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46歳おっさんの形意拳が、異世界でチートになった 〜魔法も剣も届かない究極の拳法で、第二の人生を無双する〜  作者: 九条竜二


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105話 同じ釜の飯



朝から空は低かった。


雲が厚く、光が薄い。波は昨日より少し高く、船体が規則的にではなく、不規則に揺れた。甲板に出ると、潮風が顔に叩きつけてくる。昨日より冷たかった。


それでも船に閉じ込められているよりはマシだった。


気がつけば各パーティーの人間が甲板に出ていた。狭い船室で過ごすには限界があったのだろう。誰も示し合わせたわけではなかったが、自然と船の前後左右に散らばり、それぞれが身体を動かしていた。


覇道の陣は甲板の後方を占領していた。


Aランクパーティーだけあって、その人数は五人。


リーダーを務める大剣使いのクラウス・バルトハイムを中心に、槍使いのロデン・クラハ、盾戦士のバルガ・シュタイン、魔術士のカルン・フォルグ、大剣使いのドレン・クルツが、それぞれ訓練を続けている。


クラウスが大剣を素振りするたびに空気が唸った。ロデンが長槍を構え、バルガが盾を壁にして二人で組み手をしている。


カルンは少し離れた場所で魔術の準備を行い、ドレンも大剣を手に黙々と身体を動かしていた。


動きに無駄がない。実戦を重ねた人間の動きだった。


リュキュウの風は船の左舷側に固まっていた。イラブーを中心に、ブサが斧を肩に乗せたまま体幹を鍛え、ナカが盾を構えたまま低い姿勢を保ち続けている。チュラが短い剣を抜いて型を繰り返す。


ハナだけが少し離れたところに座り、目を閉じていた。


朝から昼のサーチ当番はアミリだったが、夕方からはハナの番だ。今のうちに体力を温存しているのだろう。


気紛れな旅団は右舷の手すり近くにいた。オリオンが弓を構え、マストの頂点を的に見立てて照準を合わせ続けている。アミリは船室から甲板に出て、目を閉じたまま微動だにしない。


サーチ(探知防衛魔法)を展開しながら、同時に気力を消耗しないようにしているのか。


ジャスパーだけが特にすることもなく、手すりに背を預けて空を眺めていた。


リュウジィは船の中央、マストの脇に立っていた。


目を閉じ、足を肩幅に開いて、ただ立っている。


形意拳の鍛錬。


三体式だった。何もしていないように見えるが、内側では全身の筋肉が静かに連動し、内功が身体の芯を巡っている。波に合わせて重心が微妙に動く。揺れる船の上でも軸がぶれなかった。


「相変わらず地味だな」


タツヨが少し汗ばんだ顔で、横に来て言った。


「お前こそ何してたんだ」


「シャドー。船室狭すぎて肘ぶつけた」


タツヨは軽く拳を回しながら甲板を見渡した。


「みんな真面目だな」


「真面目と言うより暇なんだろ? 何もなければ、ただの船旅だからな」


「俺達が来なくても良かったんじゃないか?」


「俺も内心そう思ってる。Aランクパーティーが二組も来てるしな」


タツヨは少し間を置いてから言った。


「クラウスのやつ、剣の扱い上手いな。雑魚だけどな」


リュウジィは三体式をといて言った。


「お前はアズマリアの闘技場で、三年間も負けたら死ぬ闘いを生き残ったんだ。そんなお前を基準にしたら、大抵は雑魚だよ」


「でも勝ち続けると、死にそうになってもヒーラー(治癒士)代が払えるから死ななくなるんだよ」


握りしめた拳を見つめながら、言った。


「リュウジィは、あいつをどう思う」


「正直気に入らねえ」


「だよな!今度生意気な態度して来たら、圧倒的な力の差を見せつけて、パーティーごと潰す」


クラウスご愁傷様。リュウジィは心の中で思った。


昼を過ぎた頃、船員が塩漬けの黒パンと干し肉を配った。タツヨがそれを一口食べて、黙って残した。リュウジィも同じだった。アイテムボックスの中にキングオーグの干し肉が入っていたことを二人同時に思い出した。


「出せよ」


「出す」


甲板の隅で二人が食べ始めると、ジャスパーが近づいてきた。


「それ……なんですか」


「キングオーグの干し肉だ」


「キングオーグみたいな高級な肉を干し肉にしちゃうんですか?」


ジャスパーの顔が変わった。隣にいたオリオンも振り返った。アミリはサーチの集中を保ちながらも、鼻をわずかにひくつかせた。


「食うか」


「いいんですか」


「いっぱい持って来たよ」


リュウジィが笑顔で言う。


結局ジャスパー、オリオン、アミリの三人も加わった。アミリがサーチを維持したまま、黙って受け取り口に運んだ。一口食べた瞬間、目が少し見開かれた。それだけだったが、それで十分だった。


イラブーがそちらに気づいて歩いてきた。


「なんか旨そうに食べてますけど、配られた干し肉じゃないですよね」


「食うか」


「遠慮なく」


イラブーが一口食べて目を見開く。


「これは……なんですか? 干し肉のレベル超えてますよ」


「キングオーグだ」


「キングオーグ」


イラブーはしばらく噛みながら考えていた。


「キングオーグなんて高級食材どこで手に入れたんですか」


「自分の店から持って来た。」


イラブーはまた少し間を置いた。


「リュウジィさん、お店やってるんですか?」


「王都で有名な焼き肉屋のオーナーだよ。リュウジィは」


タツヨが答えた。


「まだ沢山あるからさ、メンバーも皆で食べようよ」


イラブーがメンバーを呼んで来てリュウジィとタツヨの周りに集まり、それぞれ自己紹介した。


リュウキュウの風のメンバーは、


斧使いブサ・カジマ


盾使いナカ・シーサー


剣使いチュラ・ハエ


魔術士(女)ハナ・シルファ


そしてリーダーのイラブー・ラプティの5人。


皆で干し肉を食べる。


初日にタツヨにぶっ飛ばされた、ブサ・カジマはさすがに、ばつが悪そうだったが、それでも肉を食べると、あまりの美味さに驚き、皆で盛り上がった。


同じ釜の飯を食うって、こういう事なんだとリュウジィは思った。


覇道の陣はこちらには近づかなかった。クラウスが一度だけ視線を向けたが、すぐに前を向いた。


素直に俺も食べたいって言えばいいのに、こいつコミュ症なんだと、心の中で思った。






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