表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46歳おっさんの形意拳が、異世界でチートになった 〜魔法も剣も届かない究極の拳法で、第二の人生を無双する〜  作者: 九条竜二


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

115/120

第115話:老師の過去


朝の稽古が終わった後、白木の棒の時間が始まった。


一回。二回。五回。

十回を過ぎた頃から手のひらが熱くなってきた。昨日よりは少しましだった。全身を使うことを意識した。踏み込みから、腰から、背中から、腕へ。突き切った瞬間に力を抜く。


二十回。

まだ痺れない。


二十五回。

手のひらの豆が潰れた。


三十回。

昨日は三十回で限界だった。今日はもう少しいける気がした。


三十五回。


四十回。

白木の棒を地面に置いた。両手を開いたり閉じたりした。痺れていたが、昨日ほどではなかった。


「昨日より十回増えたの」

老師がそこにいた。いつからいたのかわからなかった。


「まだまだじゃが、一日で十回増えるのは悪くない」

リュウジィは息を整えながら老師を見た。


「さて今日は一つ秘伝でも教えるかの」


「見ておれ」


老師はそう言うと、俺が見たこともない套路を見せてくれた。

それは円の動きを主体とした套路で、形意拳と言うよりは八卦掌に近かった。


「それはなんですか?」


「内功盤根。山西派形意拳の秘伝じゃ」


「えっ!でも老師の形意拳って河北派では?」


「河北じゃよ。現世にいる時に山西派に物凄く強い奴がいると聞いてな。手合わせに行ったんじゃよ。結局勝負はつかなかったが」


「そんな歴史があったんですか?びっくりです」


「わしは強くなるためには何でもやる人間じゃから、そいつに弟子にしてくれと言った。そいつは笑いながら弟子には出来ないけど、とこれを教えてくれた」


「河北が剛に対して山西は柔。これを覚える事でわしの形意拳は洗練された。お前も覚えろ」


そう言うと老師は手を取り教えてくれた。


しばらく二人で套路を繰り返した後、老師は砂浜に腰を下ろした。ロンが老師の隣に静かに座った。


「わしがここに来たのは百四十年前じゃ。転生した時は三十歳だった」


リュウジィは老師を見た。百四十年。その言葉の重さを頭の中で測ろうとしたが、うまくいかなかった。


「この世界では武術が好き放題使えた。現世では強くなっても、命のやり取りが出来る場がなかったが、ここでは違った。戦場があった。敵がいた。わしは傭兵になった」


老師は海を見ていた。


「一つの国には仕えなかった。色んな国を渡り歩いた。戦って、勝って、また次へ。どうだ俺は強いだろ?ってな。魔族の王とも闘ったことがある。決着はつかなかったがな」


リュウジィは黙って聞いていた。


「四十になった頃、わしは老いていくのが嫌になった。強さが衰えていくのが許せなかった。不老不死の薬を探した」


「見つかったんですか」


「不老不死の薬はなかった。じゃが、あるダンジョンで老化を遅らせる薬を見つけた。それを飲んだ。だからわしはまだここにいる」


老師は少し間を置いた。


「現世の本でわしがどう書かれているか知らんが——」


老師の目が海の遠くを見た。


「わしは傲慢な男だった。自分の強さを試したくて、数え切れないほどの人を殺した。どうしようもない奴じゃった」


リュウジィは何も言えなかった。


老師は静かに続けた。


「強くなることは悪いことじゃない。だがな、強さに溺れた時、人は獣になる。わしがそうだった」


老師はリュウジィを見た。目が真剣だった。


「お前はそうなるな」


リュウジィは老師の目を見た。百四十年分の重さがそこにあった。


「……はい」


老師は小さく頷いた。それから立ち上がった。


「白木の棒、まだ六十回残っとるぞ」


リュウジィは苦笑いしながら白木の棒を持ち上げた。

四十一回。

踏み込んで突いた。

先端がわずかに、昨日より自然に止まった気がした。


1日も早くキングス・フォーンに帰ってミライや店の皆に無事を伝えたい。


きっと皆心配してるだろう。


だけど今はジタバタしても、始まらない。


だったら、老師の技術を習得するだけだ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ