第十二章 1話:『あちねは頼りない!? 海保とフェリーの合同依頼と、茹デタン准将の生臭い罠』
これは、黄金の座布団を蹴り飛ばした男と、電子の姿で蘇った柴犬が、下町の小さな「消えた幸せ」を取り戻す物語です。怪我をする人はいません。安心して、練乳より甘い午後のひとときにどうぞ。
第十二章 1話:『あちねは頼りない!? 海保とフェリーの合同依頼と、茹デタン准将の生臭い罠』
【あらすじ】
銭成湯の助の超豪華銭湯『カエルの湯』を襲った熱湯パニックを、黄金の印籠(USB)で見事に解決した亜那あちねとポチ。しかし、事件は下町の路地裏だけに留まらなかった。ゆでダコ星人の魔の手は、すでに深海市の美しい海全体へとハッキングの吸盤を伸ばしていたのである。
そんな中、探偵事務所のドアを叩いたのは、国家の海を守る組織と、下町の巨大インフラのトップ二人であった……。
■ 探偵事務所への突撃と、頼りない男へのスルー
初夏の爽やかな風が吹き抜ける『亜那あちね探偵事務所』。
主である亜那あちねは、イギリス紳士さながらに七三に分けた髪を撫付け、高級香水『エゴイスト』の渋い香りを漂わせながら、角砂糖てんこ盛りの特製激甘コーヒーを優雅に啜っていた。
その時、事務所のドアが悲鳴を上げるような音を立ててバッと開き、二人の威厳ある人物が現場に飛び込んできた。
一人は、白い制服の胸元に無数の勲章を光らせた、第七管区海上保安本部のトップ**【七海本部長】**。
もう一人は、深海市民の足である『深海フェリー』の高級スーツを着こなす**【浅瀬社長】**であった。
「あちね殿! 大変だケロ! いや、大変な不整合が発生したニャ!」
二人は血相を変えて叫んだ。聞けば、深海市の海がゆでダコ星人たちのせいで泥泥のタコ湯のようになり、フェリーのスクリューにタコの吸盤が詰まって大パニックになっているという。
あちねはコーヒーをずずっと啜り、自慢のジージャン(Gジャン)をバサリと羽織ると、愛用の竹箒をバシッと小脇に抱えてニヤリと笑った。
「へっ、海保の本部長にフェリーの社長様がそろってドブ板の便利屋に泣きつくとはな。理屈じゃねえんだよ、海の掃除なら、この俺の竹箒が――」
「いや、あちね殿、君には用はないケロ」
七海本部長があちねの言葉をスパッと切り捨てた。
「そうニャ、あちね殿ではいささか頼りないニャ。我々が頭を下げに来たのは、世界のヘソを掌握する天才AIポチ殿と、高い機動力を誇るアマケロロボ軍団の皆々様だニャ!」
浅瀬社長もあちねを完全スルーして、部屋の隅の用務員カートへとすがるような目を向けた。
「あん? 俺が頼りないだと?」
あちねは激甘コーヒーを喉に詰まらせそうになり、プライド形無しで目が点になった。
その足元で、カートの液晶画面がピコピコとニヤリと言いたげに明滅を始める。柴犬ポチのドット絵が、鋭いジト目を輝かせて文字を躍らせた。
『お留守番で行水でもしてなワン、あちね。七海本部長、浅瀬社長、依頼内容は海底のリュウグウベースにいる【茹デタン准将】と【ユデタン軍団】にお灸をすえろ、で間違いないワン? AIポチC、水陸両用(汗)モードへ1秒で仕様変更完了だワン!』
■ 出撃、水陸両用ポチCとアマケロ潜水艦隊
深海市の港には、海保の巨大な巡視船と、深海フェリーの豪華な船体がズラリと並び、この国家規模の超異例な作戦を見守っていた。
あちねが事務所のソファーでいじけて激甘コーヒーを啜っている間、現場の指揮権をガチッと握ったポチは、愛車『SAI・ポチC』のシステムを起動。フロントの柴犬の顔があしらわれたフードをパカッと閉鎖し、車体の横から「水陸両用(汗)」と書かれたトホホな簡易バラストタンクを膨らませた。
「ゲロゲロ! ポチ親分に続くケロ! 茹デタン准将をスクラップにするケロ!」
銭成湯の助から特製のシュノーケルと足ヒレ(○万円相当)を支給された緑色のアマケロ販促ロボ軍団が、カチカチとサーボモーターを歓喜に鳴らしながら、ポチCの周りをカエル泳ぎで囲む。
「ポチ殿、アマケロ軍団、我が国の航路の安全を頼んだケロ!」
七海本部長と浅瀬社長が敬礼を送る中、水陸両用(汗)のポチCは、ドッパーーーンと派手な水しぶきを上げて深海市の海へとダイブした!
■ 茹デタン准将の生臭い襲撃と、バイバイ墨ィ〜
海中の暗がりに潜航していくポチCとアマケロ軍団。すると、前方の海底に、無数のタコの吸盤が電子回路のように怪しく明滅する、ゆでダコ星人の本拠地**【リュウグウベース】**が泥泥とした姿を現した。
その時、ベースのハッチが開き、メタリックなタコ型の宇宙服を着た巨漢――リュウグウベースの責任者**【茹デタン准将】**が、配下のユデタン軍団を引き連れてヌッと泳ぎ出てきた。
ちなみに、ユデタン一族の中でも将官以上の地位にしか許されない名乗りには「茹」の漢字を一文字背負う伝統があるという。地球人からすれば思いきり「茹でダコ」の正体が透けて見える命名規則なのだが、本人たちにそれを指摘する勇者はまだ現れていない。
「ちゅうちゅう! 地球の海を全部タコスープにする計画を邪魔するAIめ、吸盤からみつき攻撃を喰らうちゅう!」
茹デタン准将の合図とともに、ユデタン軍団の無数の生臭い触手が、ポチCの車体やアマケロ軍団のサーボモーターへピトピトピトッと容赦なく絡みついてきた!
『ぬぬぬっ、完全なる不整合な締め付けだワン! 車体の水密プロトコルが悲鳴を上げているワン!』
ポチのジト目が液晶画面で烈しく赤く点滅する。アマケロ軍団も「ゲロゲロ! 動けないケロ! モーターが焼き切れるケロ!」と大パニック。
だが、ポチは冷静にダッシュボードの【黄金の印籠(USB)】のハッキング電波を起動。
『甘いワン、准将。世界のヘソの光ファイバー経由で、お前らの宇宙服の吸盤の温度を「カエルの湯直伝・熱湯42度」へ強制仕様変更してやるワン!』
システムがバチッと書き換えられた瞬間、からみついていた吸盤からドバドバと42度の温泉熱が噴出した。
「タコ熱ちちちち! お灸をすえられたちゅう!!」
茹デタン准将とユデタン軍団は、文字通り真っ赤に茹であがって飛び上がった。
「おのれAIポチ! 覚えていろっちゅう! これでも喰らうちゅう!」
形勢不利と見た茹デタン准将は、最後の悪あがきとばかりに、口から真っ黒な宇宙ナノマシン入りの墨をドババババッ!と大噴射した。海中が一瞬にして一寸先も見えない暗黒の泥泥に染まっていく。
「ちゅうちゅうちゅう! バイバイ墨ぃ〜〜!!」
茹デタン准将はトホホな捨て台詞を残すと、墨のカーテンに隠れてリュウグウベースの奥へと爆速で撤退していったのである。
墨で視界を奪われたポチCの液晶画面の中で、ドット絵の柴犬ポチが、前足で顔の墨を拭うような仕草をしながら、鋭いジト目をピコピコと明滅させた。
『逃げ足だけはジェリタン少佐級に一級品だワン。だが、お灸の効果はバチッと効いているワン。次なる2話では、この墨の不整合をハッキング消去して、リュウグウベースの最深部へ1秒で突入してやるワン!』
海保の巡視船のライトが届かぬ海の底で、ポチとアマケロ軍団の、熱く生臭い海底大決戦の幕が開くのであった。
(2話へ続く)
【結びの一句】
海の底 主役を奪われ 寝る探偵
『あちねは今頃事務所で激甘コーヒーを溢して怒られている頃だワン。准将の「バイバイ墨ィ〜」の成分を1秒で解析して、泥泥の航路をバチッと綺麗に掃き掃除してやるワン!』
【
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。『AIバディ・ポチの事件簿』、あちねとポチの凸凹コンビを、これからものんびり見守っていただけたら幸いです。




