第十三章 中編 3話『深海市・利権強奪パニック』 :『福まる食堂の攻防、ハッキングと音波の迷宮』
これは、黄金の座布団を蹴り飛ばした男と、電子の姿で蘇った柴犬が、下町の小さな「消えた幸せ」を取り戻す物語です。怪我をする人はいません。安心して、練乳より甘い午後のひとときにどうぞ。
第十三章『深海市・利権強奪パニック』
第十三章 中編第3話:『福まる食堂の攻防、ハッキングと音波の迷宮』
【あらすじ】
舞台は深海市下町の「世界のヘソ」へ。福まる食堂の地下に眠る光ファイバー結節点へと侵入した座頭鯨2一味。下町の、そして国家の通信網を闇に落とすまいと、あちねとポチが地下の迷宮へと突入する。
【本文】
「うおおお! 待て待てェイ! 世界のヘソは渡さんぞ!」
福まる食堂の地下に広がる、薄暗い光ファイバー結節点。
あちねとポチが滑り込んだとき、地下空間はすでに異様な熱気に包まれていた。
追ってきた座頭鯨2と、その腰巾着である甘エビセンサー隊長、なぜかボロボロのクジアンラッキー曹長までが息を切らせて立っている。窓から落ちたはずの飛魚偵察兵も、なぜか配管の上から「トビウオ!」と顔を出していた。
「ポチ、デジタルハッキングで奴らの目を誤魔化せ! 視覚偽装(画面フェイク)だ!」
あちねが走りながら指示を飛ばす。
「了解。敵の網膜スキャンをハッキング。偽の座標データを展開します」
ポチの目から幾何学的な光が走り、空間に何重ものホログラムの壁が立ち上がった。普通の人間の目なら、これで完全に方向感覚を失うはずだった。
しかし――。
「フン……。無駄だと言ったはず。私を誰だと思っている!」
座頭鯨2は不敵に笑うと、眼鏡を完全に投げ捨てた。
「目が見えない分、私は音と匂いで空間を補足する! デジタルの絵空事など、私の『現場の勘』には一切通用せんのだ!」
不整合なピンチの到来だった。デジタル偽装が、極度の近眼と超聴覚の持ち主には1ミリも通用しない。座頭鯨2は音だけであちねの正確な位置を割り出し、今度こそ本物の「仕込み杖」を鋭く引き抜いた。
「不整合を確認」と、ポチのスピーカーから警告音が鳴る。「ターゲットはアナログ特化型のバグ個体です。即座にプロトコルを『ローテク攪乱』に切り替えます!」
ポチは即座に機転を利かせた。地下に張り巡らされた古い配管のネットワークにアクセスし、湯沸かし器の破裂しそうな蒸気音を**ゴォォォッ!!**と大音量で増幅。さらに、一階の厨房で福まる食堂の親父が猛烈な勢いで炒めている「チャーハンの鍋の音」をマイクで拾い、逆流させて地下空間に爆音で響かせた。
ジャァァァグワァァン! カカンカンカン!!
「な、何だこの美味そうな音と匂いは!?」
超聴覚が災いした。座頭鯨2の耳に、爆音のチャーハンサウンドが直撃する。
「隊長! チャーハンの音波で索敵能力が狂わされます! おまけにスープの匂いまで!」
甘エビセンサー隊長がエビ反りで耳を押さえてのたうち回る。
そこへ、暗闇の奥からカツカツと規則正しい靴音が響いた。
「そこまでだ、アギトの諸君。下町の通信利権は、警察庁が保護する」
最新鋭のAI「アイ・オブ・ゼウス」の論理指示を受け、冷徹に現場を支配しようとする氷室警視の乱入である。
「氷室!? お前まで何しに来やがった!」とあちねが叫ぶ。
「フハハハ! 警察め、まとめて相手をしてやる!」
座頭鯨2が激しい音響の中で仕込み杖をブンブンと振り回し、その風圧で飛魚偵察兵が配管から「トビウオォォ!」と叩き落とされ、またしてもクジアンラッキー曹長の上にドスンと落ちた。
「……うぐっ、なぜ、なぜ落とし物がすべて俺に……」と潰れる曹長。
ハイテクAIの冷徹な数式、ポチの放つチャーハンの爆音、そして座頭鯨2の野生的な勘が暗闇の地下で激突する。
通信の心臓部「世界のヘソ」を巡る大混雑は、いよいよ誰にも制御できない混沌へと突き進んでいく!
【あっちゅ寝太郎、談。】
「チャーハンの、音に惑うや、座頭鯨」
(どんなに鋭い耳を持っていても、下町の美味い音には勝てやせん。お腹が鳴ったら負けでさぁ!)
【ポチの毒舌ツッコミ】
「親父さんのチャーハンを煽る技術は、周波数にして20キロヘルツ以上の芸術的ノイズです。氷室警視の最新AIも、この泥臭い音波データには計算が追いついていない模様。あちね、次で一気に決めますよ!」
(第3話 完 / 第4話・後編 完へ続く)
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。『AIバディ・ポチの事件簿』、あちねとポチの凸凹コンビを、これからものんびり見守っていただけたら幸いです。




