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46歳おっさんの形意拳が、異世界でチートになった 〜魔法も剣も届かない究極の拳法で、第二の人生を無双する〜  作者: 九条竜二


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第112話:捜索の依頼




夜明け前から、タツヨは港にいた。


昨夜書いた手紙は、朝一番にこの世界の郵便配達業者サガーワに頼んで送り出した。


キングスフォーン行きの便があるのは幸いだった。ミライたちへの手紙と、リブルへの報告書を兼ねた一枚。短く、事実だけを書いた。余計なことは書かなかった。


書けなかった。


何を書いても、今の自分の感情を正しく伝えられる気がしなかった。


リュウジィが海へ落ちた。


アミリを助けるために。


それだけは事実として書いた。


だが、その先にある自分の不安や焦りまで書いてしまえば、ただ余計な心配をさせるだけだ。


だから、書かなかった。


港は朝から動き出していた。荷馬車が行き交い、魚の臭いと潮の臭いが混ざり合っていた。


船が出る。


荷物が運ばれる。


港で働く人々の声が飛び交う。


昨日までなら、どこにでもある朝の港の風景だった。


だが今のタツヨには、そのすべてが遠く感じられた。


タツヨはその雑踏の中を歩きながら、昨日聞き込みを断られた船乗りたちを順番に当たり直した。


一人ずつ話を聞き、同じ質問を繰り返した。


北の海域を知っている者はいないか。


地図にない島について何か知らないか。


リュウジィが流された可能性のある場所について、手掛かりはないか。


返事は変わらなかった。


北の海域は難しい。今の時期は荒れる。地図にない島の場所なんか知らない。


十人聞いて、十人そう言った。


同じ答えを聞くたびに、胸の奥が重くなる。


それでも、聞くしかなかった。


何もしなければ、何も見つからない。


タツヨは港の端の桟橋に座って、海を見た。


朝の海は静かだった。


その静けさが、かえって不気味だった。


リュウジィが飛び込んだのは自分達のせいじゃない。アミリを助けたのはリュウジィ自身の判断だ。あいつがそういう奴だということは、出会った日からわかっていた。


危険だとわかっていても、目の前で誰かが困っていれば手を伸ばす。


そういう奴だった。


だから、あの場でリュウジィがアミリを助けたこと自体は、タツヨにも理解できる。


だがそれでも。


理解できることと、受け入れられることは違った。


頭ではわかっている。


それでも、海へ消えていったリュウジィの姿が、タツヨの頭から離れなかった。


タツヨは立ち上がった。


ここで海を眺めていても、何も変わらない。


手掛かりがないなら、自分で探し続けるしかない。


まだ、探せる場所はある。


話を聞ける相手もいる。


わずかな可能性でも、リュウジィに繋がるものがあるなら、見逃すわけにはいかなかった。


宿に戻ると、ジャスパーたちがいた。


広間の椅子に三人で座っていた。出発の準備が整っている格好だった。だが誰も立ち上がっていなかった。


もう出発するつもりだったのだろう。


それでも、ここに残っていた。


タツヨを見て、ジャスパーが立ち上がった。


「何してんだ?」


「……待ってました」


ジャスパーの顔に迷いがあった。


隣でアミリが俯いていた。目が腫れていた。昨夜泣いていたのがわかった。


その顔を見れば、昨夜のことを聞く必要もなかった。


オリオンが小さく咳払いをした。


「俺たちも、残ってリュウジィさんを探しますよ」


タツヨはオリオンを見た。


「お前らには関係ない話だ」


「関係あります」


アミリが顔を上げた。声が少し震えていた。


「リュウジィさんが海に落ちたのは、私を助けようとしたからです。それは……関係ない話じゃないです」


タツヨはアミリを見た。


しばらく黙っていた。


その言葉を否定することはできなかった。


リュウジィが海に落ちた原因にアミリがいる。


だが、それを理由にアミリまで責任を負わせるつもりもなかった。


タツヨは三人を見た。


「お前らCランクだろ。このまま残ったら依頼も受けられない。金が尽きる」


「それは——」


「だから依頼として雇う」


ジャスパーが目を上げた。


タツヨは胸元からアイテムボックスを取り出した。現世で言うなら御守りを一回り大きくしたようなサイズだった。


この世界の貨幣ゴルドを取り出そうとした瞬間、アイテムボックスの口がガバッと開いた。


タツヨはそこからゴルドを取り出し、テーブルの上に置いた。


「リュウジィを見つけるまで、リュウジィの捜索に付き合え。報酬はCランクの相場の三倍出す。前払いで半分」


ゴルドがテーブルの上で鈍く光った。


三人が顔を見合わせた。


ジャスパーはタツヨを見た。それからゴルドを見た。それからもう一度タツヨを見た。


「……依頼書は」


タツヨはジャスパーを見た。


「ふろむ・えーを通したら、お前等の取り分が減るだろ?俺からの個人依頼でいい」


ジャスパーはタツヨを見た。それからゴルドを見た。それからもう一度タツヨを見た。


「——了解しました」


深く頷いた。


アミリが小さく息を吐いた。泣くのを堪えているような顔だった。


「ありがとうございます」と小さく言った。


タツヨは答えなかった。


窓の外の海を見た。


今は礼を言われることよりも、リュウジィを見つけることのほうが大事だった。


「オリオン、今日から港の酒場を全部回れ。北の海域を知ってる船乗りを探せ。金は出す」


オリオンは頷いた。


「アミリ、船に乗ったらサーチを頼む」


「はい」


「ジャスパーは俺と来い」


タツヨは立ち上がった。


オリオンには港の酒場を回ってもらう。


アミリには船に乗った後のサーチを任せる。


そして、自分はジャスパーと一緒に、昨日声をかけた元船乗りの老人のところへ向かう。


それぞれができることをやればいい。


今は、一つでも多くの手掛かりを集めるしかなかった。


昨日声をかけた元船乗りの老人は、港の外れの小さな家に住んでいた。


扉を叩くと、しばらくしてから老人が顔を出した。しわだらけの顔だったが、目だけが鋭かった。


タツヨを見て、老人は小さく頷いた。


「やはり来たか」


老人は二人を中へ招き入れた。狭い部屋だった。テーブルの上に古びた海図が広げてあった。


「心当たりに声をかけた。一人だけ、首を縦に振った奴がいる」


タツヨは老人を見た。


「どんな奴だ」


「偏屈な男でな。普段は仕事を受けない。だが北の海域なら誰よりも知っている。昔、あの辺りで長く漁をしていた」


老人は少し間を置いた。


「金を積めば動くかもしれん。ただし、気に入らない相手とは乗らないと言っとった」


北の海域を知っている船乗りが見つかった。


タツヨは、それだけでも大きな手掛かりになると思った。


「会わせてくれ」


老人はタツヨをしばらく見た。


「明日の夕方ぐらい、この港の突き当たりの酒場にいる。自分で話をつけろ」


タツヨは深く頷いた。


「助かった」


老人は首を振った。


「仲間が……見つかるといいな」


それだけ言って、老人は海図に目を落とした。


タツヨとジャスパーの二人は宿を出た。


朝の光が港に差し込んでいた。波の音が続いていた。


港は相変わらず忙しく、人々はそれぞれの仕事に追われている。


荷馬車の車輪が石畳を鳴らし、船から運ばれた荷物が次々と積み替えられていく。


そんな日常の中で、タツヨたちだけが、リュウジィを探すために時間を使っていた。


明日の夕方には、北の海域を知る船乗りと話ができる。


その男が協力してくれるかどうかは、まだわからない。


それでも、昨日まで何も掴めなかった状況から、一歩先へ進める可能性が生まれた。


タツヨはそれだけを頼りに、これからやるべきことを頭の中で整理した。


オリオンたちには、港でさらに情報を集めてもらう。


自分は明日の酒場で、北の海域を知る男と話をつける。


そこから先は、その男が持つ知識次第だった。


リュウジィの居場所は、まだ見つかっていない。


生きているのかどうかさえ、確かなことは何もない。


それでも、探すのをやめる理由にはならなかった。


タツヨは水平線の向こうへ意識を向けた。


そこに何があるのかはわからない。


それでも、ここで諦めるつもりはなかった。


胸の奥に残った不安を押し込めるように、タツヨは拳を強く握った。


「リュウジィ!お前が死ぬわけねえよ」


タツヨは小さく呟いた。


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