変だったなぁ」
リュウジィはのんびりと言った。
「どっかの団長さんの、頼みを聞いたばかりに、魔族の船に襲われるしさ」
リブルの眉間のしわが深くなった。しばらく黙っていた。
「ぐっ……わかった」
「ありがとう。助かるよ」
「一回だぞ」
「十分だよ」
そこへ中庭の入口から足音が聞こえた。
「団長、こちらにいらっしゃいましたか」
現れたのは女性だった。騎士団の制服を着ていたが、腰に細身のレイピアを下げていた。黒髪を後ろで束ね、背筋がまっすぐに伸びていた。
「セレスティア、何の用だ」
リブルが振り返った。
「噂のリュウジィ殿が来てると伺いまして」
女はリュウジィを射抜くような目で見た。
「調査兵団副団長、セレスティア・バロアと申します」
「どうも、初めましてリュウジィです」
「団長とのお手合わせの話は聞いております。よろしければ、私とも是非一度お相手して頂けませんか?」
リブルが面倒くさそうに言った。
「やめとけ、お前じゃ無理だ」
「やらせて下さい団長」
「無理だと言っている」
セレスティアはリブルを見た。それからリュウジィを見た。引く気配がなかった。
リュウジィは少し考えた。
「じゃあ、こうしよう。俺が勝ったら、今度開く店でレイピアを注文してくれ」
セレスティアの目が動いた。
「女性専用の武具屋です」
リュウジィはビラを一枚渡した。セレスティアはビラに目を通した。
「……ドワーフに認められた職人が作るのですか」
「そうだよ」
セレスティアはビラをたたんで懐にしまった。
「わかりました。お受けします」
リブルが小さく息を吐いた。
二人は中庭の中央で対峙した。
セレスティアはレイピアを抜いた。切っ先が陽光を弾いた。構えは無駄がなかった。場数を踏んできた者の構えだった。
リュウジィは中段の構えをとった。
「いつでもどうぞ」
セレスティアが踏み込んできた。速かった。レイピアの突きが連続して繰り出される。
だがリュウジィの身体はすでにそこにいなかった。
内功盤根の円の動きで軌道をいなし、一瞬でセレスティアの上体のバランスを崩した。
セレスティアが踏み止まって、上体を立て直し距離を取ろうとした瞬間、リュウジィの掌が腹部を打った。
スパッ!
ただ軽く触れたように見えた。
それでもセレスティアの身体が大きく後方へ弾け、中庭の石畳に膝をついた。
レイピアが手から離れ、カランと音を立てた。
しばらく沈黙があった。
セレスティアは膝をついたまま、石畳を見ていた。
「大丈夫かな?怪我してないよね」
セレスティアはゆっくりと立ち上がり、レイピアを拾った。それからリュウジィを見た。
「注文させていただきます。レイピアを一本」
「ありがとう。グラニータが喜ぶよ。店が開店したら来てよ。材質、長さ、重さ、好みのデザインとかあると思うからさ」
リブルが腕を組んだまま言った。
「言っただろう」
セレスティアは団長を一瞥して、それからリュウジィに向き直った。
「開店を楽しみにしております」
深く頭を下げて、その場を立ち去った。
リュウジィはその背中を見送った。
「リブル!いや……リブルさんも王宮の女性剣士の皆さんに宣伝、宜しくお願いしますね」
そう言って、リュウジィは王宮を後にした。
これは中々流行りそうな店になりそうだ。
お読みいただきありがとうございました。
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