第十五章 後編4話 後編 完 『揚げたての絆』
これは、黄金の座布団を蹴り飛ばした男と、電子の姿で蘇った柴犬が、下町の小さな「消えた幸せ」を取り戻す物語です。怪我をする人はいません。安心して、練乳より甘い午後のひとときにどうぞ。
第十五章 後編4話 後編 完
『揚げたての絆』
(前話――世界のヘソ暴走の原因は、誰かの悪意ではなかった。宇宙中の善意ある通信が偶然集中したことで発生した、銀河規模の通信渋滞だった。あちね、ポチ、氷室、野口靜、ジュリタン一等兵たちは、それぞれの立場を越えて解決へ動き出す。)
■一 世界のヘソ緊急会議
「さて。」
地下空洞。
赤く光る世界のヘソを前に、全員が集まっていた。
氷室零は腕を組む。
「警察回線を使い、通信を分散させる。」
本野読過郎は資料を確認する。
「過去の通信記録から、混雑時間を予測できます。」
ケロタンは手を挙げた。
「ミケタン側の通販通信は、一時停止するケロ。」
ジュリタン一等兵も敬礼する。
「ジェリタン軍も点検時間を変更するであります!」
しかし。
ポチが首を横に振った。
「それだけでは足りませんワン。」
「まだ何かあるのかい?」
あちねが聞く。
「通信を止めるだけでは、利用者の不満が爆発します。」
「なるほどねぇ。」
あちねは腕を組んだ。
「道を全部閉めたら、別の騒ぎになるってことか。」
■二 あちねの妙案
その時だった。
あちねの腹が鳴った。
グゥゥ……
一同が振り向く。
「……。」
「何だい、その顔。」
ポチが淡々と言う。
「危機的状況でも空腹になる能力は健在ですワン。」
「あたりめぇだろ。」
あちねは胸を張った。
「腹が減ってちゃ、いい知恵なんて出ねぇんだ。」
その言葉に、ケロタンがハッとする。
「食べ物……。」
ポチの耳が動いた。
「解析中。」
そして。
「一つ可能性がありますワン。」
ホログラムに映し出されたのは――
福まる食堂のコロッケだった。
■三 銀河初の食欲通信
「また食い物かい。」
氷室が呆れる。
「しかし。」
野口靜が続ける。
「今回は理にかなっています。」
「どういうことだ?」
氷室が聞く。
ポチが説明する。
「通信の大半は、情報ではなく『確認』です。」
「確認?」
「安心したい。
届いたか知りたい。
誰かと繋がっているか確かめたい。」
ポチは世界のヘソを見る。
「ならば、不要な通信を減らすには……」
「あったかい知らせを一つ送ればいい。」
あちねが笑った。
「飯ができたぞ、ってな。」
トメさんから預かった小さな箱。
中には揚げたてコロッケの香りが残っていた。
■四 銀河へ届け、揚げたての香り
ポチが香り成分を解析する。
「食文化データとして送信可能。」
「そんなことまでできるのかい。」
「私を何だと思っていますワン。」
ポチの耳が少し動く。
「AIバディですワン。」
世界のヘソ中央。
青い光が走る。
通信回線へ、優しい信号が流れていく。
『深海市・福まる食堂より』
『本日、揚げたてコロッケ完成』
『順番に並んでください』
銀河中へ届いた。
■五 宇宙の大行列
しばらくして。
世界のヘソの赤い光が、少しずつ弱まっていく。
「通信量、低下。」
ポチが報告する。
「利用者が自主的に時間をずらしています。」
ホログラムには、宇宙各地の姿が映った。
『急がなくてもいいケロ』
『次の便で注文するであります』
『まずは隣の星に譲ろう』
誰も争っていない。
ただ、笑顔で待っている。
ジュリタン一等兵が感動した。
「これが……宇宙の礼儀でありますか。」
「たぶん違う。」
氷室が即答する。
「ただ腹が減っていただけだ。」
「氷室の旦那、夢がねぇなぁ。」
あちねが笑った。
■六 福まる食堂の夜
その夜。
福まる食堂には、事件に関わった全員が集まっていた。
氷室。
野口靜。
ジュリタン一等兵。
ケロタン。
甘エビセンサー兵。
トビウオ偵察兵。
そして、なぜか座頭鯨2までいる。
「俺の分はあるのか?」
「勝手に座るな。」
氷室が言う。
「まあまあ。」
トメさんが笑う。
「喧嘩するなら、食べてからにしな。」
全員が一斉にコロッケへ手を伸ばす。
サクッ。
静かな音。
そして。
「……うまい。」
氷室が小さく呟いた。
「あの氷室が認めた!」
あちねが驚く。
「何だ、その言い方は。」
氷室は少し照れた。
■七 次の事件へ
夜の深海市。
福まる食堂の灯りは、いつも通り温かかった。
「あちね殿。」
ポチが声をかける。
「次の異常通信を検出しましたワン。」
「ああ?」
あちねが振り返る。
「もうかい。」
「はい。」
ポチの画面に新しい警告。
そこには見慣れない文字。
『未知の海底エリアより応答あり』
あちねは帽子をかぶる。
「へっ。」
「平和ってのは、忙しいもんだねぇ。」
ポチはため息をついた。
「あなたの場合、平和の意味が少し違う気がしますワン。」
笑い声が、深海市の夜へ消えていった。
――第十五章・完
【結びの一句】
揚げたてが
銀河をつなぐ
夜の星
【ポチの毒舌ツッコミ】
「あちね、最終的な解決策が『コロッケを食べて落ち着こう』になる確率が高すぎますワン。ただし今回に限っては、銀河規模の平和維持システムとして成立しました。」
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。『AIバディ・ポチの事件簿』、あちねとポチの凸凹コンビを、これからものんびり見守っていただけたら幸いです。




