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46歳おっさんの形意拳が、異世界でチートになった 〜魔法も剣も届かない究極の拳法で、第二の人生を無双する〜  作者: 九条竜二


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第102 話序列を塗り替えるEランク



朝の空気はまだ冷たかった。

 港は思ったより近かった。王都の外れ、石畳が切れたあたりから潮の匂いが漂いはじめ、しばらく歩くと突然、視界が開けた。


灰色がかった空の下、桟橋が幾本も海へ向かって伸びている。帆を畳んだ大型船が何艘も並び、甲板では荷運びの男たちが声を掛け合いながら荷物を積み込んでいた。荷車が石畳の上をがらがら転がり、カモメが鳴きながら頭上を旋回する。どこかで魚を焼く煙が上がっていた。潮の匂いに混じって、焦げた脂の香りがする。


「でかいな」

 

タツヨが呟いた。


「海、久しぶりに見た」


「現世でも行ってたのか」


「ジムが横浜にあったからな。たまに走りに行ってた。ジムの会長の顔は何故か覚えてないんだけどな。」

タツヨは目を細めて水平線を眺めた。


「まあ、ここまでデカくはなかったけど」

 

リュウジィも同じように水平線を見た。東京湾とも違う。もっと暗くて、広い。果てがどこにあるのか、見当もつかなかった。


待ち合わせの桟橋を探しながら歩いていると、見覚えのある三人組が目に入った。


「あっ!」


ジャスパーがこちらに気づき、片手を上げた。人懐っこい笑みは変わっていない。オリオンがその隣で軽く頷き、アミリはフードを深めに被ったまま小さく会釈した。


ジャスパーが歩み寄ってきた。


「久しぶりですね、ウロボロスの皆さん。あの時はお世話になりました。アイテムボックス大事に使わせて貰ってます。今回もよろしくお願いします」


「お前らが推薦したのか」


タツヨが言った。


「はい。アメヨコの時に一緒に仕事させてもらった時の印象が強烈だったので……迷惑でしたか?」


「迷惑なもんか」


タツヨが笑った。 


「船旅だって言うし面白そうだから来たよ」


「よかった」

ジャスパーは少し表情を緩めた。


「ふろむ・えーのオルソンさんに強いパーティーを推薦してくれと言われて、真っ先にウロボロスさんが浮んだので」


リュウジィはふと、三人しかいないことに気がついた。


「そういえば、5人いるって言ってなかったっけ」

 

ジャスパーの顔が、ほんの少しだけ曇った。


「……結局、二人は辞めちまいまして」


「そうか」


「色々ありましたよ」

ジャスパーは苦笑して頭を掻いた。

「今は三人です。三人で気紛れな旅団です」

 

それ以上は聞かなかった。ジャスパーも深くは語らなかった。そういうことはどこにでもある。リュウジィには何となくわかった。

 

タツヨがアミリに向かって

「今回も支援頼むぞ」と言うと、アミリはフードの奥で微かに頷いた。口元が少しだけ動いたが、声は出なかった。タツヨはそれで十分だというように、また前を向いた。

 

桟橋の端には、もう二組の一行が固まっていた。一組は重装備で揃えた精鋭然とした面々、もう一組はそれとは対照的な、落ち着いた雰囲気の一団だった。どちらも人数はそれぞれ5人。立ち居振る舞いに隙がなく、装備で一目でわかる。


「Aランクパーティーか」


タツヨが低く言った。


「みたいだな」

リュウジィがチラッと視線む向けた。


今度はあちらから視線が飛んできた。こちらを一瞥し、値踏みするような目つきになった。

 

しばらくして、重装備の一団から一人が歩いてきた。がっしりとした体格の男で、顔には横一文字の傷があった。腕を組んだまま、こちらを見下ろすように立つ。


「おい」


「なんだ」


タツヨは空を見上げたまま答えた。


「お前ら、ランクいくつだ」


「Eだ」

 

男が鼻で笑った。


「Eと、Cと。護衛依頼ってのはな、実力で組む相手を選ぶんだよ。依頼人の命がかかってんだ。なんで俺たちがこんな低レベルと同じ船に乗らなきゃいけないだよ。邪魔すんなよ雑魚ども」


あっ!この人死んだ……

ジャスパーがそんな顔をした。


タツヨはゆっくりと立ち上がった。穏やかな顔のままだった。


「なるほどな」

 

タツヨが神速の一歩で踏み込んだ。右腕が、予備動作なしに伸びた。踏み切った瞬間に体が宙に浮き、そのまま右の拳が男の顔面を捉えた。スーパーマンパンチ。


ゴキッィィィィン!


もの凄い音がして、男は桟橋の板を砕きながら三メートル近く吹き飛び、うつ伏せのまま動かなくなった。

 誰も声を上げなかった。


タツヨは重装備の一団の中にいた、ローブを着ている女に向かって言っう。


「おい!姉ちゃん魔法使いだろ?ほら、死にかけてるぞ回復させろよ」


一団の奥で、青ざめた女が小走りで来て、急いで震える手で杖を構えた。光が男に降り注ぐ。男がうめき声を上げ、ゆっくりと身を起こしはじめた。顎の骨が戻る鈍い音がした。


「うっうううっ!」


うめき声を上げつつ男がゆっくり立ち上がる。


その瞬間タツヨは再び動いた。今度は右の拳を、フルプレートの鎧の心臓の部分へ打ち込んだ。


ガキィッッッッン!


鎧などまるで無意味とばかりに体の芯を貫くような一撃。男のその巨体は5メートルほど飛ばされて、崩れ落ちた。


「床に転がる男を一瞥し、まるで落ちたゴミを指摘するような、温度のない目を向けた。そして魔術士の女に向かって


『早く回復させないと、死んじゃうよ?』」


女は額から汗を流し唇を震わせながら、もう一度杖を向けた。光が降り注ぐ。男がまた息を吹き返す。膝が持ち上がり、立とうとする。

 

タツヨはそれを待った。

 

男が立ち上がったその瞬間、一気に距離を詰め、ジャンピングアッパー、拳が男の顎を下から跳ね上げた。


バゴォォォッン!


男の体が垂直に浮き、首があり得ない方向に曲がり、吹き飛んで、そのまま白目を剥きながら仰向けに落ちた。。


そしてタツヨがまた女に向かって言う。


「回復はよう!死にかけてるよ」


魔術士の女は涙目になりながら、また死にかけてる、その男に回復魔法をかけた。


タツヨがまた動こうとした瞬間にもう重装備一団の二人が割って入った。


一人はデカい盾を持ち、一人はやや幅広い剣を構えてる。


二人とも震えてる。


「もう勘弁してやってくれよ」


タツヨは二人の後ろに少し距離を取って立ってる男が気になった。


重装備一団の仲間であろうその男は褐色の肌に中性的な顔立ち、何より動きやすさを、徹底的に重視した薄い鎧、そして武器は何も持ってなかった。


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