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46歳おっさんの形意拳が、異世界でチートになった 〜魔法も剣も届かない究極の拳法で、第二の人生を無双する〜  作者: 九条竜二


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第103話「一触即発」


 



 タツヨの前にいる重装備の一団。その中で、二人の男のやや後ろに控えている男へ向け、タツヨは口の端を吊り上げながら言い放つ。


「お前使うなぁ。やらないのか?」


 中性的な顔立ちをした褐色の肌の男は、タツヨの前に立っていた二人を背後から両手で乱暴に押し退けると、そのままタツヨの真ん前まで歩み出た。


「俺言ったんだよね。そこの馬鹿に、絶対に勝てないから止めろって。一応俺がリーダーだから挨拶しないとマズいよね」


「へぇーそれで」


「うちの馬鹿がすいませんでした。初めましてリュウキュウの風リーダー、イラブーラフテイです。宜しくお願いします……タツヨ・ジョージさん。そしてリュウジィさん」


 男は薄気味悪い笑みを浮かべながら告げる。


 その笑みには、底知れない残虐性がしっかりと張り付いていた。


 タツヨが射貫くような眼光で睨みつける。


 その斜め後ろに控えるリュウジィも、細められた目の色を急変させた。


 殺気をむき出しにしたタツヨは、今にも飛びかからんばかりの勢いで詰め寄る。


「なんで俺達の名前を知ってる」


「ちょっと待って下さい、やる気ないですよ。アズマリアの闘技場の闘いを見てたんですよ。最強と言われたオーガが負けたのを」


 一瞬の沈黙が落ちる。


 やがてタツヨは、何かを思い出したように声を張り上げた。


「お前、リュウキュウ島の人間か?」


 リュウキュウ島――かつてタツヨが身を置いていた、アズマリア領の小さな島の名だ。


「ええ」


 イラブーラフテイは細めた目をさらに細める。


「武器を持ってないって事は武道家スキルか」


「そうです。リュウキュウ島独自の格闘術を使う武道家スキル持ちです。取り敢えず最初から色々ありましたが、今回宜しくお願いします」


「ああ、此方こそ宜しく頼む」


 ピリついた空気を裂くように、もう一組のAランクパーティーの五人が近づいてくる。


 先頭を歩く、大剣を背負った男は口を開かない。


 ただじっとこちらを見据えていた。


 それは値踏みでも警戒でもない。


 もっと凍てついた、冷徹な視線だった。


 その男の背後にいた大剣使いの男が動く。


「Eランクがよくやるな」


 吐き捨てるような嘲笑が響く。


 タツヨがその男へ視線を向けるより早く、男は視線をスライドさせ、リュウジィを捉えた。


「お前も一緒に笑ってたよな。Eランクのくせに随分余裕じゃねえか」


 リュウジィは一言も発さない。


 足元に車輪でもついているかのように、スウッ、と一歩だけ距離が縮まる。


 男が次の言葉を紡ぎかけた、その瞬間だった。


 リュウジィの右掌が、男のみぞおちに深く吸い込まれていた。


 予備動作の類いは一切ない。


 重心の移動と掌打が完全に一体化していた。


「劈拳(へきん)」


 スパァァァァッン!


 



 鋭く空気を裂く破裂音が広がり、男は五メートルほどの距離を弾き飛ばされて地面に転がった。


 リュウジィは一歩も引いた足跡を残さず元の位置に戻り、先頭の男を見据える。


「一応手加減したけど、まだやる?」


 先頭の男は無言のまま、ただ眼光の色を険しく変えた。


 その緊迫した空気を察知したのか、イラブーラフテイが素早く横へ一歩滑り込む。


「まあまあ」


 軽い声音だった。


 どこか億劫そうに、肩をすくめるような響きを含んでいる。


「クラウスさん。覇道の陣のリーダーならわかるよな。今のウロボロスの二人を見て、どう思った?」


 クラウスと呼ばれた男は、イラブーを一瞥しただけで沈黙を貫く。


「俺はアズマリアの闘技場でこの二人を直接見てる。あのオーガを倒した男だ。今ここで揉めるのは得策じゃない。同じ依頼を受けた仲間だろ」


 イラブーは笑みを絶やさないまま言葉を継ぐ。


 場を制止しながらも、その修羅場をどこか楽しんでいるような底意地の悪さが覗いていた。


 クラウスはしばらくじっとリュウジィを見据え、それからゆっくりと視線を逸らす。


「……覚えておく」


 抑揚の欠けた冷たい声だった。


 クラウスは踵を返す直前、改めてリュウジィとタツヨの顔を鋭く射抜く。


「覇道の陣、クラウス・バルトハイムだ。せいぜい足を引っ張らないようにしろ」


 その言葉に、タツヨの瞳孔が急激に収縮した。


「あ?弱いくせに、何大物ぶってんだ?波動拳だかなんだか、よくわからねえパーティーさんよ。この場で潰すぞ」


 場を支配するすべての空気が、一気に戦闘へと傾く。


 だが、その殺伐とした空間の中で、ただ一人だけが完全に弛緩した自然体を保っていた――もちろん、リュウジィだ。


 気紛れな旅団のジャスパー、オリオン、アミリの三人が、慌てた様子でリュウジィの元へと駆け寄る。


 ジャスパーはすがるような目を向けながら、切迫した声を漏らした。


「覇道の陣って行ったら、けっこう有名パーティーですよ。止めなくていいんですか?」


「そうなの?何か弱そうだけど」


「はいいっ!」


 想定外の返答に、ジャスパーは思わず裏返った声を上げた。


「相手が強かったり、ヤバい奴だと、鳥肌が立つと言うかビリビリ来る物があるんだけど、それがないんだよね。5人相手にしてもタツヨが勝つから大丈夫だよ」


 隣に並ぶオリオンとアミリは、そういう問題じゃないんだよ、と顔をしかめて天を仰ぐ。


 そのやり取りを聞きつけ、覇道の陣のメンバー全員がタツヨを怒りのこもった目で睨みつけた。


 しかしタツヨは動じるどころか、不敵な笑みを浮かべたまま微動だにしない。


 イラブーがすかさずその身を滑り込ませ、タツヨの前に立ち塞がる。


「タツヨさん落ち着いて下さいよ」


 タツヨはしばらくの間クラウスを鋭く睨みつけていたが、やがてふうと大きく息を吐き出した。


「……命拾いしたな。クラウスさんよ」


 吐き捨てるように言い残すと、その場から少しだけ距離を取る。


 冷たい潮風が桟橋の上を吹き抜けていった。


 誰もが言葉を失ったまま、地面に転がった男だけがまだ荒い息を繰り返している。


 一羽のカモメが頭上で鋭く一声鳴き、そのまま灰色の大空へと遠ざかっていった。


 リュウジィは何もなかったかのように、ただ静かに空を見上げていた。

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