表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46歳おっさんの形意拳が、異世界でチートになった 〜魔法も剣も届かない究極の拳法で、第二の人生を無双する〜  作者: 九条竜二


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

113/117

第113話:偏屈な船頭


夕方になった。


港の突き当たりの酒場は、昼間から飲んでいる男たちで半分ほど埋まっていた。煙草の煙と安酒の臭いが混じり合っていた。

タツヨとジャスパーは入口から店内を見渡した。


「どの人ですかね」


とジャスパーが小声で言った。

タツヨは無言で奥のカウンターを見た。


一人だけ、周囲から切り離されたように座っている男がいた。年は五十前後。日焼けで革のように焼けた肌。白髪交じりの無精髭。杯を両手で持ったまま、誰とも話さず海の方角をぼんやり見ていた。


あいつだ、とタツヨは思った。

近づいた。男の隣に立った。男はタツヨを見なかった。


「ガレムさんか」


男はゆっくりタツヨを見た。目が細かった。品定めするような目だった。


「老人から聞いたか」


「はい」


「座れ」


タツヨは隣に座った。ジャスパーは一歩引いたところに立った。


ガレムは杯を置いた。


「南東の海域へ行きたいそうだな」


「地図にない島を探したい。三日前にあの海域で仲間が海に落ちた」


ガレムは黙った。しばらくタツヨを見ていた。


「今の時期は海が荒れる。運が悪ければ戻れない」


「わかってる」


「金の話をする前に一つ聞く」


タツヨは黙って続きを待った。


「その仲間とやら、本当に生きてると思うか」


タツヨはガレムを見た。


「絶対生きてる」


「根拠は」


「あいつがそういう奴だからだ」


根拠なんてそれだけだ。論理じゃない。証拠もない。だがタツヨには確信があった。あの男が死ぬところを、自分はまだ想像できなかった。アミリを投げ渡した瞬間の、迷いのない判断。波に飲まれる直前まで、あいつは誰かのことを考えていたはずだ。そういう奴が、あっさり死ぬわけがない。


ガレムはタツヨをしばらく見た。それから小さく鼻を鳴らした。笑ったのかもしれなかった。


「報酬はいくら出す」


タツヨはアイテムボックスからゴルド金貨を取り出した。テーブルの上に置いた。


ガレムは金貨を見た。それから


タツヨを見た。


「倍出す。見つかったら更に倍だ」


ガレムは金貨を一枚手に取った。指で弾いた。音を確かめるように。それからテーブルに戻した。


「一つ条件がある」


「言え」


「俺の船では俺の言うことが絶対だ。海の上では船頭の指示に従え。逆らうなら乗せない」


タツヨはガレムを見た。


「わかった」


「お前だけじゃない。連れてくる全員だ」


「全員に言い聞かせる」


ガレムはしばらくタツヨを見ていた。


「……出発は明後日の朝だ。夜明け前に第三桟橋へ来い。遅れたら置いていく」


タツヨは頷いた。


「一つ聞いていいか」


「なんだ」


「なぜ引き受けた。普段は仕事を受けないと聞いた」


ガレムは杯を手に取った。一口飲んだ。


「昔、俺も南東の海域で仲間を失った。探しに行ったが見つからなかった」


ガレムは海の方角を見た。


「お前の目が、あの頃の俺に似てた。それだけだ」


タツヨは何も言わなかった。


ガレムは立ち上がった。


「明後日、夜明け前だ。忘れるな」


それだけ言って、ガレムは酒場を出た。


タツヨはしばらく、ガレムが出て行った扉を見ていた。


仲間を失って、探しに行って、見つからなかった。その話をする時のガレムの目が頭に残った。見つけられなかった後悔を、あの男はずっと持ち続けているんだろう。自分はそうはならない。必ず見つける。タツヨは静かにそう思った。


「……行きましょう」


ジャスパーが小声で言った。


タツヨは立ち上がった。


翌日。


オリオンとアミリに出発を伝えた。二人とも即答した。

食料と水を調達した。ガレムの船は小さな漁船だった。五人乗れば窮屈になる大きさだった。だがガレムは「あの海域を動くにはこのくらいの船がちょうどいい」と言った。

夜、タツヨは宿の窓から港を見た。


明日の夜明け前には出る。リュウジィが流された方角はまだわからない。あとはガレムの腕と、アミリのサーチと、運次第だ。


それだけ考えると、不思議と落ち着いた。やれることはやった。あとは動くだけだ。じっとしていた三日間より、船に乗って探しに行く方がずっとましだった。待つのはタツヨの性に合わなかった。


タツヨは窓から離れた。


ベッドに横になった。目を閉じた。

リュウジィの顔が浮かんだ。あの男は今頃どこかの島で三体式でもやってるんじゃないか、とタツヨは思った。そう思ったら少しだけ笑えた。あいつのことだから、遭難してても鍛錬だけは欠かさないだろう。 


そういう奴だ。現世から持ち越した武術馬鹿め、とタツヨは思った。


「待ってろ。もうすぐ行く」


波の音が続いていた。



翌朝、夜明け前。


第三桟橋にガレムの船が待っていた。ガレムは既に準備を終えていた。タツヨたち四人が乗り込むと、ガレムは無言で綱を解いた。


船がゆっくりと港を離れた。

朝の光がまだ薄い海に、小さな船が進んでいった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ