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46歳おっさんの形意拳が、異世界でチートになった 〜魔法も剣も届かない究極の拳法で、第二の人生を無双する〜  作者: 九条竜二


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第119話:幽霊船、再び



サウザンアイランドへ向けて船が出航し、青々とした海を順調に進んでいた。太陽の光を受けた水面がキラキラと輝き、船の両脇には白い波が絶え間なく広がっている。


リュウジィは甲板の上でタツヨと並んで腰を下ろし、あの孤島で過ごした濃密な日々について語り明かした。


老師のこと、ロンのこと、内功盤根のこと、そしてニーズヘッグリングのこと。話題は次から次へと移り変わり、島での出来事を思い返すたび、リュウジィの口から自然と言葉が飛び出した。


タツヨは黙ったまま真剣に耳を傾けていたが、話が進むにつれて時折驚いたように目を丸くしていた。ときには思わず身を乗り出し、リュウジィの顔をまじまじと見つめることもあった。


「遭難してる間に伝説の達人に弟子入りしてたのか」


「奇跡だよ。形意拳界のスーパースターだからな」


「やっぱりカイロスの、神様の宝くじの話は本当だったのかもしれないよな」


二人は顔を見合わせて爽やかに笑った。


仲間と無事に再会できただけでも奇跡のようなものだ。それなのに、遭難していた間に伝説の達人から教えまで受けることになるとは、自分でも出来すぎた話だと思う。


そこへアミリがアイテムボックスから干し肉を取り出した。表面は乾燥して硬く締まり、噛むほどに肉の旨味が広がる、旅の携帯食としてもありがたい一品だ。


リュウジィが「ありがとう」と受け取ると、アミリはリュウジィが無事に帰ってきたことを改めて実感したのか、また目頭を熱くして目を赤くした。せっかく笑顔を見せていたのに、こらえようとするほど涙がにじんでしまう。


「本当に良かったです」


「心配かけて悪かった」


アミリは静かに首を振った。それ以上は何も言葉にしなかったが、その表情には、無事に帰ってきてくれたことへの安堵がにじんでいた。


ジャスパーとオリオンも甲板に出てきた。五人で車座になって干し肉を食べた。久しぶりに顔をそろえた仲間たちの間には、自然と穏やかな空気が流れていた。


ガレムだけが船尾で無言のまま静かに舵を握り続けていた。進路を確かめながら、船が安定して進むように操船している。その背中はいつもと変わらず落ち着いていた。


久しぶりに仲間全員が同じ場所に集まっていた。心地よい波の音と爽やかな風の音が続き、甲板には穏やかでのどかな時間が流れていた。


リュウジィは干し肉を手にしたまま、広大な海を見つめた。島での日々がどこか遠い夢のように感じられた。頭の中には、老師の頑固そうな顔や、ロンの美しい銀色の毛並みが鮮明に浮かんだ。


またいつか会えるだろうか。


そう思ってから、あの偏屈な老人がわざわざ自分から島を出るとは到底思えないと考え直し、リュウジィは苦笑いした。こちらから会いに行くことはできても、老師のほうから訪ねてくる姿は、どうにも想像できなかった。


アミリは干し肉を食べるのに夢中になっており、探知魔法であるサーチを展開していなかった。仲間の無事を確かめられた安心感もあって、警戒を緩めていたのだろう。


だからこそ、ガレムの発した声が全員への最初の警告となった。


「右舷、見ろ」


普段と変わらない落ち着いた声だったが、その短い言葉には明らかな緊張があった。


全員が一斉に右の海へ視線を向けた。


水平線のすぐ手前に、不気味な黒い塊が浮かんでいた。


波の揺れを無視するように、船体が一直線に近づいてくる。ぽっきりと折れたマストが空を向き、ズタズタに裂けた帆が風に揺れていた。船が進むにつれて、その異様な姿が少しずつはっきりしてくる。


リュウジィは素早く立ち上がった。


幽霊船だった。


「また来やがった」


タツヨもすぐさま立ち上がった。腕のブレスレットが瞬時にメタリックブルーのガントレットへと変化し、金属の表面が陽光を反射して鈍く光る。


金属の擦れる音がシャキンと甲板全体に響き渡った。


ジャスパーが素早く剣を抜いた。オリオンは弓に矢をつがえ、迫りくる幽霊船から目を離さない。アミリも干し肉を慌てて置き、支援魔法の準備を整えた。


一瞬前までの穏やかな空気は、たちまち消え去った。全員の意識が迫りくる脅威へと切り替わり、それぞれが自分の役割に備える。


リュウジィはファフニールが鋭く反応するのを感じた。漆黒のチャイナ服にあしらわれた金色の筋が、わずかに光を帯びて妖しく輝いた。意思を持つ鎧が、目の前の敵を明確に認識しているかのようだった。


身体も自然と戦いの感覚を取り戻していた。さっきまで仲間と笑いながら干し肉を食べていたのが、ずいぶん昔のことのように思える。


「前回と同じか」とタツヨが言った。


「ああ。しぶとい奴だ。前回、仕留めきれなかったか」


幽霊船が五十メートルまで急接近してきた。


甲板を這い回る目のない人型の魔物が見えた。マストにしがみつくものもいる。そして船首には、金色に光る目を持つ人型が不気味に立っていた。


前回と同じ場所に、前回とまったく同じ姿で。


リュウジィは、その金色の目をじっとまっすぐ見つめた。


前回は海へ飛び込んだアミリを助けるために、自分も海へ飛び込んだ。あのときは仲間を救うことが最優先で、余裕などなかった。


だが、今回は違う。


今回は確実に息の根を止める。もう逃がすつもりはなかった。


リュウジィはガレムへ視線を送った。


「ガレムさん、幽霊船に近づけてくれ。俺とタツヨが飛び移った瞬間に離れてください」


ガレムは無言で力強く頷いた。表情は一切変わらない。どんな極限状況であっても、いつもどおりのポーカーフェイスだった。


「ジャスパー、オリオン、アミリ。船への侵入を防げ」


ジャスパーが力強く頷いた。


「了解です」


幽霊船が二十メートルまで一気に迫った。


マストの上にいた魔物が、重力を無視した軌道でこちらへ飛んできた。人間の動きとは明らかに違う、気味の悪い跳躍だった。


タツヨのガントレットが唸りを上げた。


左ジャブの連打が飛んできた魔物を力強く吹き飛ばす。続いて着地と同時に繰り出した右ストレートが、次の魔物の頭を派手に粉砕した。


タツヨの一連の動作には一切の無駄がなかった。迫りくる敵を迷いなく迎撃し、次の攻撃へと滑らかにつなげていく。


自船が幽霊船へ向けてまっすぐ進んだ。


距離がわずか三メートルになった瞬間、リュウジィとタツヨは同時に躍り出た。


二人は幽霊船の甲板へ飛び移り、足場を確かめながら着地した。


腐った木の嫌な感触が靴底から伝わり、足元がずるりとわずかに沈んだ。船全体は不気味な薄い霧に包まれている。潮の臭いの中には腐肉の嫌な臭いが混じり、鼻をつくような不快感があった。


背後では、ガレムの船が素早く離れていく音がした。二人が無事に飛び移ったのを見届け、すぐさま距離を取ったのだ。


タツヨが群がる魔物の群れを見渡した。目のない人型が甲板を這い、こちらへ向かって次々と動き始めている。


「雑魚は俺が全部やる。お前はボスだけ相手にしろ」


「ああ」


アトラスが唸りを上げた。


タツヨは魔物の群れへ勢いよく飛び込み、拳を振るった。直撃を受けた魔物がド派手に吹き飛び、腐った甲板の上を転がっていく。


船首に金色に光る目があった。


人型だった。前回より一回り大きく見える。全身が黒く、輪郭が揺らめいて形が定まっていなかった。まるで黒い影そのものが人の形を取っているかのようだった。


ただ、金色の目だけは、はっきりとそこにあった。


魔物はじっとリュウジィを見ていた。まるで、ここで待っていたかのように。


リュウジィは深く中段の構えを取った。


ニーズヘッグリングが指の上で輝いた。ファフニールが深紅に染まり、内功が静かに高まっていく。


意識が研ぎ澄まされていく中、老師の声が耳の奥に響いた気がした。


――全身を協調させろ。倒そうと思うな。ただ当てる、そう思え。


リュウジィは呼吸を整え、金色の目を見据えた。


目の前の敵がどんな存在であろうと、やることは変わらない。教わった技を信じ、自分の身体を協調させ、攻撃を当てる。


金色の目が、まっすぐリュウジィを見ていた。


「決着をつけようか」




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