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46歳おっさんの形意拳が、異世界でチートになった 〜魔法も剣も届かない究極の拳法で、第二の人生を無双する〜  作者: 九条竜二


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107話 船底を叩く音



「来るぞ!」


クラウスが大剣を抜いた。


イラブーが腰を落とした。


タツヨの両腕のブレスレットがメタリックブルーのガントレットに変化して拳を覆った。


リュウジィは自身の内功で身体強化をする。それに答えるようにファフニールが温度を上げるのを感じた。


魔物船との距離が、30メートルを切った。


最初の一体が甲板に着地した。

音がしなかった。

人の倍はあろう巨体が甲板に降り立ったのに、足音がしなかった。人の形をしていたが、皮膚が灰色で、関節が逆向きに曲がっていた。顔の造形は人に近いが、口だけが耳まで裂けていた。裂けた口の中に歯はなく、ただ黒い空洞があった。

次の瞬間、それは動いた。

四つ足で、信じられない速さで甲板を駆けた。

タツヨが一歩踏み出した。

右拳を横に叩きつけた。


ガキィッッッン。


魔物の胴体が真横に吹き飛んだ。手すりを砕いて海へ消えた。着水音がした。一瞬だった。


「見た目より硬いな」


タツヨが右手を軽く振りながら言った。


「どんどんこいや!」


次が来た。今度は三体同時だった。甲板の左右と正面から。

タツヨが正面のものへ向かって踏み込んだ。スーパーマンパンチ。拳が顔面を捉え、魔物の首より上が吹き飛び、首から上がなくなった身体がそのままマストに激突した。


マストが大きく揺れた。


左から来たものをリュウジィが迎えた。

踏み込みは最小限だった。

右の掌が、魔物の胸の中心へ吸い込まれた。

 

劈拳(へきけん)


パアァァァン。


乾いた音とともに、魔物の胸に穴が開いた。そのまま後方へ五メートル飛び、甲板に転がった。動かなかった。

右から来たものへリュウジィは振り返りもしなかった。


踵を軸に半歩横へずれた。魔物の爪が空を切る。ずれた方向へそのまま体重を乗せ、崩拳を脇腹へ叩き込んだ。


ドゴォッ。


魔物が横に吹き飛び、覇道の陣のバルガの盾に激突した。


「助かった」


バルガが低く言った。リュウジィは答えなかった。もう次を見ていた。


左舷からも波のように魔物が乗り込んでいた。


「行くよ!」


イラブーの声が飛んだ。

リュキュウの風が動いた。

イラブーが先頭に出た。武器はない。素手のまま、最初の一体の顎を下から蹴り上げた。足が垂直に跳ね上がった。膝から上だけを使った、無駄のない蹴りだった。魔物が宙に浮いた瞬間、イラブーの右肘が側頭部へ叩き込まれた。


ブサが斧を両手で振り上げた。


ガァァンッ。


二体まとめて甲板に叩きつけた。甲板の板が割れた。

ナカが盾を前に出し、押し寄せる三体を正面で受け止めた。足が甲板を削る。それでも止まった。チュラが盾の横から踏み込み、剣を二閃させた。

二体が崩れた。


右舷ではクラウスが大剣を構えていた。

乗り込んできた魔物が四体、クラウス目がけて向かった。

クラウスは動かなかった。

最初の一体が間合いに入った瞬間、大剣が動いた。

横一文字。


速かった。リュウジィの目でも軌道が一瞬遅れて見えた。

二体が同時に両断された。残り二体がクラウスの側面へ回り込もうとした瞬間、覇道の陣のロデンの槍が一体を貫き、


ドレンの大剣が一体を叩き伏せた。


覇道の陣の連携が無駄なく噛み合っていた。


タツヨが舌打ちをした。


「……中々やるじゃねえか」


小声だった。リュウジィだけに聞こえる声だった。


「言ったろ」


「俺様ほどじゃないけどな」


頭上から影が落ちた。

マストの上から五体が同時に飛んだ。甲板の中央、密集した人間めがけて真っ直ぐ落ちてくる。

オリオンが弓を引いた。

矢が三本、連続して放たれた。三体が空中で射抜かれ、落下しながら動かなくなった。残り二体が甲板へ着地する寸前、アミリの杖が光を放った。

風が爆発したような音がした。

二体が横に吹き飛び、海へ消えた。


「援護します!」


アミリの声が初めて甲板に響いた。


ジャスパーが手すりの近くで剣を構えていた。乗り込もうとする魔物二体と正面から向き合っていた。足が震えていた。それでも剣を下げなかった。

一体が跳んだ。

ジャスパーが目を閉じかけた瞬間、タツヨの左ジャブが横から飛んできた。

魔物の顔面が陥没した。


「前から目離すな」


タツヨが走りながら言った。


「は、はい!」


ジャスパーが残りの一体へ剣を振った。浅かった。だが当たった。魔物がよろめいた隙に、もう一度。今度は深く入った。魔物が崩れた。


ジャスパーは荒い息をしながら、それでも次を見た。

魔物船との距離が縮まっていた。


20メートル。

船倉から這い出てきたものたちが、今度は一斉に海へ飛び込んだ。


「水の中から来るぞ!」


船長が叫んだ。

船底を何かが叩く音がした。


ドン、ドン、ドン。


規則的な音だった。探るよう

な、確認するような音だった。

リュウジィは甲板の中央に立ったまま、船底の音を聞いた。

漆黒のファフニールに金色の筋が走る。


(船ごと沈める気か)


水面が揺れた。

船体の周囲、四方から同時に、灰色の腕が手すりに掛かり始めた。


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