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46歳おっさんの形意拳が、異世界でチートになった 〜魔法も剣も届かない究極の拳法で、第二の人生を無双する〜  作者: 九条竜二


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第112話:捜索の依頼



夜明け前から、タツヨは港にいた。

昨夜書いた手紙は、朝一番に王宮の使者に頼んで送り出した。


キングスフォーン行きの便があるのは幸いだった。ミライたちへの手紙と、リブルへの報告書を兼ねた一枚。短く、事実だけを書いた。余計なことは書かなかった。


書けなかった。


港は朝から動き出していた。荷馬車が行き交い、魚の臭いと潮の臭いが混じり合っていた。


タツヨはその雑踏の中を歩きながら、昨日聞き込みを断られた船乗りたちを順番に当たり直した。


返事は変わらなかった。


北の海域は難しい。今の時期は荒れる。地図にない島の場所なんか知らない。


十人聞いて、十人そう言った。

タツヨは港の端の桟橋に座って、海を見た。


リュウジィが飛び込んだのは自分達のせいじゃない。アミリを助けたのはリュウジィ自身の判断だ。あいつがそういう奴だということは、出会った日からわかっていた。


だがそれでも。


アミリの名前が頭の中をよぎった。


タツヨは立ち上がった。


宿に戻ると、ジャスパーたちがいた。


広間の椅子に三人で座っていた。荷物を持ったままだった。出発の準備が整っている格好だった。だが誰も立ち上がっていなかった。

タツヨを見て、ジャスパーが立ち上がった。


「残ってたのか」


「……はい」


ジャスパーの顔に迷いがあった。隣でアミリが俯いていた。目が腫れていた。昨夜泣いていたのがわかった。

オリオンが小さく咳払いをした。


「俺たちも、残ります」


タツヨはオリオンを見た。


「お前らには関係ない話だ」


「関係あります」


アミリが顔を上げた。声が少し震えていた。


「リュウジィさんが海に落ちたのは、私を助けようとしたからです。それは……関係ない話じゃないです」


タツヨはアミリを見た。

しばらく黙っていた。


「お前らCランクだろ。このまま残ったら依頼も受けられない。金が尽きる」


「それは——」


「だから依頼として雇う」


ジャスパーが目を上げた。

タツヨは胸元からアイテムボックスを取り出した。現世で言うなら御守りを一回り大きくしたようなサイズだった。

金貨を取り出そうとした瞬間、ガバッと口が開いた。テーブルの上にゴルドを置いた。


「リュウジィを見つけるまで、リュウジィの捜索に付き合え。報酬はCランクの相場の三倍出す。前払いで半分」


ゴルドがテーブルの上で鈍く光った。


三人が顔を見合わせた。


「……依頼書は」とジャスパーが言った。


「ふろむ・えーを通したら、お前等の取り分が減るだろ?俺からの個人依頼でいい」


ジャスパーはタツヨを見た。それからゴルドを見た。それからもう一度タツヨを見た。


「——了解しました」


深く頷いた。

アミリが小さく息を吐いた。泣くのを堪えているような顔だった。


「ありがとうございます」と小さく言った。


タツヨは答えなかった。窓の外の海を見た。


「オリオン、今日から港の酒場を全部回れ。北の海域を知ってる船乗りを探せ。金は出す」


オリオンは頷いた。


「アミリ、船に乗ったらサーチを頼む」


「はい」


「ジャスパーは俺と来い」


タツヨは立ち上がった。

昨日声をかけた元船乗りの老人は、港の外れの小さな家に住んでいた。扉を叩くと、しばらくしてから老人が顔を出した。しわだらけの顔だったが、目だけが鋭かった。


タツヨを見て、老人は小さく頷いた。


「やはり来たか」


老人は二人を中へ招き入れた。狭い部屋だった。テーブルの上に古びた海図が広げてあった。


「心当たりに声をかけた。一人だけ、首を縦に振った奴がいる」


タツヨは老人を見た。


「どんな奴だ」


「偏屈な男でな。普段は仕事を受けない。だが北の海域なら誰よりも知っている。昔、あの辺りで長く漁をしていた」老人は少し間を置いた。「金を積めば動くかもしれん。ただし、気に入らない相手とは乗らないと言っとった」


「会わせてくれ」


老人はタツヨをしばらく見た。


「明日の夕方ぐらい、この港の突き当たりの酒場にいる。自分で話をつけろ」


タツヨは深く頷いた。


「助かった」


老人は首を振った。


「仲間が……見つかるといいな」


それだけ言って、老人は海図に目を落とした。


四人は宿を出た。

朝の光が港に差し込んでいた。波の音が続いていた。


タツヨは海を一度だけ見た。

明日、船頭に会う。それだけが今日わかったことだった。

水平線はただそこにあった。

何も答えなかった。


「リュウジィ!お前が死ぬわけねえよ」


タツヨは小さく呟いた。

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