第十三章 後編完『深海市・利権強奪パニック』 :『現場の箒が紡ぐ、ペロペロ和解の大団円』
これは、黄金の座布団を蹴り飛ばした男と、電子の姿で蘇った柴犬が、下町の小さな「消えた幸せ」を取り戻す物語です。怪我をする人はいません。安心して、練乳より甘い午後のひとときにどうぞ。
:第十三章『深海市・利権強奪パニック』
:[第4話]第十三章 後編 完:『現場の箒が紡ぐ、ペロペロ和解の大団円』
【あらすじ】
通信の心臓部「世界のヘソ」を巡る激闘もついに佳境。五感が入り乱れる暗闇の地下空間で、あちねの「現場の意地」がアギトの若きフィクサーと真っ向から激突する。
【本文】
ジャァァァグワァァン! カカンカンカン!!
ポチが逆流させた「チャーハン爆音音波」と、氷室警視の連れてきた警察隊の怒号が入り乱れ、福まる食堂の地下は完全なるカオスと化していた。
「おのれ……! どこだ、便利屋あちね! どこにいる!」
座頭鯨2は、凄まじい殺気を放ちながら本物の仕込み杖を構え、完全に方向を見失って虚空を睨みつけている。超聴覚をチャーハンの音で潰され、焦燥のあまりその呼吸は乱れていた。先代の影に縛られ、「早く成果を上げねば」という若き最高幹部ゆえの焦りが、その刃を狂わせている。
あちねは、暗闇の中で泥泥の靴を一歩踏み出した。
「おい、アギトの若旦那。そんなに焦らなくても、俺は逃げや positioningよ」
あちねは懐から、愛用の高級香水『エゴイスト』を取り出すと、自らの頭上にシュッと一吹きした。
ラグジュアリーな自己愛の香りが、地下の湿った空気の中に一気に広がる。あえて自らの位置を敵に教える、現場の男の粋な挑発だ。
「そこかァァァッ!!」
匂いを察知した座頭鯨2の体が、弾かれたように跳んだ。
先代を超えるための、すべてを賭けた必殺の一撃。仕込み杖の鋭い切っ先が、あちねの喉元めがけて一直線に突き出される。
――だが、あちねはすでに動いていた。
泥泥の靴でしっかりと地下の滑りやすい床を捉え、間合いを盗む。そして、事務所から無意識に持ってきてしまっていた、あの泥泥の**「竹箒」**を両手でガシッと構えた。
「現場の意地ってやつを、見せてやるよ!」
バシィィィィンッ!!
あちねが放った泥臭い物理技――竹箒の豪快な薙ぎ払いが、座頭鯨2の持つ本物の仕込み杖の側面を完璧に捉えた。
凄まじい衝撃音とともに、鋭い真真剣が虚空を舞い、光ファイバーの壁に突き刺さる。
あちねの技は、誰も傷つけず、ただ安全に敵の戦意だけを喪失させる「下町流の成敗」だった。
「な……私の、負け、だと……」
武器を失い、その場に膝をつく座頭鯨2。
「隊長ォォォッ!」と甘エビセンサー隊長がエビ反りで駆け寄り、飛魚偵察兵も配管から落ち、やはりクジアンラッキー曹長が「もう無理です……」と下敷きになってのたうち回る。
「そこまでだ、全員拘束する」
氷室警視が冷徹に告げようとした、その時だった。
「待ちな、氷室。こいつらの処分は、俺に預けな」
あちねは竹箒を肩に担ぎ、フッと笑った。
「アギトの若旦那。先代の影だか何だか知らねえが、肩肘張って突っ走ると、美味いもんの味も分からなくなるぜ」
数分後。
福まる食堂の一階、カウンター席。
そこには、警察の監視のもと、並んで座る座頭鯨2とご意見無用軍団の姿があった。彼らの前に差し出されたのは、親父さんが作った出来立ての、湯気が立つ熱々のラーメン。
「……ふん、裏社会の頂点に立つ私が、このような下町の――」
座頭鯨2は悪態をつきながらも、スープを一口、口に運んだ。
その瞬間、彼の目から大粒の涙がポロポロと溢れ落ちた。
「う、美味い……! なんだ、この体に染み渡るような優しさは……!」
「隊長! ラーメンの美味さに心が洗われますな!」と甘エビも、飛魚も、クジアンラッキーも、皆一様に涙を流してラーメンを貪り食う。
先代の影に縛られて焦っていた座頭鯨2の頑なな心が、下町の熱いスープによって優しく包み込まれ、ペロペロと更生していく瞬間だった。
「やれやれ、一件落着だな」
あちねは激甘コーヒーを啜りながら、その様子を満足げに眺める。
「不整合な解決ですが、下町の平和は守られました」
ポチの目が、いつもの穏やかな緑色に戻る。
深海市下町に、いつも通りの「42度の安らぎ」が戻ってきた。湯気の向こうで笑い合う悪党たちと、それを見守る便利屋。
大パニックの結末は、なんとも泥臭く、そして温かい人情の味の中にバシッと締めくくられるのだった。
【あっちゅ寝太郎、談】。
「涙して、武器をラーメン、持ち替える」
(どんな利権を奪うより、福まる食堂のラーメン一杯の方が、よっぽど価値があるってことでさぁ!)
【ポチの毒舌ツッコミ】
「アギト強奪部隊の更生スピードは、我が予測演算を遥かに上回る『秒速』でした。人間の胃袋ハッキング、恐るべしです。あちね、これにて第十三章は、完璧に『完』ですね」
(第十三章 後編 一応完)
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。『AIバディ・ポチの事件簿』、あちねとポチの凸凹コンビを、これからものんびり見守っていただけたら幸いです。




