第103話「一触即発」
タツヨの前にいる重装備一団の二人の男のやや後ろのいる男に、タツヨは口角上げながら言う。
「お前使うなぁ。やらないのか?」
中性的な顔立ちの褐色な肌の男は、タツヨの前にいた二人を後ろから両手で押しのけると、タツヨの前に立った。
「俺言ったんだよね。そこの馬鹿に、絶対に勝てないから止めろって。一応俺がリーダーだから挨拶しないとマズいよね」
「へぇーそれで」
「うちの馬鹿がすいませんでした。初めましてリュウキュウの風リーダー、イラブーラフテイです。宜しくお願いします……タツヨ・ジョージさん。そしてリュウジィさん」
男はニヤリと笑いながら言う。残虐性を隠しきれない、そんな笑顔だった。
タツヨが射抜くように睨む。
タツヨの斜め後ろにいたリュウジィも目つきが変わる。
タツヨが殺気を込めて今にも飛びかかりそうな勢いで言う。
「なんで俺達の名前を知ってる」
「ちょっと待って下さい、やる気ないですよ。アズマリアの闘技場の闘いを見てたんですよ。最強と言われたオーガが負けたのを」
一瞬間をおいてタツヨが思い出したように言った。
「お前、リュウキュウ島の人間か?」
リュキュウ島……タツヨのいたアズマリア領の小さい島。
「ええ」
イラブーラフテイは少し目を細めた。
「武器を持ってないって事は武道家スキルか」
「そうです。リュキュウ島独自の格闘術を使う武道家スキル持ちです。取り敢えず最初から色々ありましたが、今回宜しくお願いします」
「ああ、此方こそ宜しく頼む」
もう一組のAランクパーティーの五人が近づいてきた。
先頭の大剣を背負った男は口を開かなかった。ただこちらを見ていた。値踏みでも警戒でもない。もっと冷たい目だった。
動いたのは後ろにいた大剣使いの男だった。
「Eランクがよくやるな」
嘲るような声だった。タツヨがまだ余韻の残る目を向ける前に、男はリュウジィの方へ視線を移した。
「お前も一緒に笑ってたよな。Eランクのくせに随分余裕じゃねえか」
リュウジィは何も言わなかった。
足に車輪がついてるように、スウッーと一歩、踏み込んだ。
男が何かを言いかけた瞬間、リュウジィの右掌がみぞおちに吸い込まれていた。予備動作はなかった。踏み込みと掌打がほぼ同時だった。
「劈拳」
スパァァァァッン!
広がるような音とともに、男は5メートルぐらい飛ばされ、地面に転がった。
リュウジィは元の位置に戻り、先頭の男を見た。
「一応手加減したけど、まだやる?」
先頭の男は答えなかった。ただ、目つきが変わった。
その空気を読んだように、イラブーラフテイが横に一歩滑り込んだ。
「まあまあ」
軽い声だった。何処かめんどくさそうな、そんな声だった。
「クラウスさん。覇道の陣のリーダーならわかるよな。今のウロボロスの二人を見て、どう思った?」
クラウスはイラブーを一瞥した。答えなかった。
「俺はアズマリアの闘技場でこの二人を直接見てる。あのオーガを倒した男だ。今ここで揉めるのは得策じゃない。同じ依頼を受けた仲間だろ」
イラブーは笑顔のまま言った。止めつつも、何処かその状況を楽しんでるようにも見えた。そんな顔だった。
クラウスはしばらくリュウジィを見ていた。それからゆっくりと視線を外した。
「……覚えておく」
抑揚のない声だった。
クラウスは踵を返す前に、リュウジィとタツヨを改めて見た。
「覇道の陣、クラウス・バルトハイムだ。せいぜい足を引っ張らないようにしろ」
タツヨの目が変わった。
「あ?弱いくせに、何大物ぶってんだ?波動拳だかなんだか、よくわからねえパーティーさんよ。この場で潰すぞ」
その場にいる全ての人間に緊迫した空気が流れた。
いや、1人だけ全く自然体の人間がいた、勿論リュウジィだ。
気紛れな旅団のジャスパー、オリオン、アミリがリュウジィに駆け寄る。
ジャスパーが縋るような視線で言う。
「覇道の陣って行ったら、けっこう有名パーティーですよ。止めなくていいんですか?」
「そうなの?何か弱そうだけど」
「はいいっ!」
思わずジャスパーは声が裏返った返事をした。
「相手が強かったり、ヤバい奴だと、鳥肌が立つと言うかビリビリ来る物があるんだけど、それがないんだよね。5人相手にしてもタツヨが勝つから大丈夫だよ」
横にいたオリオンとアミリがそう言う問題じゃないんだよって、顔をした。
覇道の陣のメンバー全員がタツヨを睨む。
タツヨはそれには全く動じてないどころか、余裕な笑みを浮かべる。
イラブーがすかさずタツヨの前に立った。
「タツヨさん落ち着いて下さいよ。」
タツヨはしばらくクラウスを睨んでいたが、ゆっくりと息を吐いた。
「……命拾いしたな。クラウスさんよ」
そう言うとその場から少し離れた。
潮風が桟橋を吹き抜けた。
誰も何も言わなかった。転がったままの男が、まだ荒い息をしていた。カモメが頭上で一声鳴いて、遠ざかっていった。
リュウジィは何事もなかったように空を見上げた。




