↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『AIバディ・ポチの事件簿 〜エリートを捨てた男と柴犬ポチ、AIキャロルの優しい正義〜』3話or4話のオムニバス SFコメディファンタジー  作者: 曲木 六円


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
55/65

第十四章 後編 完『スターブリッジJr大混雑』

これは、黄金の座布団を蹴り飛ばした男と、電子の姿で蘇った柴犬が、下町の小さな「消えた幸せ」を取り戻す物語です。怪我をする人はいません。安心して、練乳より甘い午後のひとときにどうぞ。


第十四章 第3話(後編・完):『仕様変更! チャーハン通せんぼ』


【あらすじ】 補給不足という切ない事情の上に成り立っていたスターブリッジJrの大混雑。あちねの竹箒とチャーハンの香りが、関所に立てこもる兵士たちの心をほどいていく。誰も傷つけない現場の意地が、銀河の物流を取り戻す。


【本文】


「あちね殿、正面に動きあり」


ポチCの警告と同時に、関所の詰め所からガチャガチャと不揃いな足音が響いてきた。現れたのは、サビだらけの旧式ヘルメットを被った一匹の小さな兵士――「星 of カービン二等兵」だった。頬はこけ、手にした銃はガタガタと震えている。


「そ、そこの者ども、止まれ! 通行証がなければ関所は通さんぞ……」


言い終わらないうちに、二等兵の腹がぐぅぅぅと盛大に鳴った。カービン二等兵は真っ赤になって俯く。


「へっ、腹の虫の方が正直だぜ、坊主」


あちねはニヤリと笑うと、重箱の蓋を思いきり開け放った。黄金色のチャーハンの香りが、湿った関所の空気を一気に塗り替える。


「な……この、この匂いは……!」


カービン二等兵の目に、みるみる涙が溜まっていく。


「食いな。誰も見てねえよ」


あちねが差し出したレンゲを、二等兵は震える手で受け取った。一口頬張った瞬間、彼はその場にへなへなと座り込み、大粒の涙をボロボロとこぼした。


「う、美味い……こんな、こんな温かい飯、何日ぶりだ……!」


「隊長ォォ! 私にも、私にもください!」


その様子を見ていたマヨネー・ズッコケ監察官が、尻餅をついたまま焼きそばの重箱に飛びついた。マヨネーズをたっぷり絡めた麺をズルズルと啜り込み、監察官の目からも涙が溢れる。


「う、うまい……! こんなもの食わされたら、私はもう、あちね殿の言うことなら何でも聞いてしまいますよ……!」


「監察官、買収完了、はやっ」


ポチCが淡々とツッコミを入れた。


その時だった。制御盤にへばりついていた緑色のミドリンが、チャーハンとマヨネーズの匂いに誘われるように、ぷるん、ぷるんと震えながらにじり寄ってきた。


「ぷる……その匂いは反則ぷる……」


「へっ、お前も腹が減ってんだろ」


あちねは竹箒をひょいと構え直すと、粘着質の体をそっと、しかし確実にすくい上げた。


「ふんぬぅぅっ!」


バサッ、と豪快な一掃きで、ミドリンの体は制御盤から綺麗に引き剥がされ、広場の隅にぽてんと転がった。回路への物理占拠が解け、制御盤に本来の光が戻る。


「あちね殿、ゲートロジックへのアクセス経路が開通しました。今です!」


ポチCが即座にハッキングを開始する。だが、ただ元に戻すだけでは終わらせない。


「せっかくだ、ポチ。ちょいと仕様変更といこうぜ」


「了解です、あちね殿。関所システムの用途を、一時的に『チャーハン配給基地』へ再定義します」


ポチCの操作で、関所の巨大スクリーンに「本日限定・炊き出しにつき通行自由」という不格好な文字が映し出された。立ち往生していた船の乗組員たちがぞろぞろと降りてきて、あちねの重箱に群がる。


「うおおお、久しぶりの飯だぁぁ!」


「みんな食ってください!」


カービン二等兵がすっかりペロペロに更生し、監察官と一緒になって列整理をし始める始末だった。竹箒一本と重箱二つで、殺伐とした関所は瞬く間に炊き出し会場へと様変わりしていく。


「……にしても、腹を空かせた兵士に、逃げ場のない監察官か」


あちねは腕を組み、静まり返った制御盤の奥をちらりと見やった。


「ポチ、さっきの『歪んだ人事』ってやつ、まだ何かわかってねえのかい」


「詳細は不明です。ただ――」


ポチCの声が、わずかに硬くなった。


「この関所の補給ルートを本来担当していたはずの、ある部隊の名が、直近の人事記録から意図的に削除されている痕跡があります。誰が、何のために消したのか。それは、あちね殿。まだ、私たちの知るところではありません」


あちねは黙って、遠い宇宙の彼方を見つめた。白い軍服の男の顔が、ふと脳裏をよぎる。


だが今は、それを問い詰める時ではなかった。


「へっ、まあいいさ。腹減ってる奴に飯食わせる、それだけで充分だ」


あちねは竹箒を担ぎ直すと、笑顔で頬張る兵士たちの輪の中へ、練乳コーヒーの缶片手に戻っていった。関所には、ようやく賑やかな笑い声とチャーハンの香りが満ちていく。


ほどなくして、カエルッチから通信が入る。


「やったケロ! ジェラート空輸ラインが復旧したケロ! 抹茶ジェラート、深海市へ出発したケロォォ!」


「へっ、よかったじゃねえか。」


あちねは照れくさそうに鼻をこすった。


小さな依頼から始まった宇宙の大混雑は、いつもの通り、誰も傷つけずに、そして少しだけ切ない余韻を残して幕を閉じた。


(第十四章・完)


【結びの一句】


星の門 開けてみせよう チャーハンで


【ポチの毒舌ツッコミ】


「あちね、具材のネギより、あんたの発想のほうがよほど規格外です。ですが……今回は、その仕様変更に救われた者が大勢いました。」



---





最後まで読んでいただき、ありがとうございます。『AIバディ・ポチの事件簿』、あちねとポチの凸凹コンビを、これからものんびり見守っていただけたら幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。