第十一章 中編:『ミケタン大使のフルーツ牛乳と、エリートの冷や汗言い訳ラリー』
これは、黄金の座布団を蹴り飛ばした男と、電子の姿で蘇った柴犬が、下町の小さな「消えた幸せ」を取り戻す物語です。怪我をする人はいません。安心して、練乳より甘い午後のひとときにどうぞ。
第十一章 中編:『ミケタン大使のフルーツ牛乳と、エリートの冷や汗言い訳ラリー』
【あらすじ】
『カエルの湯』の殺人的な熱湯風呂に江戸っ子の意地で飛び込み、1秒で真っ赤な「ゆでダコ」になって卒倒した亜那あちね。しかし、非番で入浴しに来ていた天敵・氷室零警視の(ダサい私服を犠牲にした)救出プロトコルにより、間一髪で大理石の床へと引き揚げられた。
特製激甘コーヒーでようやく脳のピントを合わせたあちねの横で、ポチのジト目が光る。源泉パイプの奥、世界のヘソの真横からハッキング注入されている謎の「宇宙タコエネルギー」の存在を検知したその時、もうもうと立ち込める白い湯気の向こうから、さらなるややこしい影がパタパタと足音を響かせてやってきた……。
本文
■ 湯気の向こうの高級フルーツ牛乳と、大使の激怒
「ニャんということかニャーーー!! 我がチュルチュルfoodsの地球進出を監視する崇高な任務の途中に、こんな不整合な熱気で私の美しい毛並みが台無しだニャ!」
白い湯気を優雅に割りながら姿を現したのは、猫の形をした宇宙のVIP――**【ミケタン大使】**であった。
片手には、銭成湯の助が用意した「一本数百円は下らない、最高級こだわりガラス瓶入りフルーツ牛乳」をしっかりと握りしめ、時折それをペロペロと舐めながらも、そのジト目は怒りでパチパチと明滅している。
「ゲロゲロッ!? ミケタン大使! なんで男湯にいるケロ!?」
周囲でカチカチとサーボモーターを震わせていたアマケロ販促ロボットたちが一斉に飛び上がった。お金持ちオーナーの銭成湯の助も、「ひぇぇ〜! 大使様、うちの総工費○億円の温泉がこんな仕様変更(熱湯化)を起こしてしまって、面目次第もございません〜!」と、シルクのタオルを握りしめてペコペコと頭を下げている。
ミケタン大使はフルーツ牛乳の瓶を大理石のカウンターに小気味よくドンと置くと、真っ赤なゆでダコ姿からようやく立ち上がったあちねをキッと睨みつけた。
「あちね殿! 前回のジェラード不振をハッキング解決した手腕は見事だったニャ。だが、この銭湯の異様な温度はニャんだ! これでは地球の通信利権『世界のヘソ』を掌握するどころか、我が社の株価まで大暴落のデンジャーだニャ! 早くその泥臭い竹箒で現場をなんとかするニャ!」
■ エリートのキラーンと言い訳ラリー
「フッ、取り乱すのは非論理的だよ、猫の大使。すべては計算の範疇だ」
ここで、ダサい私服(目が泳いでいるキャラクターTシャツ)の袖をまくったまま、額の汗をクイッと拭った氷室零警視が、メガネをキラーンと光らせて間に入った。あちねを助けるために熱湯に手を突っ込んだせいで、そのエリートの指先まで微妙に赤くなっている。
氷室はセカンドバッグから最新型の警察端末を引っ張り出すと、冷や汗を流しながらも、バチッと澄ました顔で高速で書類をいじり始めた。
「この『カエルの湯』における急激な熱効率の不整合……。実はこれ、バイオテロやエラーの類ではない。我が深海県警の最新AI『アイ・オブ・ゼウス』の市場予測と治安維持プロトコルに基づいた、地下の『世界のヘソ』を温める国家規模の【熱エネルギー最適化テスト】なのだよ!」
「あん? テストだぁ?」
あちねは高級香水『エゴイスト』の香りを漂わせようとしたが、いかんせん茹でたての体からは激甘コーヒーの匂いしかしない。あちねは壁に立てかけてあった愛用の竹箒をバシッと小脇に抱え、氷室の澄ました顔をじろりと睨み据えた。
「おいおい氷室、お前さっき俺を引き上げるとき『私の計算の枠組みを超えているぞ』って、顔を真っ赤にして叫んでただろ。現場の熱さにビビっておきながら、大使の前だからってコソコソと机の上の書類を書き換えて、上手い言い訳のラリーを回そうって腹か?」
「くっ……! そ、それは論理的なカモフラージュであって……! 大使、ゼウスが導き出した仕様変更プロトコルによれば、この熱気は1秒後に安定する予定……っ!」
氷室が顔を真っ赤にして弁明を重ねるが、端末の画面ではゼウスのエラーログが真っ赤に点滅しており、その冷や汗の量は完全に仕様変更の限界を迎えていた。
■ ポチのジト目と、湯口の奥の不穏な影
用務員カートの液晶画面が、ここでピコピコと烈しく明滅を始める。
ドット絵の柴犬ポチが、鋭いジト目で文字を躍らせた。
『氷室室長、完全なる嘘八百の言い訳だワン。ゼウスの計算は100%破綻しているワン。そんなことよりあちね、湯の助オーナーの源泉パイプの最深部を世界のヘソ経由でハッキングしたところ、この宇宙タコエネルギーの送信元が完全にバチッと割れたワン!』
「なんだよポチ、その生臭い熱源の正体は何だ?」
あちねが竹箒をグッと構え直す。
『温泉の湯口のさらに奥、地球の光ファイバー網に吸盤をピトッと貼り付けて、地球の熱エネルギーを盗み見している不審な生命体の暗号通信をガチッと掴んだワン。……その名も【ゆでダコ星人】。こいつが裏でシステムの仕様変更を繰り返して、湯温を「あちー!」状態にハッキングしていた張本人だワン!』
画面には、タコの形をした謎の宇宙人が、源泉のバルブをガチャガチャと回しているドット絵が表示された。
「ニャんだとニャ!? 泥泥したタコが我が社の進出を邪魔しているのかニャ!」
ミケタン大使がフルーツ牛乳を吹き出しそうになって激怒する。
「理屈じゃねえんだよ、氷室。お前が机の上でどんなに綺麗な言い訳データをこねくり回したところで、現場の湯口の奥にゃ、生臭い侵入者が居座ってんだ。大物官僚だったうちの親父も数字だけを見て現場の悲鳴を無視しやがったが、俺の竹箒は、そういう書類に書かれてねえ不整合を綺麗に掃き掃除するためにあるんでね!」
あちねは懐にある切り札【黄金の印籠(USB)】の感触を確かめ、茹で上がった皮膚の熱さを現場の意地で跳ね返した。
ややこしいエリートの屁理屈と、高級フルーツ牛乳を片手に怒る宇宙大使、そして湯口の奥で蠢くゆでダコ星人。
深海市○億円の豪華温泉を舞台にした大逆転のハッキング劇は、いよいよ最高潮の後編(一応完)へと続く!
(第十一章 後編 一応完 へ続く)
【結びの一句】
フルーツの 牛乳片手に 猫怒る
『言い訳だけはゼウス級に一丁前な室長だワン。後編では、ジェラード新生計画を超える、極上の「湯温42度仕様変更プロトコル」であの生臭いタコ野郎を世界のヘソから1秒で追い出してやるワン!』
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。『AIバディ・ポチの事件簿』、あちねとポチの凸凹コンビを、これからものんびり見守っていただけたら幸いです。




