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46歳おっさんの形意拳が、異世界でチートになった 〜魔法も剣も届かない究極の拳法で、第二の人生を無双する〜  作者: 九条竜二


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第118話:再会




夜明け前に目が覚めた。


波の音がいつもと違っていた。潮の変わり目が来ていたのだ。寄せては返す波の響きが、昨日までとは微妙に変わっている。


リュウジィは起き上がった。ファフニールが身体にしっくりと馴染んでいる。ニーズヘッグリングも人差し指で鈍い光を放っていた。島で過ごした日々が、もうすぐ終わろうとしていた。


小屋の外に出ると、老師がすでに浜辺に立っていた。ロンがその隣にちょこんと座っている。


『来たか』


『はい』


老師は海を見つめていた。夜明け前の空が少しずつ白んでいく。水平線の向こうには、まだ朝の光が届いていなかった。


『潮が変わっておる。今がその時じゃ』


リュウジィは筏を確認した。昨日しっかりチェックを終えた筏は、浜辺の端に引き上げてある。蔓で縛った丸太組みで、お世辞にも立派とは言えない代物だったが、これしか乗るものがない。


『老師』


リュウジィは老師の前に立ち、深く頭を下げた。


『この島に来て、本当に良かったです。老師に出会えなければ、俺はただ途方に暮れるだけでした』


老師は黙ったまま、しばらくしてフンと小さく鼻を鳴らした。


『礼はいらん。お前は筋がいい。内功盤根を一ヶ月足らずで身体に入れた。大したものじゃ』


『老師こそ、お元気で』


『わしの心配はいらん。百四十年生きてきたんじゃ、まだまだ死なんわい』


老師は再び海へ目を向けた。いつもと変わらない様子だったが、その横顔を見つめるリュウジィの胸には、別れの寂しさが込み上げていた。


『強さに溺れるな。人のために使え。それだけ忘れるなよ。……楽しかったぞ。有り難うな』


『そんな。有り難う御座いました』


ロンがリュウジィの目の前へ歩み寄ってきた。黄金色の瞳がじっと見つめてくる。


リュウジィが頭に手を置くと、ロンは気持ちよさそうに目を細めた。しばらくそのままの体勢でいた。柔らかな毛並みを撫でながら、リュウジィはロンとの時間を惜しむように、その温もりを感じていた。


『ロン、達者でな』


ロンは鼻をひとつ鳴らした。返事はそれだけだった。


『老師!気が向いたらキングス・フォーンのジョジョエンって店に来てください。美味い肉ご馳走しますから!』


老師は何も言わず、ただ口元にニッと笑みを浮かべた。


リュウジィは筏を海へ引き出した。波が足元を濡らす。冷たかったが、すぐにファフニールの温度効果が働いて快適になった。


筏に乗り込み、手製の竿でぐっと水を掻く。


潮の流れがスムーズに筏を押し出してくれた。丸太が波を受けて小さく揺れ、筏はゆっくりと浜辺から離れていった。


振り返ると、老師とロンが並んで浜辺に立ち、じっと見送ってくれていた。


リュウジィはもう一度深く頭を下げた。


老師は微動だにしなかった。


島が少しずつ遠ざかり、二人の姿が小さくなっていく。ロンの銀色の毛並みが朝の光を反射して輝いていた。


やがて、その姿も見えなくなった。


リュウジィは前を向いた。


水平線の向こうに、サウザンアイランドがある。


竿を漕ぎ続けた。


太陽が高く昇っていく。


筏は潮の流れに乗ってぐんぐん進んだ。思ったより速い。老師の言った通り、この潮の変わり目を使えばサウザンアイランドへ着けそうだ。筏の進む先には、どこまでも青い海が広がっていた。


だが、見渡す限り周囲は海だけだった。


どれくらい漕ぎただろうか。


ニーズヘッグリングの効果のおかげか、腕の疲れは不思議と全く感じなかった。


ふと水平線を見つめる。


何かが見えた。


小さな点だ。


それは水平線の上にぽつんと浮かんでいた。


船だ。


リュウジィは目を凝らした。間違いなく船だ。しかも、こちらに向かって進んできている。


助けを求めるべきだろうか。だが、見知らぬ船に軽々しく乗り込むのは危険かもしれない。


リュウジィは竿を止め、その船をじっと見つめた。


船が次第に近づいてくる。


小さな漁船だった。甲板にちらほらと人影が見える。


そのうちの一人が、船首に仁王立ちしていた。


がっしりとした体格。


見覚えのあるシルエットだった。


『——っ!』


リュウジィは思わず立ち上がった。ぐらりと筏が揺れる。


船首の男が動き、こちらを凝視した。


一気に距離が縮まる。


男が豪快に叫んだ。


『リュウジィーーーー!!』


タツヨだった。


タツヨは船首から身を乗り出し、大声を張り上げていた。後ろではジャスパーが何かを宥めるように声をかけている。アミリは口に手を当て、オリオンはあきれたように頭をかいていた。甲板の誰もが、筏の上にいるリュウジィに気づいていた。


リュウジィは思わず笑った。


色々とこみ上げるものがあったが、とにかく笑うしかなかった。まさか、こんな海の上で仲間たちに再会できるとは思ってもいなかった。


『タツヨーーーー!!』


叫び返した。


船が勢いよく筏へ横付けされる。タツヨが甲板からドスンと飛び降りてきた。筏が大揺れする。


『このやろう!何やってんだ!』


タツヨがいきなりリュウジィの胸倉を掴んできた。目が真っ赤だった。


『心配かけやがって!』


『悪かったって』


『悪かったじゃねえだろ!』


タツヨは胸倉を掴んだまま、しばらく離そうとしなかった。


リュウジィは何も言わずに受け止めた。


筏がパシャパシャと波に揺れている。


タツヨがようやく手を離し、気まずそうに目を逸らした。


『……生きてて良かった』


ぽつりと小さく呟いた。


『ああ』


リュウジィは深く頷いた。


甲板の上からアミリの声が響いた。


『リュウジィさーーん!!』


ボロボロと泣いている。


リュウジィが甲板を見上げると、アミリが手すりから身を乗り出していた。ジャスパーとオリオンは苦笑いを浮かべ、船尾ではガレムが無言のまましっかりと舵を握っている。


タツヨがどかと筏に腰を下ろした。


『どこにいたんだよ』


『島に流れ着いてさ』


『何してたんだ?』


『修行してた』


タツヨはリュウジィをじっと見つめ、それから可笑しそうに笑った。


『修行?訳わからない事言ってんじゃねえよ』


『後でゆっくり話すよ』


リュウジィも笑った。


心地よい波の音が響いていた。朝の光がキラキラと海面を照らしていた。仲間たちの顔を見て、リュウジィは胸の奥から安堵が込み上げてくるのを感じていた。





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