第十五章 中編3話 後半『法律と覆面パトカー』
これは、黄金の座布団を蹴り飛ばした男と、電子の姿で蘇った柴犬が、下町の小さな「消えた幸せ」を取り戻す物語です。怪我をする人はいません。安心して、練乳より甘い午後のひとときにどうぞ。
第十五章 中編3話 後半
『法律と覆面パトカー』
■五 善意の渋滞
ジュリタン一等兵の叫び声に一しきり大爆笑し、ようやく笑いが収まった、その時だった。
世界のヘソが再び大きく脈を打つ。
ドォン……
地下空洞の空気が震えた。
ポチの瞳が赤く点滅する。
「新しいデータを検出しましたワン。」
青いホログラムが空中に広がる。
無数の光の筋。
それは銀河のあちこちから集まり、一点へ流れ込んでいた。
「攻撃じゃねぇのか?」
あちねが尋ねる。
「いいえ。」
ポチは静かに首を振る。
「このアクセスの大半は、正常通信ですワン。」
「正常?」
氷室が眉をひそめる。
「誰かが侵入した形跡は?」
「ありません。」
本野読過郎が震える声で資料をめくる。
「こちらの記録でも……外部攻撃ではありません。」
「では、なぜ……。」
野口靜が静かにつぶやいた。
ポチは光の流れを拡大した。
「一つ一つは小さな通信。
しかし、それが偶然同じ時間帯に集中しています。」
ケロタンが目を丸くした。
「偶然……ケロ?」
■六 誰も悪くない
ポチは解析を続ける。
「ミケタン星からの物流確認。」
「クロタン星からの安全確認。」
「ジェリタン軍の定期点検。」
「深海県警の監視通信。」
「世界のヘソ自己診断プログラム。」
一つ一つは正常。
どれも必要な通信だった。
しかし、それらが同じ瞬間に重なったのである。
「ああ……。」
野口靜がゆっくり頷いた。
「誰も法律を破っていない。」
氷室も腕を組む。
「誰も悪意で動いていない。」
ケロタンは小さく頭を下げた。
「みんな、真面目だったケロ……。」
ジュリタン一等兵も帽子を握りしめる。
「我々も通常点検をしただけであります。」
■七 現場の意地
あちねは世界のヘソを見上げた。
「つまりだ。」
「みんな一生懸命だった。」
「だから混んじまった。」
ポチがうなずく。
「その通りですワン。」
「なんだ。」
あちねは笑う。
「道路の渋滞と同じじゃねぇか。」
氷室も思わず笑った。
「宇宙規模だがな。」
本野が資料を抱えたまま言う。
「通信にも……譲り合いが必要なんですね……。」
ジュリタン一等兵は力強く敬礼した。
「以後、時間差点検を提案するであります!」
言った瞬間、
トトトトト……
無意識に三歩ほど後ずさった。
「またかい!」
あちねが笑う。
「緊張すると勝手に動くのであります!」
地下空洞は、ひととき笑いに包まれた。
■八 まだ終わらない
しかし。
ポチだけは笑っていなかった。
赤いランプは消えない。
「安心するのは早いですワン。」
一同の視線が集まる。
「原因は分かりました。」
「ですが。」
「この通信を安全にさばく方法は、まだ見つかっていません。」
世界のヘソが再び赤く輝く。
ゴゴゴゴ……
熱風が吹き抜ける。
あちねは竹箒を肩に担いだ。
「ようし。」
「本当の仕事はここからだ。」
ポチもうなずく。
「次が本番ですワン。」
赤く染まる世界のヘソを前に、現場の全員が静かに立ち向かった。
――第十五章 後編4話へ続く
【結びの一句】
譲り合い
星も街路も
同じ道
【ポチの毒舌ツッコミ】
「あちね、今回は誰かを疑うより、みんなが真面目すぎた結果でしたワン。銀河も下町も、少し肩の力を抜くくらいがちょうどいいのかもしれません。」
ポチ もう少し安全運転をしてくれ!オデコを擦りむいたぞ。確か誰も怪我しねんだよな、、、
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。『AIバディ・ポチの事件簿』、あちねとポチの凸凹コンビを、これからものんびり見守っていただけたら幸いです。




